オランダ発、世界中で注目を浴びる「トニーズ・チョコロンリー」。2020年秋には日本初上陸を果たしている。
出所:丸井グループプレスリリース(2020年10月26日)
オランダのフェアトレード・スレイブフリー(=強制労働を伴わない)チョコレート大手「トニーズ・チョコロンリー(Tony's Chocolonely)」が、ベルギーの天然原料100%・無添加チョコ「アルテア(Althaea)」およびその同族会社「デ・ラエト(De Laet)」を買収すると発表した。買収額は非公表。
トニーズは創業(2005年)前の商品構想段階から、自社チョコレート工場を有する両社と協業し、その後も製造委託を続けてきた。今回、発行済み株式の100%を取得して完全子会社とすることで、トニーズは念願の自社工場保有を実現する。
トニーズによるアルテア、デ・ラエトの完全子会社化について経緯を説明した動画。文字通り「人の顔が見える」こうした発信手法はトニーズのブランドあるいはカルチャーを示している。
Tony's Chocolonely YouTube Official Channel
トニーズは、デパート大手の丸井グループ、食品・飲料卸売り大手の国分グループから支援を受け、2020年秋に日本初上陸。「日本のチョコレート市場のシェア1%の獲得を長期目標」(丸井グループのプレスリリース)とし、販売店の開拓中。発売1年目を「日本国内におけるブランド認知の期間」と位置づけている。
ミレニアル世代、Z世代以降を中心に、エシカル消費やサステナビリティ重視の生活が注目を浴びる昨今、早くからそうした取り組みを続けてきたトニーズを評価する声は高まっている。
しかし、注目度が高まることで、従来は目につかなかった不備が批判の対象になることも増えてきている。
今年2月、欧州メディア大手のRTLグループは、アメリカの草の根団体「スレイブフリーチョコレート」が認定・公表している「エシカルチョコレートカンパニー(Ethical Chocolate Companies)」リストから、トニーズが除外されたと報じた。
原料となるカカオ豆の一部を、スイスのチョコレート製造販売大手バリーカレボー(Barry Callebaut)グループから仕入れていることが除外の理由で、同社はオランダ・アントワープ近郊の自社工場でトニーズ向けの受託製造を行っており、その原料に児童労働をともなって収穫されたカカオが使われているという。
トニーズのヘンク・ヤン・ベルトマン最高経営責任者(CEO)はRTLの取材に対し、バリーカレボーへの委託製造を中心する考えはないとした上で、
「当社はカカオ産業の大手生産者に変革を促すためにこの仕事を続けてきた。変革のためには(中小農家にとどまらず)産業に大きな影響をもたらす取り組みが不可欠だ」
と強調している。
「スレイブフリー」への道のりは長い
カカオ農家の収入分布。世帯収入は平均2000ドル前後(グラフ下部の山)。生活維持可能な世帯収入は5000ドル弱(グラフ中央の線)だが、それを上回る農家は全体の9.4%に過ぎない。
出所:VOICE Network 'Cacao Barometer 2020'
トニーズの2020年9月期(2019年10月31日〜20年9月30日)通期決算によれば、売上高は前期比で27%増え、8840万ユーロ(約116億円)となった。地元オランダのチョコレート市場シェアは16%、前期比で3ポイント減らしたが、国外市場で売り上げを伸ばした形だ。
近年はベンチャーキャピタルなどから3600万ユーロ(約47億円)の資金調達にも成功しており、先述の日本進出なども含め、事業は順調な加速と拡大を見せている。
しかし、同社が究極の目的とする「スレイブフリー」の実現は容易なことではない。
カカオ産業におけるサステナブルな労働環境を求めて活動する非政府組織(NGO)と労働組合のグローバルネットワーク「ボイスネットワーク(VOICE Network)」が毎年公表している年次報告書「カカオバロメーター(Cocoa Barometer)」(最新版は2021年3月)によると、農家の低賃金、児童労働、森林破壊など、カカオ産業は問題山積で著しい改善は見られない。
同報告書(および協議文書)は、カカオ農家が生活を維持できる「望ましい」価格を1トンあたり3166ドル(コートジボアール)/3116ドル(ガーナ)と計算した上で、トニーズは同価格を1960ドル/1860ドルと設定しており、いずれも1200ドル程度の開きがある(=農家への支払いが安すぎる)と指摘する。
この指摘に対し、トニーズのベルトマンCEOは前出の決算説明会で次のように反論している。
「(強制栽培制度などオランダの植民地政策を批判した19世紀の書物)『マックス・ハーフェラール、あるいはネーデルラント通商会社のコーヒー競売』の教訓に従い、我々は生活維持が可能な収入を算定している。
しかし、現実はまだ貧困そのものであり、トニーズの取り組みは完璧にはほど遠いのが現状だ。それでも、1トンあたり当社以上の価格で購入している企業はチョコレート市場を見渡してもほかにない」
シカゴ大学の調査によると、コートジボワールとガーナでは、児童156万人が違法な条件のもとでの労働を余儀なくされているという。
トニーズも以前、取引先のカカオ農家8000軒超のうち387軒で、重量のある麻袋の運搬など児童労働が行われているのを発見したと報告。うち221軒については、(農家主である)両親への情報提供や教育費の支援を通じて児童労働を解消できたとしている。
一方、残りの166軒は(決算発表時点で)未解決だが、トニーズのベルトマンCEOはそうした農家との契約を打ち切ることはしない。
「子どもたちを学校に行かせる費用がないから、児童労働は生まれている。我々は(見限るのではなく)責任を果たさなくてはならない」
[原文:Tony's Chocolonely takes over Belgian chocolate factory to mold bars]
(文/翻訳・編集:川村力)