単身世帯の老後はどうなる?不安な人必読。共に暮らす「パートナー」の存在がカギ

手と手

多様化する世帯の形。「夫婦」という形だけにとらわれず、老後の年金について考えてみよう。

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日本の年金制度は、同じ世帯収入の共働き世帯と片働き世帯における「保険料」と「年金額」は同じで、専業主婦(夫)が特別に優遇されているわけではない——。こう解説した筆者の記事に対しては、単身世帯と比較すれば不公平であることや、「夫婦」だけが特別視されているとの指摘もいただいた。

今回は、未婚の人も含め「世帯の形と年金」について考えてみよう。

「単身世帯」においても「1人当たり」では同じ

同じ世帯収入の共働き世帯と片働き世帯における保険料と年金額が同じであることは、以前の記事でも説明した。

夫のみが会社員として働き年収500万円を得る片働き夫婦の世帯Aと、夫婦とも会社員として年収250万円ずつを得る共働き夫婦の世帯Bでは、いずれも年当たり46万円の厚生年金保険料を負担し、いずれも年当たり262万円の年金を受け取る

厚生労働省が公表する2020年度現在の夫婦世帯のモデル年金額(標準的な年金額)は年265万円であり、このくらいが現在の夫婦世帯の平均的な年金受給額である。

ここで、世帯Aと世帯Bをいずれも「(成人)1人当たり世帯収入250万円」の世帯と捉え、「1人当たり世帯収入」が同じ250万円である、年収250万円の単身世帯Cと年金の保険料と給付を比較してみたものが図表1である。

図表1

【図表1】「(成人)1人当たり世帯収入250万円」の世帯の年金の比較

出所:法令等をもとに大和総研試算

図表1を見ると、片働き夫婦の世帯A・共働き夫婦の世帯B・単身の世帯Cのいずれも、1人当たりの厚生年金保険料は年23万円、1人当たりの年金は年131万円と等しくなっていることが分かる。

このように、日本の年金制度は「1人当たり」で世帯収入が同じ世帯に対しては、原則として同程度の負担を求めて同程度の給付を行う、おおむね公平な制度設計となっている。

もっとも、ここには2つの難点がある。一つは、「1人当たり」の年金給付額が同じであっても単身世帯は「1人当たり」の生活費が割高になること、もう一つは同じ「世帯」であっても「配偶者」という関係性だけが特別視されている点である

年金だけでは生活できない単身高齢者増加の懸念

単身高齢者

単身高齢者の問題は、日本で深刻化している。しかし、単身世帯が年金で生活するのは厳しいのが現状だ。

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人数が異なる世帯の間で家計の豊かさを比較するとき、国際的には、1人当たりの所得(または可処分所得)ではなく、世帯所得を世帯人数の平方根で割った「等価所得」(または等価可処分所得)を使うことが一般的だ。

これは、世帯人数が増えても、必要な生活費は人数の平方根程度にしか増えていかない、という経験則に基づくもの。すなわち、世帯人数が1人、2人、3人……と増えるにつれ、必要な生活費は1、2、3……と増えるのではなく、ルート1(=1)、ルート2(≒1,414)、ルート3(≒1.732)と、増え方が緩やかになっていく。

1人あたりに必要な生活費は、1、0.707、0.577と世帯人数が増えるほど小さくなり、「規模のメリット」が生じるのだ

もう一度、図表1を見てみよう。現役時代に年収250万円だった単身世帯Cに支給される年金額は、年131万円に留まる。これは、地域によっては生活保護制度が保障する高齢者単身世帯の最低生活費(最大年160万円、住宅扶助含む)を下回る

夫婦が年金持ち寄る生活のメリットはある

一方、現役時代の年収が1人当たり250万円で年金が1人当たり年131万円であっても、夫婦2人が年金を持ち寄る「共働きの世帯B」では、計年262万円の年金は、全国全ての自治体における高齢者夫婦世帯の最低生活費(最大年221万円、住宅扶助含む)を上回る(※)。

※最低生活費は、厚生労働省「生活保護基準の新たな検証手法の開発等に関する検討会」(2019年3月18日)の資料による2018年10月時点の金額。

実際に、65歳以上の高齢者のうち、2人以上の世帯に属する人の生活保護受給率は0.9%に過ぎないが、単身女性は9.1%、単身男性では16.6%に及ぶ(※)。高齢単身世帯の生活保護受給率は、女性で10倍、男性で18倍にも上るのだ

※厚生労働省「社会保障審議会 生活困窮者自立支援及び生活保護部会」(2017年7月11日)の資料による2015年度の値。

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図表2は、「50歳時の未婚割合」の推移と政府の将来推計である。

1940年代〜50年代生まれの世代は女性の9割以上、男性でも8割以上が50歳までには結婚しており、単身のまま高齢期を迎える人は比較的少なかった。しかし「50歳時の未婚割合」は後に生まれた世代ほど上昇しており、今後も上昇が見込まれる

