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NIKE戦略に見る「次の小売戦略」とは何か。“脱アマゾン”進めるカテゴリーリーダー企業

こんにちは。パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナーの石角友愛です。

先日、いつも使っているランニングシューズが古くなってきたため買い換えようとアマゾンで探したところ、私が探していたNIKEのスニーカーが販売されていないことに気がつきました。

アマゾンでは、限られたメーカーの靴、または限られたブランドラインしか売られていないのです。

実は、このことにはオンライン販路をめぐる昨今の大きな流行が関係しています。

強い訴求力を持つコンシューマーブランドのメーカーが、他社小売りでの販売を次々と解消し、特定の小売りとの連携を強化することで、ブランド力を維持しながら独自の流通経路を拡充してD2C事業を強化する……という最近の動きがあったからなのです。

例えばNIKEは、一部を除いて小売業者にスニーカーを卸す販売モデルを中止しました。今後はDicks Sporting GoodsやFoot Lockersなど大手スポーツ用品小売業者にのみスニーカーを卸し、その他は独自のD2C事業に注力することを発表しました(アマゾン上での直接販売は2019年時点で中止)。

なぜこうした戦略をとるのでしょうか。

NIKEが販路を絞り、D2Cを強化する合理的な理由

NIKEの店舗

カテゴリーリーダーになるNIKEのようなブランドは、取り引きする相手や販路もユーザーのロイヤリティとブランド構築の観点から選んでいくことになる。小売企業とメーカーの関係性はECの時代に変化が進む。

Uino / Shutterstock

実は、この選択はNIKEにとってさまざまなメリットがあります。

  • 消費者のロイヤリティが高くなる
  • NIKE直営店舗や独自のオンラインサイトでの販売に絞ることで、顧客体験や値段をフルコントロールできる
  • 消費者のデータがオムニチャネル(※ネット・実店舗の販売を統合した購買データ)で集めやすくなる
  • オペレーションや物流を効率的に行えるので利益率が高くなる(利益が2倍になるとNIKEは発表しています)

実際、NIKEの最高財務責任者(CFO)のMatthew Friendは「当社が2017年に初めて“これからは40の厳選された小売パートナーにリソース、マーケティング、トップ製品を集中させる” という戦略を発表して以来、北米におけるその他一般小売パートナーの数をおよそ30%減らすことができました」とインタビューで発表しています。

独立系や中小規模の小売店舗がNIKE撤退により大打撃を受けている反面、スポーツ用品大手のDicksやFoot Lockerなどの小売業者が、NIKEに「これからも販売を続ける小売店舗」として選ばれているのはなぜでしょうか。

その理由は、大手が持つ集客力だけではなく、自分たちのブランドを店舗内で厚遇してくれる「メーカー差別化型小売店舗」だからです。

小売企業の生き残りかかる「メーカー差別化型」とは何か

こういった事実から、小売業者の今後の命運はNIKEのようなカテゴリーリーダーに位置する巨大メーカーにとっての「メーカー差別化型」店舗になれるかどうかにかかっているといっても過言ではないでしょう。

その「メーカー差別化型」店舗の条件とは何か、最新事例を見ていきたいと思います。

戦略1. 新顧客体験の提供による潜在顧客リーチ

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Dicks Sporting Goodsの店舗内(写真はマサチューセッツ州ダンバースにある店舗)。大規模なスポーツ専門店だが、超大型店舗ではさらに一歩踏み込んだ仕掛けを始めている。

QualityHD / Shutterstock

スポーツグッズ専門店として全米に850店舗展開しているDicks Sporting Goodsは、「新顧客体験の提供」という新しいコンセプトを伴う超大型店舗「House of Sport(ハウスオブスポーツ)」を4月にオープンしました。これは、ニューヨーク郊外の3万500平方メートルを超える敷地内に、従来のスポーツ用品売り場に加えてサッカーフィールドやゴルフの練習場、室内ロッククライミングウォールなどを併設した巨大複合施設です。

これに対し、元CEOで現在はエグゼクティブ・チェアマンおよび最高販売責任者(CMO)を務めるEdward Stackが、

「これは私たちがこれまでに手がけた中で最大のイノベーションで、これまでのどのコンセプトよりも大きく飛躍した試みです。そして、私たちはその重要性を正しく理解できていると思います」

と述べていることから、ハウスオブスポーツのコンセプトが、今後のDicksの小売戦略における重要な位置付けであることが伺えます。

ハウスオブスポーツにはさまざまなエリアが設けられています。

例えば、クライミンググッズエリアでは、実際に10m近い高さの室内ロッククライミングを楽しめますし、野球グッズ売り場に設けられたバッティングエリアでは、実際に販売されている商品を試すこともできるようです。健康に良いジュースやビタミン、ヨガ用品などを提供する「ミニ・ヘルスショップ」などもあります。

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店舗左側のコートがThe Fieldと呼ばれるエリア。上で紹介したプロモ映像ではサッカーをプレイする子どもたちの様子が見える。

YouTube動画「House of Sport Victor Now Open」より

さらに、駐車場の敷地を活用して、約5200平方メートルのエリアをトラック競技用のフィールドに改装、冬場はアイスホッケーリンクとして活用するとのこと。このフィールドや会議室などを含む施設の一部は、地元のスポーツチームなどに貸し出すことも想定しているそうです。

