コロラド州ボルダーにあるスーパー「キングスーパーズ」。店内で発生した銃乱射事件で10人が死亡した。
Courtesy of David Kalish
- アメリカでは銃乱射事件が2020年に比べて約73%増加している。
- こうした事件は伝染病のように広がっていて、1つの事件が同様の事件が再び起こる可能性を高めていると、研究は示している。
- 銃による暴力の研究者らは、次の銃乱射事件を防ぐためにほとんど何の対策もなされていないと指摘している。
2021年が始まってから3カ月半、アメリカでは銃乱射事件が2020年の同じ時期に比べて73%増加している。銃による暴力の研究者らは、新たな事件が同様の事件の火付け役となり、波及効果をもたらしている可能性があると指摘する。
Gun Violence Archiveが公表したデータによると、アメリカでは2021年1月1日以降、これまでに147件の銃乱射事件が起きている。2020年の同時期には85件だった。このデータベースでは、「銃乱射事件」は容疑者を除いて4人以上が撃たれた事件と定義している。
2021年に発生した銃乱射事件は、前の年に比べて死亡者数も多い。Gun Violence Archiveによると、これまでに176人が命を落としている。2020年は92人だった。
「これは病気であり、暴力であり、伝染するのです」と世界保健機関(WHO)のインターベンション・ディベロップメント・ユニットの元責任者ゲリー・スラトキン(Gary Slutkin)博士はInsiderに語った。
「新型コロナウイルス同様、1つの事件がもう1つの事件にとってのリスク因子なのです」とスラトキン博士は付け加えた。
ここ数週間、アメリカでは死亡者を出した銃乱射事件の報道がしばしば、別の銃乱射事件の発生によって中断されている。
3月16日、ジョージア州アトランタ近郊の複数のスパで、アジア系女性6人を含む8人がAR-15で武装した男によって殺害された。その2週間後、コロラド州の食料品店では同じ武器を持った男によって10人が殺害された。
4月15日には、インディアナ州インディアナポリス国際空港の近くにある物流大手フェデックス(FedEx)の施設で、ライフルを所持した男が8人を殺害、複数を負傷させた。
こうした事件のタイミングは偶然ではない可能性を研究は示していると、スラトキン博士は言う。暴力を目にし、それを「正常」と見なすようになればなるほど、自ら暴力を振るう可能性が高まるからだ。
「注目を浴びる銃乱射事件があると、強い模倣現象が起こることが歴史的に分かっています」とテネシー州ナッシュビルにあるヴァンダービルト大学のCenter for Medicine, Health, and Societyのダイレクター、ジョナサン・M・メツェル(Jonathan M. Metzl)博士はInsiderに語った。 「ニュースで1つの事件が報じられると、たくさんの模倣事件が誘発される傾向があるので、人々は波及効果を感じます。1つの事件がもう1つの事件を引き起こし、またそれが次の事件を引き起こすのです」という。
そして「何かをする手段を持っていて、他の人がそれをしているのを見ているギリギリの状態にある人たちがたくさんいるのです」とメツェル博士は付け加えた。
スラトキン博士は「怒りによる銃撃」がここ何十年も増加傾向にある一方で、2020年には新型コロナウイルスのパンデミックが一時的にこの傾向を中断させたことで、ここ数週間の銃による暴力がより衝撃的なものになったとInsiderに語った。
「(コロナ禍で)教会や駐車場、店に人がいませんでした」
「公共の場にいる人が少なかっただけで、再び始まったのです」
2021年3月、アトランタ近郊の複数のスパで銃乱射事件が発生、8人が死亡した。
Reuters/Chris Aluka Berry
コミュニティーの介入と銃規制の強化を専門家は訴える
銃乱射事件は増加しているものの、次の事件を防ぐための対策はほとんど何もなされていないと、銃による暴力の研究者らは指摘する。
スラトキン博士は、銃規制を通じた銃乱射事件への取り組みは政治家の協力に大きく依存していて、自身が運営する組織「Cure Violence Global」では、それをコミュニティーに根付かせることで銃による暴力を減らそうとしているのだと言う。この組織は、暴力に関する議論に耳を傾け、これを食い止めようとするアウトリーチ・ワーカーたちの「割込みネットワーク」を構築するために世界中で取り組んでいる。
こうした"割込み"によって、銃撃事件や殺人事件は40~70%減ったとスラトキン博士は指摘する。しかし、銃乱射事件については、同様のネットワークが構築されていないという。
「欠落しているのは介入です。介入がその人の中での前進とその拡散を止めるのです」とスラトキン博士は話した。
「新型コロナウイルスには、マスクやソーシャルディスタンスがあります。でも、(銃による暴力に)介入するためのネットワークはありません」
Gun Violence Archiveによると、アメリカでは2021年、これまでに少なくとも1万2417人が銃による暴力で死亡していて、このうち少なくとも6996人が自殺だという。銃による暴力の研究者らは、銃を購入した後に待機期間を設ける法律があれば、銃乱射事件と自殺の両方で失われる命の数を減らすことができるだろうと話している。アトランタ郊外で起きた銃乱射事件とボルダーで起きた銃乱射事件の容疑者は、いずれも事件の数日前に銃を購入していた。
「もちろん、これが全ての暴力行為や自傷行為を防げるわけではありませんが、カッとした弾みによる衝動的な暴力行為を防ぐことで、自殺と他殺の両方を減らすことにつながるとする研究結果はあります」とギフォーズ銃暴力防止法律センター(Giffords Law Center to Prevent Gun Violence)のステート・ポリシー担当のダイレクター、アリ・フレイリッヒ(Ari Freilich)氏はInsiderに語った。
メツェル博士は、身元調査や大容量の弾倉の禁止を含む銃規制の法律が成立すれば、銃による暴力で犠牲となる人の数も減るだろうと考えている。
「年間4万人以上が銃で命を落としているという事実を覚えておくことが重要です」とメツェル博士は言う。
「日々の銃による死亡率を下げるであろう、わたしたちに打ち出せる政策はたくさんあります。『この1つの政策が銃乱射事件を食い止めてくれる』とまではいきませんが、良識ある政策を実施することでより多くの命を救うことができます」
(翻訳、編集:山口佳美)