オランダのナチュラリス生物多様性センターに展示されているトリックスと名付けられたティラノサウルスの骨格標本。
Mike Bink
- ティラノサウルスは、走ると骨が砕けてしまうため、歩く時の速さは最も早くて時速40kmだったと考えられていた。
- しかし新たな論文で、ティラノサウルスはそれよりも遅い時速4.8kmで歩いていた可能性が示された。人間の歩行速度と同じくらいだったということになる。
ティラノサウルスは「恐竜の王様」とも呼ばれ、畏敬の念を抱かせるほどの存在だが、動きはそれほど速くなかったようだ。
それは古生物学者たちの間ではすでに知られていたことで、ティラノサウルスは速くても時速16kmから40km程度でしか移動できなかったと考えられていた。さらに、2017年の論文によると、もしティラノサウルスが時速19km以上のスピードで走ったとしたら、骨が粉々になったはずだという。そのため、獲物を捕るために必要な場合は早歩きしていたと見られている。
しかし、4月21日に発表された論文によると、ティラノサウルスは早歩きさえできる限り避けていたようだ。研究者の推計によると、ティラノサウルスにとって適切な歩行速度は平均で時速4.8kmだった。
これは、人間の平均的な歩行速度よりも若干遅いくらいだ。つまり、あなたはティラノサウルスよりも速く歩くことができるし、少なくとも散歩についていくぐらいのことはできただろう。
今回の研究には関与していないが、ロンドンの王立獣医大学で進化バイオメカニクスを専門とするジョン・ハッチンソン(John Hutchinson)は、「この研究が正しければ、人間とティラノサウルスの歩行速度に、それほど大きな違いはなかったようだ」とInsiderに語っている。
ティラノサウルスは人間と同じ速度で歩いていた
映画『ジュラシック・ワールド』のプロモーションで、恐竜の模型の前に立つ俳優のジェフ・ゴールドブラム。イギリス・ロンドンにて。
Toby Melville/Reuters
論文の筆頭著者であるパシャ・ファン・ベイレルト(Pasha van Bijlert)によると、動物は最少のエネルギーで活動するために適切な速度を選択するという。
歩く速度をゆっくりにするほど、エネルギーも少なくて済むように思えるかもしれないが、必ずしもそうではない。エネルギー効率を最大にするには、共振と呼ばれる歩行運動を最適化するポイントを見つけなくてはならない。
ブランコに乗って足を前後に動かしている場面を想像してみてほしい。足の動きが速くても遅くてもブランコは動かない。しかし、ちょうどよいリズムで動くと、体のパーツが共振し、効率よくブランコを動かせるようになる。
同様に、最適な速度で歩くことで、体が自然な歩みのリズムを取るようになり、同じような共振が起こる。
「多くの動物は同じような歩行速度を好む。ダチョウ、ゾウ、キリン、馬、ヌー、ガゼルなどのデータを分析したところ、これらの動物は、必要な時以外、それほど速く動くことはなかった」とファン・ベイレルトはInsiderに語っている。これらの動物に最適な歩行速度は、ティラノサウルスや人間と同様に、時速3.5kmから5kmだった。
1993年公開の映画『ジュラシック・パーク』の1場面。
Universal Pictures
つまり、1993年に公開された映画『ジュラシック・パーク』で、車で逃げていく観光客をティラノサウルスが追いかけるというシーンは、あまり正確ではないということになる。
「ティラノサウルスがジープを追い越せるなんて誰も信じていないと思うが、面白い映画にはなるだろう」とファン・ベイレルトは述べた。
ティラノサウルスの尾は効率的な歩行に役立っていた
ティラノサウルスの歩行速度は、これまでの研究では足跡化石の歩幅に基づいて時速11kmと推計されていた。
しかし、ファン・ベイレルトのチームは、ティラノサウルスの足の動きではなく、歩くときに上下に揺れる尾に注目した。
研究チームによると、ティラノサウルスの尾が上がると、尾の内側にある靭帯が脚を後方に引っ張ってエネルギーを蓄え、尾が下りるとエネルギーが放出される。その動きを繰り返すことでティラノサウルスは前に進んでいたという。
尾が揺れ動く速さは、ティラノサウルスが自然に歩く時のリズムを表している。
ティラノサウルスの成体の想像図。
Illustration by Zhao Chuang/Courtesy of PNSO
研究チームは、ティラノサウルスの尾がどのくらいの速さで動くのかを把握するために、オランダのナチュラリス生物多様性センターにあるトリックスと名付けられたティラノサウルスの成体の骨格標本を基に、3Dモデルを作成した。尾の根元から先端までにある筋肉と靭帯を再現したモデルを作成して計算した結果、トリックスに最適な速度は時速4.7kmだった。
だがハッチンソンによると、この計算には不確かな部分があると言う。ファン・ベイレルトの研究チームは、尾が左右に揺れるかどうか、また、それを動かす筋肉がティラノサウルスの最高歩行速度に影響を与えるかどうかを考慮に入れていないからだ。
また、この研究では、ティラノサウルスの最高速度に関する新たな知見が示されていないと付け加えている。「急ぐことなく普通に歩くのと、疾走するのとでは大きな違いがある」とハッチンソンは述べた。
成体のティラノサウルスは、13時間以上歩いて縄張りをパトロールした
ファン・ベイレルトによると、ティラノサウルスに適した歩行速度から、獲物を探したり縄張りをパトロールしたりするのにどれくらいの時間を要したかがわかるという。
カリフォルニア大学バークレー校の古生物学者が行った新たな研究によると、成体のティラノサウルス1頭が住んでいた縄張りの広さは、およそ100平方kmだという。すると、ティラノサウルスが自分の縄張りをくまなく歩いてパトロールするのには13時間以上かかることになる。
ニューヨークのアメリカ自然史博物館に展示されているティラノサウルスの成体の模型。
D. Finnin/American Museum of Natural History
ティラノサウルスは、最大速度で動くときは依然として致命的な捕食者だ。
成体のティラノサウルスは、これまで地球に存在した最大級の陸上肉食動物だ。その体高は3.7から4メートル、体長は13メートルだった。体重は5.5から9トンで、アフリカゾウの成体と同じくらいだ。
また、ティラノサウルスは嗅覚、視覚、聴覚に優れ、隠れた獲物を簡単に見つけることができた。その上、噛む力は約3.5トンで、これは3台の小型車を押しつぶすほどの力だ。これだけの力で噛み砕くことができる動物は、他には知られていない。
「すべての証拠から、ティラノサウルスが同じような大きさの獲物を捕らえる際、なんの問題もなかったことが示されている」とハッチンソンは述べた。
[原文:T. rexes liked to walk as slowly as humans do — at a leisurely 3 miles per hour, a new study finds]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)