電子商取引(EC)プラットフォーム大手Shopify(ショッピファイ)の経営体制変化について、投資家やアナリストからさまざまな見方が出ている。
Burdun Iliya/Shutterstock.com
カナダの電子商取引(EC)プラットフォーム大手Shopify(ショッピファイ)の経営体制が大きく変わろうとしている。
トビアス・リュトケ最高経営責任者(CEO)は4月14日、同社の最高経営幹部の半数近くが今後数カ月の間に退社すると発表した。
トップ経営陣7人のうち、最高技術責任者(CTO)のジャン=ミシェル・レミュー、最高法務責任者(CLO)のジョー・フラスカ、最高人事責任者(CTO)のブリタニー・フォーサイスの3人が去るという。
創業20年弱ながら時価総額でカナダ最大の企業へと成長を遂げたShopifyだが、最高製品責任者(CPO)のクレイグ・ミラーが2020年9月に退社。それからわずか半年ほどでさらに3人の経営幹部が離脱する急変の影響を懸念する声が、投資家たちからあがっている。
ミラーの退任後、CPOのポジションはリュトケCEOが兼務しているが、新たに空席となる3つのポジションを誰が引き継ぐかについて、Shopifyはまだ発表していない。
アナリストらはInsiderの取材に対し、Shopifyは優秀な人材を豊富に抱えているため、後任はほどなく決定するとみられ、今回一挙に3人の経営幹部が抜けるとしても、会社の方向性に大きな影響を与えることはないと語る。
とはいえ、常にテクノロジーの革新を求められるテック企業にとって、それをけん引する人材をいかに確保するかは永遠の課題だと、アナリストらは併せて指摘する。米資産運用大手グッゲンハイムのケン・ウォンは次のように分析を語る。
「最高製品責任者(CPO)と最高技術責任者(CTO)は普段から密接に連携して役割を果たしている。前者が製品やサービスの機能性や顧客のニーズ把握、市場開拓などの方向性を示し、後者は背後であらゆる技術的問題を解決し、顧客のニーズに見合った機能や方向性を実現する。
したがって、今回その両方がいなくなるということで、少なくとも一部の投資家にとっては、予定されている新たなプロダクトの一部がうまくいかなくなる懸念として映っているのではないか」
「5カ年計画」の実現性に懸念を抱く投資家
前出グッゲンハイムのウォンは、投資家たちの注目は「フルフィルメント」(=受注から梱包、受け渡し、代金回収までの一連のプロセス)に集まるとみる。
2019年、Shopifyはフルフィルメントのネットワーク構築に向けた5カ年計画を発表。投資家たちはこのフルフィルメント拡充により、ShopifyがECの巨人アマゾンを脅かす存在になると期待を寄せる。
同計画は、5年で総額10億ドル(約1080億円)を投じ、自社開発の物流テクノロジーと配送パートナーの協力を得てフルフィルメントセンターを建設・運用する内容。
そうしたネットワークの構築により、個々のマーチャント(=ECストアの出店者)に安価で効率的な配送手段を提供できるようになれば、アマゾンが展開するフルフィルメントサービスとの互角の競争も現実味を帯びてくる。
投資家たちが懸念を抱くのは、Shopifyが5カ年計画のごく初期段階にとどまったままで、同社がこれから構築するフルフィルメントネットワークがどれほどの収益を生み出すのか、定量的なデータを(投資家に)まだ十分に開示できていないからではないかとウォンは指摘する。
Shopifyフルフィルメントネットワーク(SFN)を利用するためには、マーチャントが申請する必要がある(現時点ではアメリカとカナダ限定)。
エイミー・シャペロ最高財務責任者(CFO)は、2020年第4四半期(10〜12月)の決算説明会(2月17日)で、ネットワークは「形になってきている」と表現している。
「1年半前に発表した5カ年計画に従い、フルフィルメント能力を拡大する前に、品質とマーチャント支援にフォーカスしたプロダクトマーケットフィット(PMF、市場ニーズに合致したプロダクトの最適化)を引き続き進める。
具体的には、テックスタックとフルフィルメントの完全統合を実現するソフトウェアを開発し、マーチャントのニーズを最大限満たす物流倉庫ネットワークの調整、マーチャントの導入支援を加速するなどノードネットワークを最適化していく」(シャペロCFO)
2021年は「2021人」エンジニア採用
Shopifyは2021年に「2021人」エンジニアを採用する。特設ページにはすでに数多くの求人が掲載されている。
Screenshot of Shopify website
アナリストのなかには、経営体制の変化は、Shopifyの(パンデミックを背景とした)躍進の結果と見る向きもある。同社の2020年の売上高は前年比86%増、流通取引総額(GMV)も前年比96%増、いずれも圧倒的な数字だった。
みずほアメリカのマネージング・ディレクター(株式市場アナリスト)シティ・パニグラヒは、Shopifyのような急成長を遂げつつある企業で、離脱者が相次ぐのはよくあることだと指摘する。
しかも、今回退社することが決まった3人の経営幹部は、いずれもかなり長くShopifyに在籍し、新天地を求める動きがあっても何もおかしくないというのがパニグラヒの見方だ。例えば、フォーサイスは22番目の社員で、2010年から在籍。フラスカは同社の初代法務担当者で、2014年に入社している。2020年9月に先駆けて退社したミラーも、在籍期間は9年におよぶ。
経営陣の離脱に注目が集まる一方、Shopifyは2021年に「2021人」のエンジニアを採用して開発チームを倍増させる計画を発表している。
「Shopifyの製品・サービスともに現段階としては成熟している。経営体制の変化はどちらかと言えば、ここまで築いてきた会社のカルチャーを守る動きと言えるだろう。(離脱者が出たとしても)Shopifyにはすでに十分な実績があり、いつでも優秀な人材を集めることができる」(パニグラヒ)
Shopifyにコメントを求めたが、記事公開までに返答はなかった。同社は4月28日に2021年第1四半期(1〜3月)の決算発表を予定している。
(翻訳・編集:川村力)