これから、年金だけでは生活できない単身高齢者が増えていくことが懸念されるのである。

老後をともに暮らすパートナーづくりを支援しよう

カップル

若い人向けに行われている結婚支援事業。ただし、老後を安定的に過ごすためにも、老後からのパートナー作りができないだろうか。

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では、どうすれば貧しい高齢者が増えることを防げるだろうか。

政府としてNISAやiDeCoの拡充など、老後のための自助努力の資産づくりを支援する動きは見られる。これに加えて、老後をともに過ごすパートナーづくりも政府として支援することはできないだろうか

政府や地方自治体は出会いの機会の提供などの、結婚支援事業を行ってはいる。しかしその目的は少子化対策として位置づけられているため、支援の対象は若者が中心となっている

そもそも「50歳時の未婚割合」という指標は、従来は「生涯未婚率」と呼ばれており、50歳以上の婚姻に政府としての関心が低かったことの表れともいえる。

現在、単身の高齢者が男女100人ずつ計200人いれば、そのうち26人は生活保護受給者である。もしこの200人の高齢者が100組の夫婦を形成した場合、「2人以上の世帯」の生活保護受給率は0.9%であるため、生活保護受給者は2人(≒200人×0.9%)まで減る可能性がある

50歳以上の結婚が増えても出生率の向上効果はほとんどないだろうが、単身の中高年が自ら望む形でパートナーを手に入れることは、その人の生活を安定させるだけでなく、生活保護が必要となる人を減らし財政にも良い影響を与えるだろう

「夫婦」であることのメリットは大きい

食卓

世帯の形に関係なく、同居することで生活費の負担は軽減する。

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もっというと、そのパートナーは異性である必要もない。

日本の民法では、現在同性同士の結婚は認められていない。だが、米国や英国、ドイツなど先進主要国のなかでは同性婚を (司法判断を含め) 認める国が増えてきており、国内でも同性婚を認めないことは、憲法が保障する法の下の平等に反するとの司法判断が出てきた(2021年3月17日の札幌地裁の判決)。

最新の世論調査では、同性婚を「認めるべきだ」と答えた人が65%と「認めるべきではない」と答えた人の22%の3倍近くに達している(2021年3月22日付朝日新聞朝刊3面)。

生活費の「規模のメリット」は、正確には「結婚」ではなく「同居」により生じるので、同性カップルも2人とも働いている間は生活が安定するだろう

だが、 現役時代のうちにカップルのうち一方が、何らかの事情により働けなくなった場合については、現行制度では大きな格差が生じている

「夫婦」であれば一方が他方の「第3号被保険者」となることができるが、同性カップルにはその選択肢はない。

日本の年金制度は「1人当たり」で世帯収入が同じ世帯に対しては、原則として同程度の負担を求めて同程度の負担の給付を行う仕組みになっている。しかし現状、その「世帯」に含まれるのは異性の夫婦だけで、同性カップルは含まれていないのである

同性カップルも「共助」の輪の中へ

同性パートナー2

同性婚が認められれば、経済的に安定し、幸せに暮らせる世帯も多くあるはずだ。

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もっとも、憲法24条の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」するという規定が同性婚を禁止しているという見解もあり、政府はこの見解に明確な賛否を示していない(※)。

同性婚の実現のために憲法の改正や判例の確立などが必要だとすると、 婚姻手続等を見直す最終的な民法の改正までには年月を要する可能性も考えられる。

※「衆議院議員逢坂誠二君提出日本国憲法下での同性婚に関する質問に対する答弁書」(平成三十年五月十一日)による。

しかし、筆者は民法の改正を待たずとも、「健全な国民生活の維持及び向上に寄与する」(国民年金法第1条)という年金制度の目的を達するために、年金制度において対応を進めることは可能であり、実行すべきだと考えている

年金制度において同性カップルが夫婦と同等に扱われるようになれば、カップルのうち一方が働けなくなったときも「第3号被保険者」制度を利用することで、世帯収入に比して過大な保険料を求められることはなくなる。

カップルのうち一方が亡くなった後も遺族年金により生活を安定させることができる。

年金制度として同性カップルを保護することによって、セクシャルマイノリティのカップル維持・形成に おける障害を取り除くことは、「貧しい単身高齢者」を減らし、生活保護費を減少させる ことにもつながるだろう。

菅首相は2020年10月の施政方針演説にて、目指すべき社会像を「自助・共助・公助」だと述べた。

同性カップルを社会保険の「共助」の輪の中に入れることで、当事者の「自助」が促進され、「公助」による財政支出を持続可能な水準に向けて抑えていくことは、まさに菅政権が目指している社会像ではないだろうか。

(文・是枝俊悟


是枝俊悟:大和総研主任研究員。1985年生まれ、2008年に早稲田大学政治経済学部卒、大和総研入社。証券税制を中心とした金融制度や税財政の調査・分析を担当。Business Insider Japanでは、ミレニアル世代を中心とした男女の働き方や子育てへの関わり方についてレポートする。主な著書に『35歳から創る自分の年金』、『「逃げ恥」にみる結婚の経済学』(共著)など。

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