日米共同声明で台湾言及の「内政干渉」に中国はどう報復するか。日本には「寸止め」方針との見方

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4月17日、菅首相とバイデン大統領は互いに就任後初めてとなる日米首脳会談を行い、共同声明で「台湾問題」に言及した。

REUTERS/Tom Brenner

ワシントンで4月17日(日本時間)に開かれた日米首脳会談は、その後の共同声明に日中国交正常化(1972年)以来初めて台湾問題を盛り込んだ。

今回の共同声明はまた、第三国に向けたものではない「地域安定の基礎」という性格だった日米同盟を、中国抑止の「対中同盟」に変質させた。

声明発表後、中国の外務省とメディアは首脳会談を「アジア太平洋の平和を脅かすもの」と強く批判した。しかし筆者には、中国は日本との全面対決を避けようとしているように見える

日米同盟を戦前の「日独伊三国同盟」になぞらえて

中国共産党機関紙「人民日報」系の「環球時報」は日米首脳会談終了の直後、「日米同盟はアジア太平洋の平和を脅かす軸になろうとしている」と題した社説を発表し、「日本はアメリカの邪悪な共犯者」「中国の発展に嫉妬し『二流国家』に貶められることに耐えられない」などと厳しく批判した。

同社説は日米関係について、第二次世界大戦の戦勝国と敗戦国であるとして「外交では強い主従関係にある」と指摘。

対中封じ込めを狙うアメリカの政策に日本が従う理由として、(1)日本外交は「半主権」レベルにしかなく、アメリカに抵抗できない(2)日本は中国の発展を羨望・嫉妬・憎悪しており、アジアの国々のなかで最も中国を封じ込めたいと考えている、という2点をあげた。

さらに、日米同盟を戦前の「日独伊三国同盟」になぞらえながら、アジア太平洋地域の「平和に致命的な破壊をもたらす軸になろうとしている」と位置づけた。

また、日中関係については「過去数年間、日本は中日関係を徐々に回復させる正しい軌道に乗せた」と安倍政権時代の外交政策を評価する一方、「いまや突然進路を変え、日中関係改善の勢いを台なしにし、中国封じ込めのアメリカ戦略に加わった」と批判。

最後には「日本にひと言忠告したい。台湾問題から少し距離をとってほしい。他の問題については外交の手練手管を使ってもいいが、台湾問題に巻き込まれると身を滅ぼすことになる」と警告した。

中国外務省も同日、首脳会談に関する談話を発表して、日米共同声明を「地域の平和と安定を危険にさらす『日米同盟』の性質と陰謀を認識させた」と批判。台湾や香港、新疆ウイグル自治区問題への言及を「内政干渉」として強く反発し、中国は「必要なすべての措置を講じる」と対抗策に出ることをほのめかした。

対抗措置に注目する日本経済界

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2021年3月、中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)の様子。最前列中央に習近平国家主席。

REUTERS/Carlos Garcia Rawlins

日米両国は首脳会談に先立つ3月16日、東京で外務・防衛閣僚による日米安全保障協議(いわゆる「2プラス2」)を開催。

政治、経済、軍事、IT技術をめぐる対立のみならず、尖閣諸島、南シナ海、台湾、香港、新疆ウイグル自治区の人権問題に至るまで、米中対立のすべてのテーマを網羅し、中国の姿勢について「批判」「反対」し、「懸念」を表明する共同文書を発表している。

このとき、中国外務省の趙立堅・副報道局長は、日本を「アメリカの戦略的属国となり、中日関係を破壊しようとしている」などと徹底的に批判した。

今回の日米共同声明は「2プラス2」の延長線上にあり、それゆえ日本としては、中国側の批判は織り込み済み。残る問題は、中国外務省が予告した「必要なすべての措置」がどのようなものになるかだ

