決断迫られるファストリ、無印。ほぼ全ての日本人が新疆綿使う現実どう考える?

新疆ウイグル自治区で綿を採取する女性たち

綿花の採取を行う、新疆ウイグル自治区の女性たち。

China Photos/Getty Images

中国によるウイグル族への強制労働があるとして、欧米が問題視する新疆綿(しんきょうめん)をめぐり、アパレル業界に激震が走っている。

欧米や日本国内からは「新疆綿を使っている商品・ブランドの不買」を、中国からは「新疆綿の継続使用・さもなければ不買」という、どちらに転んでも大怪我が免れない、一触即発の危うい状況に置かれているからだ。

日本企業ではユニクロを手がけるファーストリテイリングと、無印良品を手がける良品計画がやり玉に挙がっているが、人権と政治、企業のガバナンスだけでなく、エシカル消費を進めるうえで、この問題をどう捉えて、どんな行動に出るかは、消費者も問われている。

ここでは、その判断材料となりうる一つの見方を提示したい。

ちなみに筆者は、今回の背景を、米中貿易戦争の綿花版、かつ、高まるサステナビリティの潮流に対する米国の先制攻撃であると捉えている。

新疆綿は世界の綿生産量の2割を占める“中国の誇り”だ

新疆綿とは、新疆ウイグル自治区で栽培される綿(コットン)だ。

コロナ禍前の世界の綿花生産量(2018〜2019年)トップ3は、1位が中国(604万トン)、2位がインド(535万トン)、3位がアメリカ(400万トン)で、中国は全世界の生産量(2574万トン)の23%を占めている。また、新疆の綿花生産量(511万トン)は中国生産分のうち84.6%に達しており、新疆綿は、世界の綿生産量の19.8%を占める巨大産業なのである(International cotton Advisory Committee[国際綿花諮問委員会]のデータより)。

新疆綿は繊維長が長い「超長繊維綿」で、滑らかさや光沢感があるのが特徴だ。色が白く、染色しても発色が良い。

かつてはギザ綿(エジプト産)、スーピマ綿(アメリカ産)と並ぶ世界三大綿と呼ばれていたが、エジプトでは観光やスエズ運河の通航料などに収入がシフトしており、綿花はほとんど栽培されなくなっているのが現状。新疆綿とスーピマ綿が2強の状態になっている。

しかも、価格は比較的安価だ。 鄧小平時代の1980年代、豊田通商が日本の農業技術、主に点滴灌漑(かんがい)という技術を導入。これをきっかけに、新疆では生産効率が高まり、現在ではアメリカの大規模農場の2倍の生産効率となった。

それから40年、今日では欧米を中心に新疆綿の使用が問題視されるようになった。背景の一つには、中国政府が新疆ウイグル自治区でイスラム教徒が大部分を占める少数民族ウイグル族を収容施設に収容し、民族迫害をしていると2018年頃から欧米のメディアで報じられるようになったためだ

とくに、BBCのジョン・サドワース(John Sudworth)記者が書いた「China’s ‘tainted’ cotton(中国の汚れた綿)」が2020年12月に公開されたことが大きい。

新たな展開、H&Mの不買運動が勃発

Getty

スウェーデン発のH&M(ヘネス&マウリッツ)が新疆綿の調達をやめると発表したところ、中国で猛反発にあった。

Kevin Frayer/Getty Images

2021年3月、新疆綿をめぐり新たな事態が生じる。

サステナビリティ先進企業とされるスウェーデン発のH&M(ヘネス&マウリッツ)が新疆綿の調達をやめると発表したところ、中国で猛反発にあい、オンラインストアから商品が消えたのだ。中国国内では、一部の地図アプリから店舗表記がなくなりリアル店舗の一部も閉店を余儀なくされるなど、不買運動が勃発した

中国の綿花栽培は、前述の通り生産量は世界シェアトップを誇る一大産業。欧米諸国や日本から「新鏡綿を使っている商品・ブランドは買わない」という声が上がるということは、中国サイドにしてみれば、大打撃だ。

中国では2400万人の農家が綿花栽培で生計を立てている。失業者も大量に発生するだろう。政府も国民も大反発することは免れない。

日本の衣料品は97%が輸入で、うち、中国からの輸入が7割を占めている。そして、中国の綿の8割は新疆綿である。新疆綿を中国、あるいはASEANで紡績し、縫製してASEAN製として輸入されるものもある。日本のアパレル企業が新疆綿に大きく依存しているのはこのためだ。

リーズナブルでクオリティの高い新疆綿は、シャツだけでなくタオル、ベッドのシーツなどにも多く使われてきた。現在、ほぼ全ての日本人の部屋やクローゼットの中に、なんらかの新疆綿製品があると考えていいほど普及しているのだ。

中国の新疆ウイグル自治区で、民族を蹂躙(じゅうりん)する「ジェノサイド(大量殺害)」が続いているとして、イギリス議会下院が政府に行動を起こすよう求める決議を採択するなど、ウイグル自治区の人権問題を巡っては国際社会が問題視している。

こうした中で新疆綿に関しても強制労働があったとなると、もちろん企業の責任も大きいが、知らずに購入してきた消費者も、それに加担してきたということになるだろう

日本のアパレル産業の根幹を揺るがす可能性

中国の無印良品

中国国内でも人気を博する無印良品の店舗。新疆綿に関してユニクロや無印良品の名前が挙がっている。

REUTERS/Stringer ATTENTION EDITORS - THIS IMAGE WAS PROVIDED BY A THIRD PARTY. CHINA OUT.

