緊急事態宣言がまた発令されるのか(写真は東京・新宿にて2021年4月撮影)。
REUTERS
日本国内で再び新型コロナウイルスの感染が拡大している。
新型コロナ特措法に基づく「まん延防止等重点措置」が、4月5日から宮城・大阪・兵庫、4月12日から東京・京都・沖縄、4月20日からは神奈川・埼玉・千葉・愛知で適用された。
4月20日までの直近1週間、1日を除き新規感染者数が1000人を超えた大阪府の吉村洋文知事は同日、緊急事態宣言の発出を国に要請することを決めた。
本稿では、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言の「効果」を考えてみたい。
まだ公的な経済統計では3月分の結果が確認できないため、現金を含む消費全体を捉えた消費動向指数「JCB消費NOW」※や、位置情報を活用して人出を調べるためグーグルが提供しているモビリティレポートなど、いくつかのオルタナティブデータを用いて検証していく。
※JCB消費NOW:JCBグループ会員のうち、匿名加工された約100万会員のクレジットカード決済情報をもとにJCBとナウキャストが算出した消費動向指数。
消費への影響力は「宣言」より「報道」だった
JCB消費NOWの消費指数は1カ月を前半と後半に細分化できる。まずはデータに基づき、2020年1月から2021年3月までの期間における小売消費指数の推移をグラフ化。
そこに、厚生労働省が発表している新規陽性者数の推移を重ねたものが下図だ。東京都が緊急事態宣言下にあった期間はグレーに網がけしている。
網掛け部分は東京都が緊急事態宣言の対象だった期間。
出所:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」、厚生労働省のデータを基にマネネ社が作成
小売消費の中にはEC経由での消費も含まれているため、「小売消費指数が上昇している」=「外出が増えた」ことを意味するわけではない。
上図から確認できる傾向としては、緊急事態宣言期間中に小売消費がずっと低位に抑えられることはなく、宣言の発令後は指数が低下するものの、発令後2週間から1カ月で指数が反転している。
そして、緊急事態宣言の有無よりも、足元2週間の新規陽性者数が1カ月の平均値よりも増加すると小売消費指数は低下する傾向にある。
この傾向から考えられる仮説は、「ニュースなどで新規陽性者数の増加が報じられると、人々は自主的に外出を伴う消費活動を抑えはじめる」という可能性だ。
さらに、新規陽性者数の増加を背景に緊急事態宣言が発令されると、その後2週間ほどは消費を抑えるが、解除を待たずに徐々に消費活動を再開してしまう、というものだ。
緊急事態宣言の実効性は1カ月が限界?
次にもう少し外出に密接した消費指数を見ていこう。電車やタクシーなどの移動への支出を表す「交通」の消費指数だ。
都道府県ごとに緊急事態宣言が発令されたタイミングも、解除されたタイミングも異なるため、ここでは東京と大阪について確認する。
コロナ前(2020年1月、2月)の平均値に対する変化率。網掛け部分は緊急事態宣言期間。
出所:JCB/ナウキャスト「JCB消費NOW」のデータを基にマネネ社が作成
ここでも緊急事態宣言が発出された直後は移動が抑制されているが、やはり発出後2週間から1カ月ほどで、「交通」の消費指数は反転していることが確認できる。
さらに、このグラフから明確なのは、緊急事態宣言が解除されるとすぐに発令前の水準に戻るということだ。
グーグルが公表しているコミュニティモビリティレポートのデータを用いて、東京と大阪の人の外出度合いについて、“小売と娯楽”、“食料品店と薬局”、“職場”という3つの地点で確認したものをグラフ化したものが下図になる。
網掛け部分は緊急事態宣言期間。基準値は2020年1月3日〜2月6日の5週間の曜日別中央値。
出所:グーグル「コミュニティモビリティレポート」のデータを基に株式会社マネネが作成。
やはりこのグラフからも緊急事態宣言発令後の2週間ぐらいは外出を抑えられるものの、発令2週間後からは解除前でもすぐに外出が反転しはじめることがわかる。
これらのデータを見ていると、緊急事態宣言にはそれほどの効果はなく、むしろ新規陽性者数が増加している、という報道のほうが人々の外出を抑える効果が高いと言えそうだ。
ワクチン接種がトリガーになりうるが……
がん・感染症センター 都立駒込病院で実施された医療従事者向けのワクチン接種の様子(3月5日撮影)。
Yoshikazu Tsuno/Pool via REUTERS
筆者は東京都内に住んでおり、年始から緊急事態宣言が発令され、2度の延長を経て3月21日に解除された。が、解除前の3月に入った時点でかなり街中に人が戻ってきた印象を持っていた。
そして、案の定、緊急事態宣言解除後すぐにメディアでは第4波という話が報道されはじめ、まん延防止等重点措置が適用された。
こうなると、今後も緊急事態宣言の発令と解除を繰り返していっても根本的な解決にはならず、その間、飲食業界や宿泊観光業がいたずらに傷ついていくだけだ。
とはいえ、何もせず、感染対策をとらないわけにもいかない。
緊急事態宣言下、3月10日21時頃の渋谷・スクランブル交差点。
撮影:小林優多郎
そこで期待されるのがワクチン接種だ。ワクチンによって感染しなくなるわけではなくても、感染した際の重篤化リスクを軽減できるという「心理的な安心感」は、消費活動にもポジティブな影響を与える。
すでに報じられている通り、英オックスフォード大学などの調査によると、4月10日時点で日本を除く先進7カ国(G7)では、いずれもワクチン接種率が10%を超えている。一方、日本において少なくとも1回接種した人の比率は、4月19日時点でも全人口の約1%にとどまる。
国内でワクチンが製造できず、欧米のワクチンに頼らざるを得ないこと、さらには外交力の弱さからこのような惨状となっている。欧米でワクチン接種が進み、経済が正常化していく中で日本だけがその波に乗れない、という未来が容易に想像できる。
いまこそ自前主義に光を当てよう
アメリカのバイデン大統領。
REUTERS
コロナ感染拡大によって経済は大きなダメージを受け、私たちの生活様式も大きく変化してしまったが、あらためて“自前主義”について考えなおす機会を与えてくれたというポジティブな一面もある。
ワクチンを欧米に頼るしかないと前述したが、思い返せば2020年の今頃はマスクの国内供給が追い付かず、スーパーやドラッグストアではマスクを買い求める長蛇の列を毎日目にした。国内に十分な供給能力を持つことの重要性を思い知らされた。
アメリカではバイデン大統領が半導体関連の国内投資に500億ドル(約5兆5000億円)を補助する法案を成立させようとしている。
ボストン・コンサルティング・グループによると、工場立地別の生産能力シェアは2020年に台湾と韓国が世界の43%を占める一方で、アメリカのシェアは12%と過去20年で7ポイント減っており、シェア15%の中国にも抜かれているのだから、バイデン大統領の考えは非常に理にかなったものと言える。
コロナ禍を契機に “自前主義”にあらためて光を当てることが重要となるだろう。
(文・森永康平)
森永康平:証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。著書に『MMTが日本を救う』(宝島社新書)や『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。日本証券アナリスト協会検定会員。