ワクチン接種進むカナダがいち早く「量的緩和の終了」決定。拡大する先進国と新興国の格差、日本は「蚊帳の外」

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カナダ薬剤師協会の会長とビデオ会議でワクチン接種の最前線の状況について議論する同国のトルドー首相。接種率は国ごとに格差が大きくなってきている。

Sean Kilpatrick/Pool via REUTERS

日本ではこの1年で3度目となる緊急事態宣言が発出され、国内の消費・投資意欲は一段と切り下がることが確実な情勢だ。

一方、日本以外の先進国では、濃淡こそあるもののワクチン接種が確実に進んでおり、英米に比べて遅れが指摘される欧州連合(EU)ですら接種率はすでに20%を超えている(人口100人あたりで1回以上接種した人の割合、4月22日時点)。

日本の接種率は1.3%、ようやく1%を超えたところだ。世界を広く見渡してみると、日本より接種率が劣る国はアフリカや中南米の一部のみで、世界最低レベルと言っていい。

こうした日本の現状が金融市場にもたらす影響について問われることもあるが、日本人にとっては大きな問題であっても、市場参加者全体にとってはテーマとしてとり上げるに値しないというのが現実だ。

もとより、日本の経済・金融情勢が世界の主要株価指数やドル/円相場のトレンドに影響を与えることはほとんどない。

今後の世界の動きで注目すべきは、日本のワクチン接種の遅れといった局所的な問題ではなく、「先進国と新興国の格差拡大」というより大きな視点だ。

国際通貨基金(IMF)が「世界経済見通し」(4月6日公表)で示した、ワクチン接種の現状と展望から作成したのが、下の【図表1】。(日本以外の)先進国と新興国の格差は、時間の流れとともに拡大していくことがわかる。

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【図表1】先進国と新興国におけるワクチンの接種状況。2回接種するので左軸の最高値は200%になる。

出所:IMF World Economic Outlookより筆者作成

国・地域ごとの接種率の格差は、成長率ひいては金利の格差につながり、為替相場にも変動をもたらす。IMFの見通しを踏まえると、2021年の実質GDP成長率について、先進国と新興国の差はかつてないほど接近することになる。

2022年の成長率を見てみると、先進国全体ではプラス3.6%、新興国全体ではプラス5.0%、その差は1.4ポイントと予想されている。

コロナショック以前の5年平均(2015~19年)は2.2ポイント、10年平均(2010~19年)は3.1ポイントだったので、成長率の差が一気に縮まることになる。

先進国は急速に成長路線を回復、コロナ以前に高成長を続けてきた新興国は停滞し、従来のような成長率の大きな差は見られなくなるというわけだ。

この変化はひとえにワクチン接種率の格差に起因する結果と考えていいだろう(詳しくは過去記事を参照いただきたい)。

リーマンショック後の経験が教える「成長痛」

過去の経験から考えると、こうした先進国の優勢は新興国にとって脅威となる可能性がある。

2013年5月、当時のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は量的緩和の段階的縮小を示唆。2015年12月には利上げに着手し、3年後の2018年12月に9回目の利上げを完遂している。

その間、アメリカの金利上昇に伴う新興国からの資本流出、それに伴う新興国の中央銀行による不本意な利上げという構図はたびたび見られた。

いま、コロナ危機からの早期回復を目指し、各国がかつてない規模の経済・金融政策を打ち込んだ状態で、金融市場には過剰流動性(=市場にある通貨の量が正常時に必要な水準を上回ること)が充満している。

アメリカを筆頭とする先進国が、ワクチン接種の進捗を背景にいち早く金融政策の正常化に関心を示すようになれば、資本が新興国から先進国にシフトする可能性は高い。

そして、それが穏便に済む保証はない。

いまのところ、FRBが正常化プロセスに関心を寄せているという事実はない。ただし、コンセンサスとなっている「2023年末までゼロ金利継続」はあくまで現時点のFRBメンバーによる予想中央値であって、明示的に約束されているものではない。

にもかかわらず、市場参加者から「FRBのコミットメント(約束)」のように解釈されてしまっているように感じられる。

それゆえ、今後「2023年末までゼロ金利継続」というコンセンサスにわずかでも変化が出てくれば、資本が一気にアメリカに傾くおそれがある

先述のバーナンキ議長時代の正常化プロセスをふり返ると、2014年6月以降に(アメリカへの資本流入圧力が高まり)ドル高が勢いづいた。2014年9月に量的緩和が終了する流れがすでに見えており、その後の利上げを視野にとらえた動きだった。

くり返しになるが、先進国が危機対応からの脱却を模索し、平時に向けて歩みを進める際には、新興国からの資本流出という形で混乱を伴う可能性が高い。ただし、それは危機から平時に向けて経済が歩むための「成長痛」とも言えるものだ。

下の【図表2】を見るとわかるように、新興国(図表内では途上国)の民間債務はリーマンショック後、GDP比で大幅に積み上がった。

2020年(最新の数字は9月末)にはさらにその水準が切り上がっている。しかも、その多くはドル建てだ。

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【図表2】世界の民間債務の推移。

出所:Macrobond資料より筆者作成

今後アメリカの金利上昇やドル高が起きれば、必然的に(ドル建ての新興国債務が引き金となって)混乱が起こるのは避けられない。

カナダが量的緩和の縮小を決定

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カナダの首都オタワの薬局で英アストラゼネカ製のワクチン接種を受ける同国のトルドー首相。カナダの接種率上昇スピードは加速している。

REUTERS/Blair Gable

コロナ危機で失われた雇用がいまだに800万人以上にもおよぶアメリカの状況を考えると、FRBが量的緩和を完全終了し、利上げに手をかけるのは相当先になるだろう。

一方で、アメリカ政府が(キャピタルゲイン課税への関心を隠さなくなってきていることからもわかるように)金融市場に対して、ネガティブな措置を検討する余地が生まれ始めているのも事実だ。

欧米中銀総裁の会見を見ていると、量的緩和縮小の意思を質す記者も出てきている。

その点で、4月第4週は象徴的な動きがあった。

4月21日、年初から迅速なワクチン接種が進んでいることで知られるカナダで、中央銀行(BOC)が想定以上の実体経済回復を理由に量的緩和の縮小を決定し、利上げ時期の前倒し(従来計画の2023年から2022年後半へ)も示唆した。

現時点で先進7カ国(G7)における最強通貨はワクチン接種率で先進国トップを走る英ポンドだが、それに続くのはカナダドルで、ドル失速の傍らで安定を維持している【図表3】。

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【図表3】先進7カ国(G7)の名目実効為替相場。

出所:Macrobond資料より筆者作成

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