【山口周×佐久間裕美子・前編】その消費に意味はあるか。“役に立つの帝王”アマゾンで無自覚に買い物する人に今伝えたいこと

山口さんと佐久間さん

「地図はすぐに古くなるけれど、真北を常に指すコンパスさえあれば、どんな変化にも惑わされず、自分の選択に迷うこともない」 

そう語る山口周さんとさまざまな分野の識者との対話。

第5回目の対談相手は、文筆家の佐久間裕美子さん。新刊『Weの市民革命』では、ミレニアル世代・Z世代が牽引する、企業やブランドの大義や価値にお金を払う「消費アクティビズム」の時代が到来したと解説しています。

佐久間さんが考える、今の世の中において「意味のある消費」とは何か?


山口周氏(以下、山口):2014年に刊行された『ヒップな生活革命』では、リーマンショックをきっかけとするアメリカの変化、その胎動が巨大なうねりになっていく様子をまとめておられました。昨年末に刊行された『Weの市民革命』では、トランプ政権、新型コロナウイルスの流行やブラック・ライブズ・マター(BLM)を経て変化するアメリカの消費文化が描かれています。

佐久間裕美子氏(以下、佐久間):前の本のタイトルに革命という言葉を使いましたが、本当に革命が必要なのは今だと感じています。特に気候変動と富の格差が社会全体を揺るがしている。

2018年に国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が発表したレポートでは、危機的状況を引き起こす水準とされる1.5度の温暖化が早ければ2030年にも起きるという見通しが示されました。これをきっかけに若者を中心とする環境運動が一気に加速した一方、報告書の警告以上のスピードで危機が迫っているのにも関わらず、変化のスピードは遅く、「使い捨てプラカップをやめましょう」という話ばかりで、なかなか本質的な打開策につながらないという焦燥感があります。

オバマ政権の間にも貧富の差がさらに拡大し、都会はミドルクラス以下の庶民には住みにくくなる一方です。都会のジェントリフィケーション(都市の高級化)はこのまま進んでいくのか、市民の危機感が高まっていたところに新型コロナウイルスがやってきました。

バーニー・サンダースが大統領選予備選挙に出馬した時、極左、社会主義と批判する声もありましたが、教育や医療の無償化などプログレッシブ(進歩主義的)な政策が支持された背景には、これまでの拝金主義的な価値観からの脱却があったと思います。

こうした価値観のシフトを引っ張っているのは、ミレニアルやZ世代の若者たちですが、一方で、SNSに1回アップした服は2度と着られないという10代の若者もいます。ようやくファストファッションを卒業するかと思ったら、それを超えたスーパーファストファッションが台頭し、分極化が進んでいると感じます。

若者たちによるグローバル気候マーチのデモ

9月20日、国連の気候変動サミットを前にニューヨークでは若者たちによるデモが行われた

REUTERS/SHANNON STAPLETON

山口:Forever21が破綻し、アパレルの製造工程が環境に負荷をかけることも知られるようになり、ビジネスに対するまなざしが厳しくなる中、スローファッションに回帰していくのかと思いましたが、ファストファッションを加速する流れも生まれているのですね。

佐久間:やはり企業が大量生産をやめない限り、消費者が買うことをやめるとは考えにくいと思います。たとえ世論を受けて一部のアパレルメーカーがこれまでのビジネスを見直しても、別のメーカーから安く買う消費者がいる限り、同じことです。消費者が要求しなければ企業は変わらないし、消費者の啓蒙と企業の啓蒙、どちらが欠けても変えられません。

「動物実験をやりません」は雄弁な啓蒙活動

山口:昨年12月に刊行した『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』では、従来の資本主義が制度疲労を起こしていることを指摘しましたが、では資本主義に替わるオルタナティブ(代替)はどうなるのか。我々はそのビジョンをまだ手にしていません。

スペキュラティブ・デザインという言葉があります。「こんな可能性もあるのではないか」という形を提示することで、未来を思索(speculate)するきっかけを提供するものです。消費を促進する飾りとしてのデザインではなく、現状のデザインや商業へのアンチテーゼとなるもので、本来アートが担っていた役割です。

僕は佐久間さんの本を読んで、これはスペキュラティブ・ビジネスについての本だと思いました。

新しいライフスタイルや消費についての啓蒙活動に一番取り組んでいるのは、実は企業だと思うんです。ビジネスが扱うコミュニケーションはパブリックセクターより絶対量が多く、才能豊かなコミュニケーションのプロが集まるので、見せ方も上手です。

わかりやすい例がTHE BODY SHOP(ザ・ボディショップ)です。それまで化粧品会社では動物実験が当たり前だった事実を消費者は知らずに商品を買っていました。そこにザボディショップの創業者のアニータ・ロディックが「我々は動物実験をやりません」と打ち出した。動物実験反対を声高に主張するのではなく、オルタナティブとなるビジネスを提示することで、動物愛護団体が批判する以上に雄弁な啓蒙活動になりました。

「ということは他の化粧品会社は動物実験をやっているの?」と消費者は思うし、ザボディショップの商品を選ぶこと自体が「私は動物実験をする会社の商品は使わない」という意思表示につながります。

いま存在感を持つテスラも、佐久間さんが本で紹介されているビジネスも、全部そうだと思います。僕は「資本主義をハックする」と言っていますが、資本主義を否定するのではなく、仕組みをうまく活用して、世の中を変えられるのではないかと思っています。

でも先ほどのお話を伺うと、服を毎日取り替えてSNSにアップしたら捨てなきゃいけないという価値観と、それはサステナブルではないから本当に気に入ったものを長く着るべきだという価値観のせめぎ合いは続いていると感じました。

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