大企業から医療スタートアップへの転身。アイリス・田中大地COOがキャリアチェンジした理由

田中氏と沖山氏

医療の課題を当事者として実感し、「既存メーカーでは切り込めない」領域に挑戦するアイリス。その展望を、代表取締役社長の沖山翔氏と、執行役員COOの田中大地氏が語ってくれた。

記事前編では、救命救急の専門医だった沖山氏が創業に至るまで、そしてアイリスが挑むビジネスの大きさに迫った。後編では、その事業に可能性を感じ、大きくキャリアチェンジをして「3番目の社員」として加わった田中氏が転身を決めた心境に迫った。

31歳、やり手のビジネスパーソンが、転職を即決した理由

田中氏

田中 大地(たなか・だいち)氏/2008年早稲田大学卒業後、リクルート入社。営業、ネットビジネス推進室にて事業開発を経験後、ヘルスケアITメガベンチャーのSMS社へ。2018年4月アイリス株式会社に入社、翌年4月COO就任。Beyond Next Venturesヘルスケアエキスパート、DTx研究会 IoMD WG発起人・WG長。

──アイリスが持つ可能性や事業機会を活かすビジネスパーソンの一人として、田中さんも可能性に賭けて転身を決められた。ここまでの経歴から、まずは教えてください。

田中:僕はリクルートのネットビジネス推進室で事業開発に携わったり、ヘルスケアITとしてはメガベンチャーとなったエス・エム・エスで医療メディアを立ち上げたり、直近はシンガポールでアジア最大の医師プラットフォーム企業におけるWeb部門のヘッドを務めていました。

この10数年、当然のように「どこが競合他社か? どのような参入障壁があるか?」と考える環境に身を置いてきた。ところが沖山と事業の話をしてみると、彼はピュアに「競合はいない。みんな、課題を解決していくムーブメントを作る同志だ」と本気で言う。そう言い切れる経営者が数少ないことも経験上、知っています。

僕にとって転身の最大の理由は、事業面の魅力より、「沖山翔という人間の使命感」に心打たれたのが大きいです。沖山と知り合ったのは彼がメドレーの執行役員時代。その職を退任した彼の動向は、界隈でも有名だったんです。「あの沖山翔が医療AIの研究を始めたぞ」と。

2016年当時、僕はシンガポールで医療関連事業を手掛けていました。ある時、AIの医療現場やビジネスにおけるインパクトを聞かせてもらいたくて、医師でもある沖山に会いに行った。すると、今のアイリスの公式サイトに載せている「代表挨拶」にまとめているような、テクノロジーとAIで「匠の技」が引き継がれた人類の未来について、彼は滔々と語ってくれた。

その話に、僕は全くついていけなかったのです。沖山と僕は同い年で、当時31歳。同じく医療事業に身を置く人だと思いきや、まったく異なる世界を見ている。ただ圧倒されました。そして1年後に、アイリスを立ち上げた沖山から初期メンバーの一人として誘われた。「これはもう、行くしかないな」って、迷わずに思いましたね。

自分が心からすごいと思える人物が使命感を見出し、その人生を賭けた挑戦に誘われて、乗らない理由がないと感じました。だから、事業そのものに魅力を感じ始めたのは、実は転身後のことだったというのも正直な話です。

「ここで人生を張るべきだ」

──とはいえ、30代前半という年齢はビジネスパーソンとしても、ライフイベントとしても、なかなか現実的な「壁」や「不安」が見えてくる年齢ではと思います。それでも決断したのは、田中さんに環境を変えてみたいモチベーションがあったのですか?

田中:特段に転職活動をしていたわけではないですが……モチベーションはありました。率直に言うと、アイリスに入る以前には20社ほどの企業から誘われていたんです。求めてくださるのは嬉しい一方で、意思決定するまでには至らなかった。

でも沖山に誘われた時には、その場で意思決定するほど心が動いた。むしろ、ここで断ってしまったら、彼と話す機会は二度と訪れないかもしれないとさえ思ったのです。「ここで人生を張るべきだ」とリスクを全力で取りに行きました。事実、もし僕が転身を選ばなければ、現在の沖山翔とは普通に話すことさえもできなかったと思うほど、互いの成長を感じます。

沖山氏

沖山 翔(おきやま・しょう)氏/2010年東京大学医学部卒業。日本赤十字社医療センター(救命救急)での勤務を経て、ドクターヘリ添乗医、災害派遣医療チームDMAT隊員として救急医療に従事。2015年 医療ベンチャー株式会社メドレー、執行役員として勤務。 2017年 アイリス株式会社 創業、代表取締役。

沖山:田中に声をかけたとき、まだアイリスは医師2人だけのスタートアップでした。僕と、厚生労働省に出向していた加藤(※取締役副社長CSO)の2人。スタートアップにおいて、初期メンバーは重要です。田中は「事業で生きていく!」という事業家としてのプライドを持ち、自分なりのスタンスを持っていると感じていました。そういう同世代の人間には、なかなか出会えません。

