撮影:今村拓篤/林香里さんは提供写真
3度目の緊急事態宣言が4都道府県に発出され、旅行やレジャーなど外出が制限されています。コロナ禍が長引き、自宅にいる時間も増えています。
そんな中でのゴールデンウィーク。時間ができたのをきっかけに、新たに何かを始めてみるのも悪くないかもしれません。終身雇用が崩壊し、コロナ禍で世界も激変する変化の激しい時代。今、何を学び、どんなスキルを身につけ、どう生きるべきでしょうか。
それぞれの世界で活躍する5人に「あなたがもし(社会に出たばかりの)22歳だったら何を学ぶか」を尋ねてみました。
【東京大学理事・副学長、林香里さん 】
林香里さん提供
語学で広がる視野こそ大事
まずは英語をきちんと身につけることですね。もちろんただ英語が話せても、中身がなければ意味がないことは前提ですが、それにしても全般的に、日本の学生は他国に比べて英語のレベルがとても低いです。
英語の能力は言葉だけじゃなくて、グローバルな環境で自分をプレゼンする能力、何かの物事をクリティカルに見る視線など、そういうものが鍛えられるんですね。
そういうパースペクティブ(視点)は、日本語だけの環境にいるとなかなか身につかない。なので是非、世界を広げてもらうためにも、英語が重要だなと思います。
さらに言うと、できれば英語プラスもう1つ、中国語でも韓国語でもドイツ語でもフランス語でもいいのですが、第三言語を身につけて世界は広いのだということを実感して欲しいです。私の場合は、学生の時に留学をしたのでドイツ語が第三言語です。
アメリカはやはり新しい国で、しかも商業主義が強く、世界でも特殊な国。日本はアメリカの影響がどうしても強いのですが、これを批判的に見る視点もやはり必要です。
そういう意味でもアメリカだけがレファレンス・ポイント(参照する基準)では限界がある。ヨーロッパでもアジアでも発展途上国でも、もう一つぐらい見ないと狭いなと思いますね。
ちなみに今、職業を選ぶとしたら… …
私は外資系銀行の秘書、報道の仕事を経て、研究者になりました。どんな仕事を選ぶかは難しいですが、文系の研究者というのは時間はかかるけれど、良い職業ですよ。
面白さもあるし、ちゃんと博士号を取って、頑張って論文を書けば評価される世界なので、女性でも自立して仕事ができます。
そして今研究者をやるのであれば、例えばコンピューターサイエンスを学ぶとか、プログラミングや統計の処理ができたり、文系でもちょっと理系のマインドを持つことが有利だと思います。社会の変化とニーズにも敏感になって、しかし専門性で骨太の研究者。それが理想像ですね。
難しいこともありますが、職業としての 研究者は良いですよ 女性にも向いていますよと、 ちょっと宣伝したかったので、この取材を受けたんです(笑)。
【ビジョナル社長、南壮一郎さん】
撮影:今村拓馬
プロダクト・マネジメントを学ぶべき決定的理由
2021年に自分が22歳だったとして、身につけるならばプロダクト・マネジメントの知見ですかね。
すべての産業のデジタル化が進む中、IT技術を活用しながら、仕組みと仕掛けをデザインしていく力はますます重要となります。
プロダクト・マネジメントの知見を深めることにより、世の中を構造で捉え、本質的な課題解決を模索する癖がつくと思います。
私はいつも、得意分野ではないこと、自分が知らない分野に挑戦してきました。外資系投資銀行からプロスポーツチームの立ち上げ、その先はHR Tech領域を選んだのも、それが未知の分野であり、時代が変化する先にある分野だったからです。
20代は修業、30代は練習試合、40代が公式戦だと捉えながらキャリアを歩んできました。文系の自分であっても、今、22歳ならプロダクト・マネジメントの知見を身につけ、その先の道に臨みます。
【転職エージェント、森本千賀子さん 】
撮影:鈴木愛子
投資、起業、留学。選択肢を増やすもの
今思うのはまず、資産運用をもっと早くから学ぶ、です。今でこそ私は資産運用もやるようになりましたが、本当の意味で始めたのは31歳の時。父親が経営する会社が倒産したのをきっかけに、お金には戦略的に向き合わなければダメだと痛感しました。
投資期間は長い方が良い。25、26歳で投資用に不動産を購入するなど、銀行に預けているくらいだったら早くから活きるお金にしておけばよかったと思います。少なくとも知識を持っておくべき。なぜなら、資産があるかないかで、人生の選択肢は変わるからです。
さらに言うと、起業と留学ですね。
今、20代で、絶対にこれをやりたいというビジネスモデルやアイデアがあれば起業、なければ副業をオススメします。
多くの人はまず就職すると思いますが、副業・起業を勧めるのは、本業として勤務先の配属されたところで一生懸命やりながらも、もう一つ本業以外で選択肢を持っておくという意味です。複数の能力や得意分野を組み合わせて活かす、かけ算キャリアを早くから始めるためです。
自分ごととして向き合えば身に付く
