中国のデジタル化の立役者だったアリババが、「独占者」「支配者」として巨額の罰金を科された。
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中国の国家市場監督管理総局は4月10日、EC最大手アリババグループに対し、独占禁止法違反で182億2800万元(約3046億円)の罰金を科したと発表した。罰金額は2019年の国内売上高の4%に相当する。
中国は2008年に独禁法を施行したが、2010年代に急成長したインターネットやデータエコノミーに法の網をかけるため、2021年中に同法を改正しようとしている。アリババに対する処分も独禁法とIT企業取り締まり強化の一環だ。
前例のない調査・処分にあたって国民の支持を得るため、当局は1万字以上に及ぶ「処罰決定書」を公表し「プラットフォーム企業の定義」「事業の範囲」「支配的地位の定義」をどう線引きしたか、そして関係者の調査、内部のチャット記録、Eメールなどから認定したアリババの違反行為を詳細に説明した。処罰決定書の主な内容を紹介する。
出店企業の競合先での活動をモニタリング
アリババは2020年、新興企業の拼多多にユーザー数を抜かれるなど、プレッシャーにさらされている。
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アリババは「プラットフォーマーの市場シェアなどの数値は、多元的で統一されておらず、単一指標をもって支配的地位を認めることはできない」「アリババは情報技術や決済、物流分野の成長に貢献し、ECの参入障壁を引き下げた」「新興プラットフォーマーの成長で、経営者は販売チャネルを拡大でき、一つのプラットフォーマーへの依存度は限定的」と、自社がEC市場において支配的地位を有していないと主張した。
当局は以下の状況を並べてアリババの主張を退け、「独占禁止法」18条、19条の規定に基づき、同社は中国のECプラットフォーム市場において支配的地位を持つと認定している。
- アリババのECサイトの手数料収入が国内EC上位10社の手数料合計額に占める割合は、2015年から2019年まで86.07%、75.77%、78.51%、75.44%、71.17%で推移している。流通取引総額(GMV)の上位10社合計に占めるシェアは76.21%、69.96%、63.58%、61.70%、61.83%。2つの指標がいずれも50%を超え、ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス(HHI指数:市場の集中度を測る指標)は7408、6008、6375、5925、5350、CR4指数(上位4社累積集中度)は99.68、99.46、98.92、98.66、98.45で、集中度が高い状態が続き、長期にわたって市場での優位性を維持している。
- アリババはプラットフォーム出店企業とのビジネス交渉において、標準約款で手数料や広告費を取り決めており、出店企業の交渉力は弱い。また、アリババはルールを定め、アルゴリズムなどで出店企業や商品の検索ランキングや表示場所をコントロールできる立場にあり、出店企業の経営に決定的な影響力を持っている。アリババが経営するタオバオ(淘宝)、Tmall(天猫)のGMVは中国内の小売り商品取引総額の50%を占めており、経営者がECを手掛けるにあたって最も重要な販売チャネルである。
- アリババは圧倒的な資金力、技術力を有する。純利益は2015年から2019年までに年平均24.1%、時価総額は1兆3200億元から4兆1200億元に増えた。また、アリババはECプラットフォーマーの先行者として、出店企業、消費者、取引、物流、決済のデータを競合相手より多く保有しているほか、先進的なアルゴリズムを使って出店企業の競合プラットフォームでの経営状況もモニタリングしている。
- アリババは巨大なユーザー基盤を持ち、ユーザーの平均消費額は競合相手よりはるかに多い。また、ユーザーの年をまたいだサービス継続率は98%と忠誠度も高い。このため出店企業は容易にアリババから離れることができない。ヒアリングでは出店企業がおおむね「他のECサイトに比べアリババの影響力は大きく、消費者の認知度が高い」と感じていることが分かった。また、出店企業はアリババのプラットフォームで多くの固定客を抱え、蓄積した取引、決済データ、レビューなどを経営活動に活用している。このため、他のプラットフォームへのスイッチコストが高い。
- 中国のECプラットフォームが顧客を獲得するコストは年々増加しており、この分野への参入障壁は上がり続けている。
「グレーリスト」企業は検索表示で不利に
当局は、アリババが競合他社に出店した取引企業に対し、プロモーション活動の参加資格を取り消すなど懲罰的行為を行っていたと認定した。
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アリババは出店企業が他のプラットフォームに参加したり、プロモーション活動を行うことを禁止する「二者択一」行為を実施していた。同社は調査において、契約に署名したのは出店企業の意志であり、対価としてアリババ独自のリソースやインセンティブを提供していたため、二者択一行為は正当だと主張したが、当局はアリババが競合企業の成長を制限し、自社の支配的地位を利用したと認定し、市場での支配的地位の濫用と結論づけた。また、アリババのこれらの行為が、出店企業だけでなく消費者の利益にも損失をもたらし、市場の健全な競争を阻害したと糾弾した。
具体的には以下の行為を認定した。
- アリババは販売額の成長や商品力、ブランド力、コンプライアンスなどの要素を基に、出店企業を7段階にランク分けしており、上位3ランクの「重要顧客」に対し、競合プラットフォームへ出店しないよう働きかけていた。契約書や備忘録を使って明確に競合他社への出店禁止を求めていたケース、口頭で重要顧客に「他のプラットフォームに旗艦店を出さない」「他のプラットフォームの旗艦店を非旗艦店に格下げする」「他のプラットフォームでの限定商品や在庫を制限する」ことを要求していたケースが確認された。
- ECプラットフォームは毎年(アリババの)「独身の日(ダブルイレブン)」、(JD.comが6月に実施する)「618セール」など大規模セールを実施しており、各プラットフォームおよび出店企業の重要イベントとなっているが、アリババは書面あるいは口頭で、競合プラットフォームのセール活動への参加を制限していた。
- アリババは「二者択一行為」を実施し、ビッグデータを用いて出店企業の他のプラットフォームでの活動もモニタリングしていた。アリババの要求を守らなかった出店企業に対して、支援を減らしたり、プロモーションの参加資格を取り消すなど懲罰的行為を行った。出店企業への影響は非常に大きいため、アリババの要求に従わざるを得なかった。アリババは「グレーリスト」制度を制定。出店企業が競合プラットフォームに出店したりプロモーション活動に参加したことを把握するとグレーリストに追加し、自社のキャンペーンに参加させないなど不利な扱いをしていた。また、ユーザーが検索したときに表示されにくいようにした。
行政処分を受けたアリババは、当局の意向に従い体制を見直すと表明している。アリババへの処分は、当局のIT企業への「警告」的な意味も含んでおり、その後、TikTokを運営するバイトダンスなど、多くの企業が独禁法を遵守することを当局に約束した。「二者択一行為」はEC以外の分野でも横行しており、当局は処分を通じてIT企業への支配力を強める方針と見られている。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。