素材ベンチャーが少ないのはなぜ?物質・材料分野のベンチャー設立加速へNIMSとVCが相互協力の覚書締結

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物質材料研究機構とUMIの覚書締結に関するリリース。

撮影:三ツ村崇志

物質材料研究機構(NIMS)と、素材・化学産業に特化したベンチャーキャピタルのユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)は4月22日、相互協力の覚書を締結したことを発表した。

昨今、大学や研究所などのアカデミアからベンチャーへ進出する流れが加速しているものの、実はその大半はバイオ系やIT・情報関係というのが実情だ。

今回の取り組みは、日本がもともと得意としてきた物質・材料系の研究を起点としたイノベーション創出を加速させる意図がある。

物質・材料系のベンチャー、なぜ少ない?

出典:nimspr「NIMS x EUPHRATES 未来の科学者たちへ」より

NIMSは、理化学研究所や産業技術総合研究所などと同様の国立研究開発法人。規模は少し小さいものの、物質・材料を専門に研究する国内唯一の公的な研究機関で、世界的にも評価は高い。

LEDライトの光の色を調節するためなどに使用されている発光体「サイアロン蛍光体」の開発や、ボーイング787のジェットエンジンに使われている「超耐熱合金」など、NIMS自体が直接材料を販売しているわけではないものの、企業とコラボレーションすることでNIMSが研究開発した素材を量産化し、実際に製品として社会に貢献してきた。

近年では、高い温度でも性能を維持できるネオジム磁石。アルミや鉄などの一般的な元素から高い効率の熱電材料(温度差によって電力が生じる物質)。さらに、医療への応用が期待される熱や光などの刺激に応じて性質を変えるスマートポリマーの開発など、ユニークな材料研究が目立つ。

昨今、世界的に注目されている、機械学習などを含む情報処理技術を活かした材料開発「マテリアルズ・インフォマティクス」分野でも、国内でのデータ整備といった中心的な役割を担っており、日本の物質・材料研究において欠かせない研究組織だ。

ここ数年、大学や研究所発のベンチャー設立数が増加傾向にある中で、NIMSからも複数ベンチャーが立ち上がってきた。

ただし、NIMS広報は、

「NIMS発ベンチャーが立ち上がるにあたって、起業を志す研究者は、その準備として自らの努力と能力によるところが大きい。NIMSからの支援は、施設、設備の有償貸与、特許実施料一時金の免除等起業後のものに限られていたところです」

と、研究所としての課題があったと話す。

今回のプレスリリースでは、UMIとの相互協力の中で、起業前の研究者に対するUMIの知見に基づいたアドバイスや、パートナー企業の紹介といった支援がなされる予定だとしている。

またこの取組には、研究者はもちろん、それを支えるNIMSの職員を含めたNIMS全体の起業に対する知見向上を期待している側面もあるとしており、研究所としてベンチャー支援を加速させる意向が伺える。

NIMSは、もともと研究力のある大企業と連携するなどして、研究成果を社会実装する取り組みを続けてきた。

今回、あえてベンチャー設立支援に力を注ぐ姿勢を示したことについて、

「大企業には実装力に期待がある一方で、当該企業自身で社会実装いただく場合には、比較的大きな市場が確保されているなどの事業スタートへの制約があることが多いように思います。

そうした大企業を含めて、弊機構の研究者自身が起業し、市場に新領域の産業創出するきっかけをつくることを期待されているのではないかと考えております」(NIMS広報)

と、国内の物質・材料研究のトップランナーとして物質・材料分野でのイノベーションを加速させようとする意図があるとしている。

(文・三ツ村崇志

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