撮影・尾越まり恵
AGC(旧旭硝子)は、ダイハツ、ホンダ、トヨタ、いすゞ、スズキ、日産といった日本の主要自動車メーカーのカーデザイナーらによる有志集団「JAID(Japan Automotive Designers)」とタッグを組み、車の内装デザインとAGCの素材の可能性を探る協創プロジェクトを進行中だ。
そのプロジェクトから生まれた成果を展示する「8.2秒展」が2021年3月23日(火)から6月19日(土)、東京・京橋の「AGC Studio」で開催されている。
イギリスのとある実験で分かった、初対面のものに対して人の心が動いたり、好きになったりするまでにかかる時間は8.2秒 ——。展示名の「8.2秒」は、初めて対面した人やモノに心が動く・好きになる「8.2秒の法則」に由来している。
※1907年創業のAGCは、自動車メーカー各社と共にオープンイノベーションを進めている。同社は建築用板ガラス、自動車用加工ガラスをはじめ、さまざまな分野で世界トップシェア製品を持つ。建物の窓ガラスや自動車のフロントガラスだけでなく、スマートフォンの液晶画面など、あらゆる分野で同社のガラスが使用されている。
「8.2秒」に込められた意味
ガラスなどの素材が介在することで起こるさまざまな8.2秒の物語を、プロジェクトメンバーたちが約1年かけて発案、創出に挑戦した。どのような協創が生まれたのだろうか。
世界中で8.2秒に1台、自動車は廃棄されている。
ダイハツ×AGC。自然の中にバラまかれてもゴミにならない、自然と共生するガラスに挑戦。
いま、世界では8.2秒に1台のスピードで自動車が廃棄されているという。自動車の窓ガラスをゴミにするのではなく、有効活用できないかと考えられたのが、この「自然と共生するガラス」だ。
自動車のガラスは安全を配慮し、廃棄時に一定のサイズに粉々になるように作られている。この特徴に注目し、水を含む土壌の役目を果たせるのではないかと考えた。また、ガラスに含まれる銀には殺菌効果があり、水を綺麗なままに保つ効果もあるという。将来的には、ガラスに養分を混ぜれば、自然との共生も可能だと考えている。地球環境に配慮した「SDGs」的アイデアだ。
「あの人と見るはずだった景色を一緒に見に行こう!」中止になったお祭りや花火大会へ。
スズキ×AGC。8の数字の中や右側の池がモニターになっており、専用のガラスでのぞくと夏の景色を楽しめる。
2020年夏。コロナ禍により、お祭りや花火大会の多くが中止になった。「あの人と見るはずだった景色を一緒に見に行こう!」というコンセプトで考えられた「#いいね!2」。
自動車に見立てた小さな機械に手を入れ、ガラスを通してモニターをのぞくと、ひまわりなど夏らしい映像が流れる。8.2秒間、二人で同じ映像を見て距離を縮めてほしいという思いが込められている。
専用の機械に手を突っ込むと、指は「いいね!」のポーズになる。ガラス越しのモニターにはひまわりの映像。
思わず触りたくなる。8.2秒の間に、花が咲くようにガラスの色が変化する。
いすず×AGC。見る角度や光の透過によって、さまざまに表情を変える。触ると変化するガラスで“ガラスの花”を咲かせる。
光を透過しながら表情に変化を起こし、思わず触りたくなるガラスを発案。8.2秒の間に、花が咲くようにガラスの色が変化する。
持ち上げると光が消え、戻すとまた光る。重さや温度、手触り、質感を楽しめる。
世界を覆う「マイナスの空気を変えたい」と生まれた「空気清浄木」。
ホンダ×AGC。植物の温室栽培からヒントを得て、人々にとっての快適な空間をガラスを使って演出。
経済が低迷し、人々が不安に包まれている今。世界を覆うマイナスの空気を浄化できればと、AGCの「かたぶきガラス」を使って考案されたのが「空気清浄木」だ。専用のブースに入り、電気のスイッチを引っ張ると、音楽とともに光に彩られた美しい景色に変化する。8.2秒間で、少し前向きな気持ちになることを狙った。
協創によってどんな化学変化が起きたのか
2階に展示された開発のプロセス。
机の上では場所が足りなくなったため、床に資料を置く「床置き検討会」でアイデアを膨らませた。各社から100を超えるアイデアが集まったという。
2階部分には開発時の試行錯誤のプロセスを展示。開発途中の失敗やハプニングも「化学変化」の一環としてアイデアの源泉になっていることが分かる。
「今後もプロジェクトを通して、人々の心を動かす協創への挑戦を続けたいと思っています。展示から、素材の可能性を感じていただければ」とAGC担当者は話した。
2020年秋、AGCは社内と社外とをつなぐ拠点として、AGC横浜テクニカルセンターの中に新研究棟を設立。総工費200億円をかけた。
「8.2秒展」を生み出した、カーデザイナーらによる有志集団「JAID」とAGCとの協創プロジェクトは、この新研究棟を拠点としている。
(文、撮影・尾越まり恵)