また、税の仕組みは知っておくべきですが、副業(個人事業主)や起業を通して、自分ごととして向き合うことで身につきやすい。私は実務を通して自分に力をつけたい派なので、自分なら副業や起業を選びます。ただ一方、学ぶことにストレスを感じない、インプット大好きという人は、MBAなど学びながら実務スキルを養うこともいいでしょう。
そしてもう一つ。もし私が今22歳だったら、そもそも就職を1年遅らせてでも留学するでしょうね。目的としては英語力ももちろんですが、何より視野を広げたいから。
日本に閉じない、友人やネットワークを保つためです。20年前に戻れるなら留学。絶対にそうしますね。
【ラッパー/アーティスト、SKY-HI/日高光啓さん】
撮影:今村拓馬
めちゃくちゃ没頭するものをもつオタクであれ
何かのオタクであることをお勧めします。 80年代のファッション語らせたら右に出る者がいないとか、70年代のレゲエ文化に詳しいとか。表層的でなければないほど身になると思います。
好奇心や好きなもの、得意なものなんかの『マル』の重なる部分がその人だとして、マルのいっぱいある人は魅力的ですが、そもそもそういう人には大きなマルが一つある。オタクと言えるほど、没頭できる好きなものを持っています。
そういったものにめちゃくちゃ没頭する時間というのは、やはり年を取ると限られていきやすいので。そういう意味では、(22歳というより)中高生くらいから意識したいことかもしれないけれど。
僕が20歳くらいの時はまだ大学に行きながら、(男女混合パフォーマンスグループの)AAA(トリプルエー)の活動をやりつつ、夜は夜でクラブに行って音楽をやってました。
当時は(音楽業界は)まだインターネット全盛の前だったので、そうやって(ミュージシャンとしての実力を)周囲に認めさせる必要があったから。今ならクラブには行かないで、曲をもっとたくさん作ったりもっと練習したりするかな。
何かで成功するためには、すぐにモデルケースを求めない。自分の成功の基準を既存の何かに依存しないこと。
自由だからこそ、何かに没頭することは支えになる
今この時代に20歳前後だったとしても音楽の仕事はしていると思うけれど、今の時代なら『アイドルらしくすべき』みたいに『らしく』を押し付けられて、傷つくことは少ないと思います。
そうして比較的、アウトプットの自由があるからこそ、オタクと言えるほど何かに没頭すること。そういったものを持つことは重要ですし、きっと支えになってくれると思います。
【早稲田大学ビジネススクール教授、入山章栄さん 】
撮影:今村拓馬
世界共通のプロトコルを身につけよう
僕が22歳なら学びたいのは、ズバリ「英語」「数学」「恋愛」です。 理由はどれも世界共通のプロトコル(共通言語)だからです。この3つさえ押さえていれば、これからの22歳はオーケーとすら思いますね(笑)。
まず「英語」は言うまでもなく、世界共通の言語です。たどたどしくてもいいから、カタコトの英語が話せるだけで世界は圧倒的に広がります。それは僕が30代にアメリカに留学したときに痛感しました。できれば20代前半には話せるようになっておきたかった!と思っています。
そして英語以上に、現代の世界の共通言語になっているのが数学です。よく考えたら、フランス語圏でも中国語圏でも、数式はみな同じものを使い、その解き方も理解も同じです。
すなわち、数学こそ世界共通の人口言語なのです。数学なんて自分には関係ないと言う人もいるでしょう。でも、現代の我々の生活を支えつつあるデジタル技術はプログラミング言語でできていますが、その背景にあるロジックは非常に数学的です。なので、数学的な頭の使い方が多少は誰でもできた方がいいのです。
そして数学が世界最大の人工言語だとすれば、世界中で誰にでも、人間である限り自然に求められる、万国共通の究極の対人コミュニケーションが、「恋愛」です。
今になって若い頃を振り返ると、もっと恋愛をしてもっと恋愛から学んでおけばよかった!と奥手な僕は思うわけです。
一番大事にしたいもの実は……
いま、世界では「ボーングローバル企業」と呼ばれる、創業したてで即座にグローバルに進出する若いスタートアップ企業が続々誕生しています。UberやAirbnbはその典型です。
これは、英語やプログラミングなど世界中で同じプロトコルを使うようになったから。それによって国際間のビジネスの障壁が大幅に引き下げられ、商品やサービスが一気に世界中に広まるようになった影響が大きいのです。
その意味でも英語はできた方がいいし、プログラミングの背後にある数学の感覚もあった方がいい。恋愛だって、世界中の人とできるなら、世界中どこでも住めるじゃないですか。
ただ、実を言うと僕が大事にした方がいいと思っているプロトコルは、もう一つあるのです。それについては、こちらでも話していますので、参考にしてみてくださいね。
(文・取材、滝川麻衣子、常盤亜由子、梶原拓朗)