また田中は、「誰かの背中についていくフェーズ」を乗り越えている人でした。「僕らの背中を任せられる人」だったんです。

「変われる自分」と「変わりたい自分」を大切に

──田中さんはアイリスにジョインして、どのようなことを手掛けましたか。

田中:一言で表すなら「なんでも」という感じ(笑)。AIエンジニアもハードウェアエンジニアもおらず、当時はビジョンと足下の地続き感が全くないフェーズでしたから。聞いていた事業内容はAIとハードウェアをかけ合わせた医療機器で、最初のターゲットはインフルエンザ検査法でしたが、そもそも僕自身がどれ一つ経験したことがありませんでした。

これまで僕はずっとWebサービスに携わってきて、逆に言えばWebサービスの経験しかなかった。それでもリスクテイクして「やろう」と思えたのは、アイリスのビジョンを実現したい想いに加えて、「変われる自分」と「変わりたい自分」を強く感じていたのでしょう。むしろ、自分から「変わろう」と思えなければ、このロールは引き受けられなかったです。

大企業とスタートアップという差も、これまでの事業ドメインとの乖離も、確かに前職から比べるとギャップだらけでしたし、誘われたときはまったく貢献できる気がしなかった。「本当に僕でいいんですか?」と聞き返したほどです。それでも自身の「変化」に重要性を置いていましたし、大事にしている部分だからこそ進めたんです。

──実際に加わってみて、期待通りの成長を感じていますか?

田中:今のアイリスはみんなが入社後、別人のように成長していく環境で、この環境に身を置くこと自体が僕自身も一番の成長につながっていると感じています。これが大企業にいたとしたら、期待される成長は「前年比プラス20%」かもしれない。それだって、素晴らしい度合いです。でも、アイリスはそういうレベル感ではない。そこは大企業とスタートアップの大きな違いかと思います。

僕は「リスクを取らないという意思決定のほうが、人生にとってはリスクである」と捉えていて。変化が激しい時代だからこそ、変化できなくなるリスクが大きくなってきた。「周囲の人間の平均が自分になる」という「5人の法則」も良く聞きますが、アイリスのメンバーにはエクスポネンシャル(指数関数的)な成長を感じているし、かつ変化を望んで実践もしています。

沖山:そうですね。世の中にAIが出始めで、「何の頭文字だっけ?」なんて言っていた頃を、みんな忘れつつあるじゃないですか(笑)。AIは研究室の中だけにあるものではなく、スマホを始め、世の中に当たり前にあるものになってきた。

この変化もたった5年ほどです。同じようにまた新しい技術が出てきて、5年も経てば、社会ではそれが当たり前になる。だからこそ、「変われる自分」であり続けることは最も大切で、世の中を変えるべくキャッチアップと挑戦を続けることが、最先端に居続けるための素養だと考えています。

田中には「変わりたいし、変わらなければいけない」という強い思いがあります。前職では事業責任者として常に覚悟とプライドをもって歩んできたキャリアを備えながら、「裏表のなさ」という素直な人柄も持ち合わせた稀有な存在だと思います。

企業と個人のミッションが重なり合う仕事を

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──田中さんは事業組織をイチから作ることを通じ、また他社での経験とも比べて、どんなカルチャーに「アイリスらしさ」を感じますか?

田中:いくつもありますが、まずは「変化」です。僕自身とアイリスの関係も社員数名、資本金300万円という状況から、使命感に打たれてスタートしたわけですが、そのように「自分自身で変えていく」という当事者意識が高い人が多いと感じています。

そうなれるのは、アイリスは「企業のミッション」と「個人のライフミッション」に重なりが強いカルチャーだからだと思います。よく聞くのは「企業のために時間を使う=人生にとっての時間を奪われる」という構造で、だからこそ“ワークライフバランス”という言葉が生まれてきたのだと、僕は理解しています。

ただ、アイリスには企業と個人のミッションが重なり合っていて、時間を奪う/奪われるという構造になっていない人が多く、それが強みでもあると感じます。それぞれが自分自身で正しいと思える意思決定をしていく点で、性善説に基づくカルチャーでもありますね。そして、そのミッションが100%重なっているのが沖山翔という経営者なんです。

──どんなときに、その100%の重なりを感じますか。

田中:僕が好きなエピソードで、アイリスはこれまで数十億単位の資金を調達してきましたが、あるとき沖山が、「もし僕が個人的に同じ額のお金を持っていても、今と全く同じ使い方をした」と話していたことです。普通なら自分に少しは使って、残りで勝負するところじゃないですか(笑)。こんな起業家、他にいなかったなと。

沖山:病院勤務を通じてのやりがいを最大に感じられていたなか、新たな挑戦に踏み切ったのには、現場とは別軸の使命感がありました。自分が最大限に熱意を発揮し続けて、没頭できるのが、アイリスです。ミッションの重なりが100%というのは、そういうところを見てくれているからなのかなと思います。もっとも、今現在すでにライフミッションが明確な人だけでなく、「ミッションを持とうとしており、それを昇華させていこう」と考えている人にも良い会社だと思います。自分から遠すぎる背中って、なかなか追えないですよね。でも、自分の半歩先の人がいるとロールモデルにもなる。

