幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
育休から復職したばかりの、ワーキングマザーのお悩みです。
Aさんが置かれた状況、お気持ち、とてもよく分かります。
私も会社勤務を続けながら、2人の子どもの出産・育児を経験しましたから。私も親が遠方に住んでおり、日常の育児サポートは受けられない状況でした。
1人目の時には夫に保育園の送り迎えなどを任せることもできましたが、2人目の出産直後、夫が週4~5日地方出張する業務に異動となり、5歳児と0歳児の育児がワンオペとなりました。
そんな時期も乗り切り、その後、思い描いたとおりのキャリアを実現できています。
Aさんも、「私のキャリアは終わった」なんてことはありません!
工夫次第で状況は改善できますし、私が子育てをしていた頃よりも、今は格段にワーキングマザーを支える体制が社会に整っていますので、安心してください。きっと大丈夫です。
では、私が育児とキャリアの両立のために実践してきたことを3つお話ししますね。
1. 「自分がやるべきこと」「自分でなくてもできること」を切り分ける
私も仕事・育児・家事に追われ、「時間がない!」とパンクしそうになったことがありました。
そこで、まずは「自分が大切にしたいこと」「本当にやりたいこと」を見つめ直しました。
そして、仕事においては、「顧客や転職希望者となるべくたくさん会って話す」、プライベートでは「子どもたちや夫と一緒に過ごす」ことを最優先事項に据えました。
では、そこに費やす時間を確保するためにどうするか。
「自分でやりたいこと」「自分でないとできないこと」「自分でなくてもできること」を切り分け、「自分でなくてもできること」を手放すことにしました。
仕事においては、「顧客や転職希望者との面談」に集中し、それ以外の業務の多くをアシスタントに任せました。例えば、スケジュール調整、社内連絡、資料の準備、簡単なリサーチなどです。
「アシスタント」という存在がいなくても、自分の担当業務の一部を他のメンバーに渡すことはできるのではないでしょうか。
「自分がやったほうが確実」と、なかなか人に任せられない性格の方もいらっしゃいますが、「その仕事で生み出せる価値」を考えてみてください。
業務の1つひとつを見てみると、「自分がやっても他の人がやっても大差ないもの」が必ずあるはずです。もしかすると他の人がやったほうが効率がいいものもあるかもしれません。
そうした業務は他の人に渡し、「自分だからこそ価値を生み出せる仕事」に集中して時間を使えるようにしてみてはいかがでしょうか。そうすれば、時間に制限がある中でも、強いキャリアを築いていけるはずです。
「以前のようにチームに貢献できていない」と感じていらっしゃるとのこと。
であればなおさら、チームリーダーに相談し、自分が価値を発揮できる自信があるものに注力できるよう、チーム体制や役割分担を見直してもらってみてはいかがでしょうか。
2. アウトソーシングや時短家電で家事の時間を削減
プライベートにおいては、子どもたちや夫と一緒に過ごす時間を大切にしたいと考えました。
子どもに向き合う時間を確保するなら、省くべきは「家事」の時間です。
私は、「家事代行サービス」を利用しました。
週1回、キッチン・お風呂・洗面所・トイレなど水回りのお掃除を依頼。時間制ですので、余った時間は、その時々で異なる家事をお願いしました。床の掃除機かけ、棚の拭き掃除、ベッドのシーツ交換、ベランダの掃除、窓ふきなど。
これにより、掃除の時間を大幅短縮しながら、清潔で快適な空間で過ごすことができ、ストレスが軽減されました。
最近は家事代行サービスが増え、安価なメニューも増えています。家事には得意・不得意なものがあると思いますので、自分でやると時間がかかったりストレスを感じたりするものはアウトソーシングしてはいかがでしょうか。
私自身、以前は「自分でやらなくては」と思い込んでいたタイプですが、思い切ってアウトソーシングして本当によかったと思っています。忙しくて、さらに部屋が散らかっているとそれだけで気が滅入るものです。特に、水回りは時間をかけても完璧に綺麗にするのは至難の業でもあります。週に1回でもプロに任せておけば、綺麗な状態をキープできます。
「自分でやらない」方法としては、「時短家電」の活用も有効です。
ロボット掃除機、材料をまとめて入れるだけで煮込み料理ができる調理器、食器洗い乾燥機など。
特に、最新の乾燥機付き洗濯機はかなり優秀なのでお勧めです。ボタン1つ押せば洗濯から乾燥まで完了し、しわもつきにくいのでアイロンがけも不要。「干す」作業がなくなるだけでも、身体的・心理的な負担、そして何より「やらなきゃ」というストレスが軽減されます。
