ワークマン、スタバ、無印…顧客の声をイノベーションに活かせる組織の3条件【音声付・入山章栄】

今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても、平易に読み通せます。

近年「ユーザー・イノベーション」と言われるとおり、顧客の声に耳を傾け、その声をイノベーションにつなげていこうという取り組みが活発です。実践するのは簡単ではないものの、成功している企業には3つの共通点が——。入山ゼミで取り上げられた1本の経営論文の中に、そのヒントがあるようです。

【音声版の試聴はこちら】(再生時間:8分08秒)※クリックすると音声が流れます


最先端の世界の経営学に学ぶ

こんにちは、入山章栄です。

今回は、僕の教えている早稲田大学の社会人大学院(ビジネススクール)のゼミで、Business Insider Japan読者のみなさんにシェアしたい面白い学びがあったので、その話をしたいと思います。

いま僕の受け持っているゼミの学生は全部で6人。全員、昼間は日本企業の中堅社員として勤めながら、MBAをとるために社会人大学院に通っている人たちです。

僕のゼミはなかなか厳しくて、海外のトップ学術誌に載っている最先端の経営学の論文を、原文(つまり英語)で読んでもらいます。ただしどの論文を読むかを選ぶのは学生さんのほう。なぜなら、自分が仕事で直面している問題について書かれた論文を読むことで、学んだことと現実が結びつくからです。

いわばアカデミックな理論と実践での経験をぶつけ合うわけで、これを僕は「究極の知の往復」と呼んでいます。今回ご紹介するのも、そういう学生との議論の中で気づいたことです。

顧客の声を聴くだけではダメ

ゼミ生の1人に、あるBtoC企業に勤める方がいます。この方は、「会社のファンをつくるにはどうすればいいか」という問題意識を持っていました。

いま日本の消費財企業はどこも自社のファンを育てようと腐心しています。商品のファンはいても、会社そのもののファンはなかなかいないのが現実です。

この連載の第50回でも取り上げましたが、例えば、花王の洗剤「アタック」という商品には多くのファンがいても、花王という会社のファンがどれだけいるかというと……分からないところですよね(花王さん、名前を挙げて申し訳ありません)。このように会社のファンをつくることは、いまの日本企業に共通した課題なのです。

そこで僕のゼミ生はファンづくりのヒントになるような経営学の最先端論文を探したのですが、残念ながらそういう論文はまだなかった。そこで、「いかにして顧客といい関係性を築くか」をテーマにした論文を探したのです。企業で外部のステークホルダーや顧客といい関係性を持てば、やがて自社のファンになってもらえるかもしれないでしょう。

そこで選んだのが、経営学のトップジャーナルのひとつである『ORGANIZATION SCIENCE』に2011年に掲載された、“Linking Customer Interaction and Innovation:The Mediating Role of New Organizational Practices”(顧客との交流とイノベーション:組織の新しい実践様式の媒介作用(日本語は意訳))という論文です。

この論文の筆者は、ヨーロッパの名門ビジネススクールであるコペンハーゲン・ビジネススクールの著名経営学者であるニコライ・フォスら3人。研究テーマは、「顧客の声をイノベーションに活かすには何が必要か」というものです。

この論文の主張はシンプルです。企業は、顧客の声を聴くだけではダメで、それを成果に活かせる「組織内部の習慣・実践」が不可欠である、というものなのです。

考えてみれば当然ですが、お客さんの声をいくら聴いたところで、打ち出の小槌のようにイノベーションが湧き出てくるはずがない。

もちろん、お客さんの声を聴くことは大事です。例えば最近、「ユーザー・イノベーション」とか「ユーザー・ドリブン・イノベーション」という言葉を耳にした方もいるはずです。

これは顧客の声に真剣に耳を傾け、場合によってはお客さんを巻き込んで、お客さんにアイデアを出してもらう。そのくらい顧客の声を聴いて、イノベーションを生んでいくという考え方のことです。実際、すでにいろいろな企業が世界中でユーザー・イノベーションを実践し始めています。

フォスらの主張はその重要性は認めながらも、「そのために重要なのは、組織内部が顧客の声を活かせるようになっていることである」というものでした。

顧客の声を生かせる3条件とは

言われてみれば当たり前ですよね。このフォスの論文は、タイトルに「Mediating Role(媒介作用、真ん中の役割)」とあります。つまり、顧客の声を生かすには、顧客とプロダクトをつなぐ媒介作用、真ん中が大事だと言っている。つまり顧客の声をひたすら聴くことと、イノベーションを起こすことの間には、つなぎのプロセスがあるのです。それが「顧客の声を活かすための組織の中の課題」ということです。

具体的にフォスらは顧客の声を生かせる組織内部の条件として、

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