ユーグレナの初代最高未来責任者(CFO)を務めた、小澤杏子さん。
撮影:今村拓馬
2020年10月、菅義偉首相の所信表明で宣言された「2050年、二酸化炭素排出の実質ゼロ」。
以降、日本では地球温暖化対策としての脱炭素化の取り組みが大きなムーブメントとなっている。この動きを、20年、30年先に社会の中心となるZ世代(1995年以降に生まれた世代)はいったいどう見ているのか。
「脱炭素とはなにか」の第4回では、ミドリムシ(微細藻類のユーグレナ)を利用したバイオジェット燃料などを開発しているユーグレナで、初代「最高未来責任者(Chief Future Officer:CFO)」を務め、2021年春から大学生となった小澤杏子さん(19)に話を聞いた。
「宿題の提出日」が決まって動き始めた日本
撮影:今村拓馬
—— 2020年10月、菅首相の所信表明演説以降、日本の気候変動対策は大きく加速し始めました。その前後の変化、取り組みの違いをどう感じていますか?
小澤:これまでの話だと、COP25(2019年、スペインで開催された気候変動に関する国際会議)での「化石賞」の受賞の話などが有名ですよね。日本の(温暖化対策に対する)取り組みと言われてもパッと思い浮かばないので、そういうことだったんだと思います。
(日本は)自分たちが何をしなければいけないのか、ということよりも周りの空気を伺ってやることを決めていたように感じていました。
そこから考えると、(最近の動きは)「やっと重い腰を上げてくれた」という気持ちです。
—— とはいえ、ヨーロッパなどと比べるとかなり決断は遅かったと思います。
小澤:やったこと自体は評価すべきだと思います。
そして「次はこういうことをやっていけばよい」と、フットワークをより軽くしていく必要があるんだと思います。日本には、決断したことや実施したこと評価しない空気がありますよね。
「(決断するのが)来年じゃなくて、今年で良かった」と考えられると、政府としても私たちとしても次の決断につなげやすくなると思うんです。
—— ちなみに、小澤さんの生活に近い部分で脱炭素化に向けた変化を感じることはありますか?
小澤:少し前まで高校生だったので、はっきりとした変化はないです……。
ただ、メディアなどで、今まで聞きもしなかったようなフレーズがどんどん出るようになっていますよね。「サステナビリティ」もその例かなと思います。
今までは、(温暖化対策に)課題があることは分かっていたけど、いつまでに提出(解決)すれば良いのか分からず本気になれなかった。それが、2050年という提出日が決まったからこそ(世の中が)「課題に取り組まなきゃ」という雰囲気になっていると感じています。
ただ、2050年には今の政治家はほとんどいなくなっていると思うので、主張した人と見届ける人が一致していてほしい、という気持ちは少しあります。
深刻な日本のエネルギー問題、再エネだけでは成り立たない
福島県郡山市の風力発電所。国内最大級の広さを誇り、周囲の農業との共生も実現させている。
REUTERS/Toru Hanai
—— 日本の脱炭素戦略で一番重要になるのは、二酸化炭素の排出量が最も多いエネルギー(発電)部門です。政府は2050年までに再生可能エネルギーによる発電の割合を50〜60%にするという目標を掲げています。将来のエネルギー構成について、こうあってほしいという希望はありますか?
小澤:少なくとも今の技術のままでは全てを再生可能エネルギーにするのは厳しいのではないかとは思っています。
—— 火力や原子力発電などを使わざるを得ない、と。
小澤:「日本の火力発電はすごく環境に配慮されている」と言われていますが、環境負荷が「低い」というだけでゼロではない。そうなると、水素や原子力などの(二酸化炭素を排出しない)化学エネルギーをどう使うかという点が議論になると思います。
—— ただ、日本では原発に対する印象も悪く、災害リスクもあります。
小澤:2018年頃から、その解決策となるのは「研究者への投資」なのかなとずっと思っています。(研究に対する)長期投資のアウトカム(研究成果)を起点として、日本に合ったエネルギーのシステムができてほしい。
海外に比べて日本は土地も資源もない。ではどうやって戦っていくのかを考えると、やはり「(科学)技術」だと思います。そこを1番の強みとして支えられないと、国として限界が来ちゃうんじゃないかなと。
—— 土地や資源という武器がない以上、知恵を絞り尽くさないといけない。
小澤:既存技術の課題を解消できる研究を積み重ねることや、「研究者って、かっこいい!」と思える環境を作らないと、次の世代の研究者が出てこなくなってしまいます。
私たちの世代から見る研究者って、大変そうな印象なんですよね。その改善をしていく必要もあるのではないでしょうか。
結果が出るか分からないものに莫大な投資をすることは、国としてもすごく難しいと思っています。でも、そこがうまく動くようにならないと駄目だとも思います。
撮影:今村拓馬
—— 国のグリーン成長戦略では原子力発電の割合が一定程度残る方針です。一方、福島第一原子力発電所の事故の経験から、原発に対する忌避感も強い。3.11後に大人になっていく世代として、原発を利用しようという選択についてどう感じていますか?