食事に関しては、「買ってきたお惣菜」に抵抗感があるなら、食材キットの宅配サービスを利用するといいでしょう。カット野菜をざっと炒めて、調味料を加えるだけ……など、調理時間を大幅短縮できます。
また、私は2人目の育児の時、週3回ほど、シッターさんに子どものお迎えや夕食作りをお願いしました。その日は時間に余裕ができ、溜まった仕事を片付けることができました。
0~2歳くらいの間はまだ預けづらいですし、割高でもあるのでシッターサービスの利用は難しいかもしれませんが、後々は利用を検討してもいいかもしれません。
行政サービスも利用できますから、お住まいの地域のサポート制度を調べてみるといいでしょう。
家事代行サービス、高機能家電、シッターサービス……いずれもコストがかかります。
給与の多くを費やすことになると「何のために働いているの?」と虚しい気持ちになるかもしれません。
けれど、一時期の「投資」と捉え、「時間を買って、その時間をキャリア構築のために使う」と考えてみましょう。いいキャリアを築けば収入も上がり、いずれ投資を回収できます。
3. 部署異動を願い出るのも手
実は、私は1人目の育休から復職する際、育休前とは異なる部署への異動を願い出ました。
「育休後に元の部署に戻っても、以前と同じようなパフォーマンスは無理だろう。100%でできない自分に葛藤するだろう」と予想したからです。
そこで、もともとは営業職でしたが、最初に希望したのが「企画」職。なんとなく、オフィスワークのほうがワークライフバランスをとれると踏んだのです。ところが、いざオフィスワーク(内勤)をしてみると、意外と融通が利かないことが分かり、しかも今までの強みや経験がまったく活きないことがストレスとなりました。
そこで3カ月程度で、再度異動を申し出ました。ダメ元で、もともとの「営業」職はそのままに、育休前とは別の業界を担当する部署への異動を希望したのです。上長は悶々と葛藤していた私を見て、快く受け入れてくれました。そして3人の小さなチームでプレイングマネジャーを務めたのです。
この判断は「正解」でした。
「前と同じようにやりたい。でもできない」というプレッシャーやストレスを感じることなく、新しい環境で、そこで最大限できることを追求すればよかったからです。
通常なら、育休明けは元の部署に戻ったほうが、慣れた仲間・慣れた仕事なのでやりやすいもの。でも、「前と比べて7割の成果でも仕方ない」と、自分の中で折り合いをつけられればいいのですが、それができなくて苦しむくらいなら、別の部署に異動したほうがいいと思います。
Aさんも今、「100%できていた自分」の残像にとらわれ、焦りを感じていらっしゃるようです。であれば、異動を願い出て、新しい環境で仕事をしてみるのもアリかもしれません。
もしかするとそれが新しいキャリアへのドアを開くきっかけになる可能性もありますし、後に今の部署に戻っても、他部署での経験との相乗効果を発揮できるかもしれません。
ただ、私の場合は「営業」という職種柄、「環境を少し変える」ことがしやすかったのですが、企画職やバックオフィス職がほどよく環境を変えるのはなかなか難しいかもしれません。けれど、役割を変える、育休前の仕事から少し別分野へ「染み出す」ようなミッションに変えてもらうことはできるのではないかと思います。例えば、経理職なら会計処理業務から財務担当に、広報職なら社外広報から社内広報に、といったような形です。
なお、今の会社で育児とキャリア構築の両立が難しいと感じるなら、「転職」という選択肢もあります。
2014年頃からの「女性活躍推進」の流れで、ワーキングマザーを支援する制度や環境を整えた企業は数多くあります。実際、幼い子どもを育てながら転職を成功させている女性もいます。
コロナ禍以降は、フルリモートワークOKの会社も増えています。
今の状況を改善できず、「キャリアが終わった」という気持ちが払しょくできないのであれば、転職によって今後のキャリアの可能性を探ってみてはいかがでしょうか。
女性の場合、上司、さらには所属する会社の経営者の理解があるのとないのとでは、大きくキャリアデザインが変わってきます。私がお会いする女性の管理職やエグゼクティブクラスの方々が共通して口にするのは、「この場所にいるのは理解ある上司のおかげ」。
希望する部署異動や仕事のアサインなどは上司次第。ストレスや不安を抱えながら悶々とする日々を送るくらいであれば、理解ある上司との出会いを求めてはいかがでしょうか。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第52回は、5月24日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。