そして、ブランド力が強いメーカー(NIKE、YETIなど)の商品は店内でも一際目立つ「小売ビジネスの特等席」とも言える場所に売り場を設けるなど優遇され、消費者にその場で新しい商品体験を提供する体制も整えています。

こういった点からも、ハウスオブスポーツでは大手メーカーとの強い連携の構築に重きが置かれていることが伺えます。

戦略2. 「店舗内店舗」で購買体験を変えていく

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郊外型の大規模小売店舗Target。アメリカではおなじみの存在だ。

bonandbon / Shutterstock

Target(ターゲット)は、ウォルマートのように衣料、食品、生活必需品など多くの商品を揃えている全米8位の大手小売チェーンです。同社ではここ数年間、店内にメーカーが独自の店舗スペースを持つ「店舗内店舗」戦略を強化しています。

例えば、「店舗内Disneyストア」や「店舗内リーバイスストア」などです。また、最近では化粧品メーカー大手のUltra Beautyが100以上のターゲット店舗内に独自のストアを開設しました。

この「店舗内店舗」は、よく見かける敷地内のエリアを貸し出すだけのショッピングモール型店舗経営とは違い、支払いなどもその他の商品と合わせて行えるシームレスな体験を提供できる点が強みと言えます。

先日、ターゲットにとって最重要メーカーの一つであるAppleの店舗内店舗を、17の店舗で展開することも発表されました。ターゲット店内に「アップルキオスク(Apple Kiosk)」と呼ばれる店舗内店舗を開設し、アップルから直接研修を受けた専門の販売員「ターゲットテックコンサルタント」が接客を担当するとのことです。

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Apple Kioskのイメージ。

出典:Targetのプレスリリースより

販売員はターゲットの社員であり、他のメーカーの商品も知り尽くしています。そこにアップルの知識やスコープが加わることで、社員の質やモチベーションが高くなり離職率も減る、という相乗効果も期待されています。

また、「アップルキオスク」は通常のターゲット店舗内に設けられたアップル専用の商品棚より2倍も広い敷地を確保して展開されるため、通常店舗より遥かに幅広い品揃えが提供できるのも利点です。

戦略3. 「非小売事業」の拡充による根本的な差別化

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アウトドア専門店「REI」。写真はGoogleキャンパス近くにある、カリフォルニア州マウンテンビューの店舗。

Sundry Photography / Shutterstock

シアトルに本社を持ち、全米で165の店舗を展開しているアウトドアギアやキャンプグッズの専門店「REI(Recreational Equipment, Inc.)」。

このチェーンでは、メインのグッズやギア販売だけではなく、過去30年間「アドベンチャーズ・プログラム」と銘打って、世界中の旅行者やアウトドア愛好家に向けてハイキング・サイクリング・パドリング・登山などのツアーを提供するアウトドア体験事業を続けてきました。

コロナ禍でアメリカ国内のアウトドアやキャンプの需要が2019年に比べて28%も増えたことを受けて、このアドベンチャーズ・プログラムの海外部門を畳み、アメリカ事業に注力することを3月に発表しました。

アウトドア需要の高まりはハイキングやキャンプだけに留まりません。例えば、サイクリング旅行の予約はこの1年で爆発的に増え、2019年の2倍以上になっています。REIは初心者向けのサイクリング教室の提供においても国内でトップレベルを誇ります。

同社のチーフ・エクスペリエンス・オフィサーであるCurtis Kopf氏は「私たちの判断基準のひとつは、お客様の声に耳を傾けること。例えば、サイクリング需要の高まりは、我々がお客様により多くのサイクリング体験を提供する必要があることを示唆しています」と述べ、自転車の試乗ができるような店舗の展開なども視野に入れているとのこと。

また、REIは、サンファン諸島でのカヤック、ヨセミテでのスノーシューイング(専用の靴を履いて行う雪原や森でのハイキング)などさまざまな旅行プランのほか、よりパーソナライズした旅行体験を展開することで、新たな層へのリーチを拡大しています。

消費者に対して包括的なアウトドア体験を「小売店舗から離れたところ」で提供することで、顧客ロイヤリティを維持し、メーカーにとっての購買力も構築できるというわけです。

小売店とメーカーのパワーバランスが失われつつある

小売事業者は今まで、消費者にとってのワンストップショップとして色々なメーカーの商品を店舗棚に取り揃え、販売窓口として消費者のデータを牛耳ることで強い交渉力を持っていました。

が、今やこのパワーバランスは失われつつあります。

これは、ブランド力と独自のサプライチェーンを持つ大手のメーカーが、メーカー→卸→小売→消費者、という「小売業界の構造」を変えられるポジションにいるためです。

よって、今回ご紹介したような大手メーカーによるD2Cモデルの拡充や特定の小売事業者との連携を強化する動きは、今後はより活発になると考えられます。

その市場傾向を踏まえ、小売事業者が取るべき戦略として、Dicksのハウスオブスポーツのような「ブランド力を持つメーカーとの特別な店舗設計」や、ターゲットによる「店舗内店舗」の設置、REIによる消費者とのロイヤリティを維持するための質の高い「店舗を離れた非小売事業での顧客体験の提供」が、これからはますます大切になってくると言えるのではないでしょうか。

引き続き、注目していきたいと思います。

(文・石角友愛

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