オーストリア・グラーツにあるマグナ・シュタイア(Magna Steyr)の委託生産工場。
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マグナ・インターナショナル(Magna International)は、おそらく読者の皆さんが「その名を耳にしたことのないなかで」最大の自動車関連会社だろう。
同社の本拠地はカナダ。オーストリア・グラーツに工場を有する傘下のマグナ・シュタイヤー(Magna Steyr)を通じて、完成車メーカーのために組み立てを請け負う世界最大の受託製造会社であり、大手部品サプライヤーでもあり、近年はさらに電動プラットフォームや先進運転支援システム(ADAS)の開発でも存在感を増している。
年間売上高400億ドル(約4兆3000億円)、15万8000人の従業員を抱える同社だが、最近まではあまり目立たない会社だった。
しかし、自動車市場がパンデミックのダメージから回復するにつれ、マグナは注目すべき財務指標を叩き出すようになっていく。同社の株価は2020年だけでもおよそ160%上昇し、90ドルを超える水準に達している。
今年1月に最高経営責任者(CEO)に就任したばかりのスワミ・コタギリは、マグナがようやくそうした評価を得られたことに満足しているし、マグナにはそれだけの価値があるとInsiderに語っている。
「2020年、パンデミックのなかでも我々はやるべきことをやり、コストの見直しにも取り組んだ。下半期に投資家が市場に戻ってきたことで、結果も出始めた」
GMもフォードも配当維持はできなかった
コタギリCEOの考えでは、投資家のポジティブなセンチメント(心理)を動かしているのは、マグナの独自性だという。
部品サプライヤーであり組み立てメーカーでもある同社は、特定のブランドにこだわったり、特約店(ディーラー)を満足させたりする必要がなく、それゆえに消費者心理の動きに直接左右されずに済む。
また、セダンを犠牲にして多目的スポーツ車(SUV)を増産すべきかといった、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(現ステランティス)やフォードがかつて悩んだような難しい判断に苦しむ必要もない。
コタギリCEOは、電気自動車(EV)大手のテスラ(Tesla)や2021年後半にも新型EVピックアップトラックを市場投入する注目株リビアン(Rivian)など具体名をあげつつ、「レガシー自動車メーカー、スタートアップを問わず、マグナは他社以上に大きな価値を提供できる」と自信のほどを語った。
2020年のマグナは財務面で3つの成功をおさめた。
すなわち、株価は上昇し、企業価値をを端的に示すフリーキャッシュフロー(=事業活動の結果、企業の手元に残る資金)は2018〜20年の間に60億ドル(約6300億円)まで増え、自社株買いと配当を通じて投資家に47億ドル(約5000億円)を還元した。
マグナはパンデミックの厳しい状況下でも配当を維持、それどころか最近は増額に動き、現在は1株あたり0.43ドルとなっている。配当と自社株買いを一時中断して現金確保を優先したゼネラル・モーターズ(GM)とフォード(Ford)は、いずれも1年かけて株価こそ回復したものの、まだ復配には至っていない。
アメリカのレガシー自動車メーカーは新型コロナ感染拡大とその影響による2カ月間の工場操業停止で大きなダメージを受けた。2020年のアメリカにおける乗用車・トラックの販売台数は、2019年比でざっと150万台減った。
そうした苦しい状況のなかで、GMとフォードは今後20年間で両社合わせて600億ドル(約6兆5000億円)を投じ、ラインナップのEVへの切り替えを進める計画を発表している。
「マグナは資本の配分について、何より規律を重視する。私自身も常に、足もとの収益性と将来の成長は表裏一体の関係にあると考えるようにしている。手もとに現金がなかったら、新製品をつくることも、工場を建設することもできない」(コタギリCEO)
マグナのファースト・プライオリティはいつも変わらず、成長につながる事業に投資し、余剰資金を投資家に還元することだという。
内燃機関車からEVへの移行に不安はない
マグナは成長のための投資をいっさい惜しまない。電動パワートレインやドライブアシスト、車載電池パックの設計といった「メガトレンド」分野のエンジニアリングに、今後毎年6億ドル(約650億円)を投じる計画だ。
ただし、メガトレンドへの投資は同社にネガティブな影響をもたらす可能性もある。
例えば、電動パワートレインが台頭すれば、マグナがこれまで築いてきた全輪駆動(AWD)・四輪駆動(4WD)システムに関する技術が失われていくかもしれない。それでも、同社はそうした内燃機関車時代の構成が、いずれ電気を動力源とする機構にシフトしていくとみて、すでに準備を進めている。
シャシーや電気系統、シートなど、EVに移行しても影響を受けない技術のフロントランナーであることも、マグナにとってはプラスだ。内燃機関から電動パワートレインへのシフトが一気に進んだとしても、マグナの事業基盤が揺るぐことはない、コタギリCEOはInsiderにそう強調した。
「台頭しつつある(EV関連の)システムの多くは、既存の製品ラインナップがもとになって生まれてきているもので、マグナにとってはまったく違和感なく、移行には何の問題もない。だからこそ、我々はとてもポジティブに考えられるのだ」
(翻訳・編集:川村力)