小澤:東日本大震災のときは8歳だったので、当時は原子力エネルギーと言われても「へ?」という感じでした。
あの事故を(ある程度状況を理解できる)20代で経験された方々や現地であの事故を経験した人より、(個人としては)意識が薄いところもあると思います。
議論をしていても、脱炭素を考える上で原発が無視できない存在であることと、次に事故が起きたときの責任や安全性の話がぶつかって結論が出ないことがほどんどです。
その中で私はやっぱり、研究にたくさん投資をして、原発以上のエネルギー源を見つける努力をする必要があると考えています。
「政府が勝手に決めたこと」では意味がない
撮影:今村拓馬
—— いろいろなステークホルダーがいる中で脱炭素社会を目指さなければならない今、この先どういったことが重要になると感じますか。
小澤:一つは、短期的な目標を明確に出すことだと思います。
環境白書などを見ると確かに情報は出ています。でも、私たちのところには届いていないと感じています。
—— そこはメディアにも責任がありそうですね。
小澤:メディアにはそこを監視し続ける義務があるし、「今年はこれぐらい進捗があった」とか、「目標を達成できなかったらどうするのか」ということを、発信し続けることが大事になってくると思います。
それを知った私たちも、目標に向けて行動しなければいけない。「政府が勝手に決めたことだよね」という感覚では、意味がないんです。
—— 一方で、サステナビリティの実現には一定のコストがかかります。そこまで配慮できるのは余裕をもっている人だけだという指摘も根強いです。
小澤:全員が同時に、同じスタートラインに立つ必要は全くないと思います。
例えば、バイオプラスチック商品は高額です。ただ、余裕がある人たちが積極的に買い続けることで、バイオプラスチックがマジョリティ化され、徐々に増えていく流れを作っていけるはずです。
小澤さんらの提言で廃止されたユーグレナのペットボトル商品。
提供:ユーグレナ
—— 小澤さんがユーグレナのCFOとして取り組んだ、脱ペットボトルの施策にも通じるものがありますね。
小澤:ユーグレナでは、ペットボトル商品を全廃するということを大きな取り組みとしてやっていただきました。こうすれば、ユーグレナの商品を手にとった消費者は「意識せずとも」環境に配慮した選択ができるようになります。
環境活動やSDGsを啓蒙する活動はたくさんありますが、その声が届く範囲には限りがあります。
10人のうち8人に私たちの声が届いたとしても、残りの2人に届かない。もちろん残りの2人にも理解してほしいとは思いますが、今すぐじゃなくてもいい。
だからこそ、私たちが必要としている時期までに目標が達成できるように「意識せずとも」というところを重視して、ユーグレナにペットボトル商品の全廃を提言しました。
Z世代の強い意識、なぜ?
撮影:今村拓馬
—— 小澤さんもそうですが、いわゆるZ世代は、SDGsに関する当事者意識が強いように感じます。
小澤:ここ数年、日本のあちこちで集中豪雨が多発していたり、沈みかけている島国があったりしています。学校の授業でも、北極や南極の氷が溶けているというような話を教わります。このままでは今までの生活ができなくなっていくことが身に染みているというか……。
日本は災害大国ですし、そういう問題に気付きやすい環境にはあると思います。
個人的に、私たちが見ている明日が、大人にとってはずっと先のことになってしまっているような感覚です。
10年後、私は28歳です。現役の世代ですし、社会にコミットし始める時期ですよね。
—— 10年後や50年後を、リアルな「明日」ではなく、遠い未来だと認識してしまっている大人は多いかもしれません。
小澤:そういった意味で、私は50年後、世界がこのままの環境を保ているのか、正直自信がありません。
「自分たちが生きている間に、環境が破壊されてしまうかもしれない」
このリアルな危機感が、若い人にはあるんだと思います。