アイリスはそんなふうに、社会にインパクトを起こしていくためのロールモデルとなる存在がたくさんいる場所だと思います。各領域の専門家なら、日本にも数多くいます。たとえば厚生労働省には3万人の職員がいる。でも、その中から「自分が変えよう」と志向して初期のスタートアップに飛び込む人はごくわずかしかいないものです。

それはエンジニアでも医療者でも同じで、規模の差はあれどそれぞれは少数です。おそらく、日本中から集めてきても、アイリスのような構成のチームとしては2社分か3社分の人材しかいない。ここでアイリスが結果を出せれば、あとに続く同志たちが増え、20社も30社分もの人が社会に現れ、変化の輪が大きく広がっていく……その走りとなる最初の一社にならねばと思っています

──働き方の面では、意識的に工夫していることはありますか。

田中:ミッションの重なりを高める制度を設けています。たとえば、AIエンジニアは機械学習とデータサイエンスに関する競争プラットフォームの「Kaggle」への参加に一定の業務時間を割り当てられます。また全社員が、成長のための自己研鑽や研修に補助を出す制度を活用しています。

そのほか、リモートワークにも意識的に取り組んでいます。生産性や効率性といった議論を超えて、「住む場所」と「働く場所」を両取りできるようにしていきたい。住みたい地域を選び、そこからでも本気で働いて事業に関わるというのが、経営的にもポジティブな働き方だと考えていますし、そういう仕事を提供できると思っています。

実際に、アイリスには神戸や岩手、宮崎など日本各地に社員がいます。取締役CTOの福田敦史は、もともとフルリモートワークで有名なキャスターのCTOでしたから、そういったカルチャーがいかに成立するかを知っているのも要因の一つでしょう。

沖山:アイリスはフェーズで言えば「0→1」を経て、拡大していく「1→10」にまさに今から入るタイミング。ここまで来てはじめて社会へ価値が届けられますし、これからは事業の内容もようやくオープンにしていくことができます。同時並行で事業が立ち上がり、より劇的で変化のある、そんな3年間が新たに始まるところです。

中途半端な仕事をしていたら誰もが居心地良くない。みんなが「甲子園で優勝」という一つのビジョンに向かっている高校野球部のようなもので、自分の持ち場は各自が守る。周りを思いやることは大事ですが、ただ持ち場を離れて助けに行ったら、穴が空いてしまう。互いを信頼して任せ合う組織でありたいと思っていますし、それがプロフェッショナルな姿だなと思っています。

強烈な「型」を持つ人が輝く、これからの医療事業

──最後に、これから医療事業に携わりたいと思う人へ、メッセージをお願いします。

田中:今後、人口減少という避けられないトレンドがあるなかで、産業ごと成長していく業界は医療、ヘルスケア、介護しかありません。金融がFintechに、自動車がMaaSに置き換わるようなことはあれど、産業そのものが成長していく構図にはなりません。

唯一、事業機会が増え続けるのが医療です。だからこそ、エス・エム・エスを選んだときから、自分も医療領域の事業を手掛ける以外の選択肢はなかったです。そして、アイリスが挑んでいるのは、その医療業界の既存事業の効率化や改善だけでなく、本丸ともいえる診断や治療そのものです。チャンスの大きさは、外部環境からでも感じてもらえるはずです。

田中氏と沖山氏2

沖山:アイリスには医師やエンジニアを含めたスペシャリストが在籍しています。今後はビジネスの専門家たちが、彼らと一緒に課題を抽出し、ソリューションを考え、意思決定をし、ステークホルダーを巻き込んで事業を推進していく……この繰り返しこそが、アイリスの次なる展望に必要です。

そして、この繰り返しにおいて、医療業界の経験は必須ではありません。そこは社内のスペシャリストが既にカバーしています。必要なのは事業化できる「型」に他ならない。金融や人材といった業界で、強烈な「型」を持って突き進んできた人にとっての新たなフィールドとして、その仕事の価値が深く転換されるのが、これからのアイリスと医療業界だと思います。

田中:まさに「価値の源泉」に足るアセットは揃いました。事業機会は、眼前に広がっている。これらをしっかりと事業にしていく人が活躍できるフィールドです。

沖山:「価値の源泉」と「事業化」は、車の両輪なんです。これまでのアイリスは医学的な「価値の源泉」を生むところが得意でした。これからはそれを価値化する立ち回り役がもっと必要です。妥協しないど真ん中の価値創出を目指し、医療の中央へアプローチしつつも、その専門性を担保する盤石のチームが既にある。ある意味、医療をバックグラウンドとしない方にとってこれほど本質的な挑戦に携われる機会は、アイリスしかないと思っています。

アイリスについての詳細はこちら

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