新疆綿に関してユニクロや無印良品が取り沙汰されているのは、新疆ウイグルの強制労働との関係で、シンクタンクや人権問題を扱うNPOのから名指しされたことがある。

一つは、オーストラリアのシンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)」が2020年3月に公表した調査報告「Uyghurs For Sale(売り物のウイグル族)」だ。

報告書では、ウイグル族は新疆ウイグル自治区ではなく、中国国内の他都市で強制的に労働に従事させられたことなどを指摘。サプライチェーンなどで関与したとされるグローバル企業82社、日本企業14社のリストが出され、その中にアパレルではユニクロがリスト入りした

また、認定NPO法人ヒューマン・ライツナウは「強制労働に関与している疑いのある企業」として、アパレルではファーストリテイリング(ユニクロ)、良品計画(無印良品)、しまむらに質問状を送っている。

ただし、今回の問題が複雑なのは、実は大手アパレルや百貨店、紳士服専門店、セレクトショップなど、ほぼすべての企業に新疆綿使用の“可能性”があるからだ

(糸の太さを表す単位で、数字が大きいほど細い糸である)60番手や80番手、100番手を使った安くて品質の良い紳士のドレスシャツの大半は新疆綿を使っていることは業界では知られている話だが、今となってみれば同時にタブーでもある。

無印やユニクロはどこの農場や工場で作られたのかを把握しているが、大半のアパレルのトレーサビリティはそのレベルまで到達していない。「新疆綿を使うな、ということになれば、日本のアパレル産業自体の根幹を揺るがす大問題になる」と語る業界関係者もいる。

新疆綿と強制労働に懐疑的な声も

一方、新疆綿と強制労働の関係性には疑問を呈する声も。

繊維専門紙出身の業界記者は、次のように述べる。

「新疆綿の生産はかなり近代化、効率化されている。そこで強制労働が本当にあったのかどうか。これだけ大規模で生産する中で、真面目に努力をして生産された新疆綿がほとんどであることも理解している」

同様の論調として、「ニューズウィーク」の4月12日の記事『新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?』がある。同記事ではウイグル族の人々が延べ100万人も「再教育」として施設に収容されたことについては信憑性があるとしつつ、新疆綿に関しては懐疑的だ

記事の冒頭ではこう述べつつ、その根拠が丁寧に説明されている。

H&Mなどの大企業が「新疆綿」の取り扱い中止を発表したことで、ウイグル族に対する人権抑圧の新たなシンボルとして綿花畑での「強制労働」が浮上したが、今のところ確固たる根拠はない

米中コットンの対比と、サステナビリティの観点から考える

コットンの原料綿花。

コットンの原料、綿花。アメリカ、アーカンソー州。

Shutterstock/PhotoStock-Israel

前述した通り、アメリカの綿花栽培では、同じ面積当たりの収穫量が中国の半分しかない。

しかも、綿花栽培にも詳しい衣料品関係者の言葉はこうだ。

「アメリカは安く作る経済合理性を優先し、オーガニックコットンをほぼ作ってこなかった。サステナビリティが求められる中で、アメリカのコットンの競争力は低下している」

オーガニックコットンの生産量は2018〜2019年、1位がインドで12万2668トン、2位が中国で4万1247トン、これに対して、アメリカは世界の綿花生産量3位にも関わらず、オーガニックコットンは5175トンしか生産していない。(Textile Exchangeのデータより)。

これは無印良品が年間に使う量の4分の1以下と思われる。

今、サステナビリティが叫ばれる中で、世界最大の綿花の持続可能プログラムを運営するNPOの「ベターコットンイニシアチブ(BIC)」が認めた綿の使用量を引き上げようとする企業が増えている。大手ファストファッション、スポーツブランドなどはほとんど加盟している団体だ。

そのBCIによると、2018-2019年の綿花シーズンに、「中国では8万1043の認可されたBCI農場が、43万1000ヘクタールで89万6000トンのベターコットン綿花を生産した」のに対して、「アメリカでは、17州の300近くの認可されたBCI農場が、21万2000ヘクタールで24万2000トン(111万ベール)を生産した」と説明。中国に対し、アメリカの生産実態は面積にして半分、収穫量は3分の1である。

BCIは、さらにこう指摘する。

「米国は世界第3位の綿花生産国であり、その綿花の品質は世界の繊維産業から高く評価されている。しかし、綿花農家は高度な生産方法を使用しているものの、除草剤耐性、土壌侵食、地域の灌漑用水不足などの持続可能性の課題に直面している」

スーピマ綿のほとんどが、除草剤には耐性があるが、収穫を容易にする枯葉剤には耐性がない。遺伝子組み換え綿を使用しているのは、業界の暗黙の了解との指摘もある。

アメリカを代表するサステナブル先進企業でB corp認証企業であるパタゴニアは、1996年からオーガニックコットに切り替えた。

現在も「100%オーガニックで化学殺虫剤、除草剤と遺伝子組換えではないコットンを使用。生物多様性と健全な生態系をサポートしている」と啓蒙を続けている。

新疆綿が減るほど米綿の需要が増える仕組み

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トルコ・イスタンブールで行われた、中国の新疆・ウイグル問題への抗議デモ。各国で中国への抗議が相次いでいる。

Reuters

今、アメリカでは新疆産の綿製品(とトマト製品)が輸入停止措置にさらされている。

輸入禁止ではなく、「税関が新疆綿製品の輸入を差し止めることを認める」「輸入者は強制労働で作られたものではないと証明しなければいけない」というもので、強制労働の事実がないことの証明を企業側に求めるものだ。

非常に難易度が高い輸入制限であり、新疆綿が減るほど米綿の需要が増える仕組みになっている。

「アメリカの綿農家向けの政治的アピールに他ならない」

こう憤る関係者もいるくらいだ。

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