例えば、香港などの人権問題について厳しい対中姿勢をもって臨むオーストラリアに対し、中国は鉄鉱石や食品の輸入規制をはじめとする経済制裁で対抗している。

中国が核心的利益のひとつにあげる台湾という「内政」への干渉に対しては、どんな報復を考えているのか。

日米共同声明は日本側の要請を受けて、台湾問題の「平和的解決」というひと言を追加したが、中国からすれば平和的であろうがなかろうが「内政干渉」に変わりはない。

それだけに、日本の経済界は中国側がくり出してくる対抗措置の内容に注目している。中国が想定以上に厳しい経済制裁を課してくれば、(それによって不利益をこうむる)経済界の不満は菅内閣にも向かうだろう。

「主要矛盾」と「副次的矛盾」という伝統的思考法

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中国・北京の天安門広場に掲げられた初代国家指導者・毛沢東の肖像。

REUTERS/Damir Sagolj

中国の政治・外交政策には、伝統的な思考法がある。それは初代指導者である毛沢東の主要著作『矛盾論』に書かれてある。同書は、対立勢力を「主要矛盾」と「副次的矛盾」に分け、「主要矛盾」と戦う上で「副次的矛盾」とは手を組むと説く。

具体例をあげれば、日本帝国主義という「主要矛盾」の侵略と戦うため、蒋介石率いる国民党という「副次的矛盾」と協力した「抗日民族統一戦線」の政策がそれにあたる。

最近の例では、中国は米中対立が本格化した2018年以降、当時の安倍政権への激しい批判を封印してきた。盧溝橋事件のような日本の侵略関連の歴史行事も、外交問題に発展しないよう抑制し続けてきた。アメリカとの衝突を有利に展開するため、日本や韓国、インドといった近隣国との友好関係を重視したからだ。これも上の「矛盾」の考え方で理解できる。

そうした思考法を踏まえた上で、前述の趙立堅・副報道局長の発言と「環球時報」の社説が、いずれも「日本はアメリカに引きずられている」という認識に立っていることに注目したい

そこから読みとれるのは、中国は日本との「矛盾」を「副次的」で、「主要」な対立とは考えていないということだ。したがって、中国メディアや識者が今後対日批判を強めるのは間違いないものの、日本を利用して日米の離間を図ろうとする大きな政策方針に変化はないと考えられる。

厳しい批判を浴びせつつも決定的な対立は回避する、いわば「寸止め」が中国の狙いだ

ただし、米中対立という「主要矛盾」がもしなかったら、台湾問題に「内政干渉」した日本との全面対決も厭(いと)わなかっただろう。

中国がいま軍事力に訴える理由は何もない

とはいえ、今回の日米共同声明によって、日米同盟が中国抑止の「対中同盟」に変わってしまったことは間違いない。菅政権は今後、対中関係の維持に向けてしっかりと「手当て」をすべきだ。

中国の王毅外相は4月5日、茂木外相との電話会談で「日米は同盟関係を持つが、日中は平和友好条約を締結しており、日本にも条約履行義務がある」と注文をつけた。同条約の第1条には「すべての紛争を平和的手段により解決し、武力または武力による威嚇(いかく)に訴えないことを確認する」と明記されている。

平和友好条約は当然、日中対立の最大のトゲである尖閣問題にも適用される。

メディアは中国が「尖閣を力づくで奪おうとしている」と危機感をあおるが、それは現実とは異なる。

中国の最高指導者だった鄧小平は(1)主権は中国にある(2)争いは棚上げ(3)共同開発を進める、の3点を基本方針とし、江沢民・胡錦濤時代をはさんで、習近平・現国家主席も2013年にこの方針を再確認している。紛争の棚上げと共同開発が基本であることには変わりなく、中国には尖閣諸島を「軍事力で奪う」意図も環境もないと筆者は考えている。

菅首相は5月に「対中けん制」のため、フィリピンとインドを歴訪する予定で、対中関係維持のための外交など眼中にないように見える。

しかし、中国の脅威をあおり、抑止を強調するだけでは、いたずらに軍拡競争を招く「安保のジレンマ」に陥ってしまう。

安全保障は、たゆまぬ外交努力により地域の「安定」を確立するのが基本であるということを忘れてはならない。

(文:岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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