ソニー 2020年度連結業績。売上高から純利益まで、2019年度比で大幅上昇という好調さだった。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
売上高8兆9994億円。純利益は前年比でほぼ倍増して1.1兆円。ソニーグループ(以下、ソニー)の2020年度連結業績は、最終利益で「史上最高益」という好業績で着地した。
好調さの牽引役は、過去にも言及してきたとおり「ゲーム」だ。いわゆる「巣ごもり需要」と「PlayStation 5(PS5)需要」が重なっての結果と言える。一方で、不調が続く家電やイメージセンサー、映画事業へのマイナス影響は続いており、今後への懸念もある。
通期決算に合わせて公表した2021年度の業績予想では、営業利益・最終利益ともに減益を見込むものの、売上高はさらに成長するという、手堅い予想をしている。
ソニーの好調は2021年度も続くのか。決算説明会の発言も交えながら「ソニーの今」を深掘りしていこう。
2021年度連結業績見通し。2020年度の好調さを受け、利益率などは下がると予想されているものの、売上自体は8%のプラス成長を見込む。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
ソニーの強さを支える「ゲーム事業」の強さ
事業セグメント別の売上。ゲームや金融が大きく延ばした一方、イメージセンサーや映画事業でのマイナスも目立つ。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
冒頭の通り、ソニーの2020年度決算は、数字の上では「絶好調」の一言に尽きる。
売上高・最終利益ともに、ソニーとしては過去最高の結果となった。2021年2月に発表した第3四半期の決算にて「純利益1兆円超」が予告されていたこともあり、結果自体を驚く声は少ない。むしろ、ゲームなどの好調を背景に、より高い利益水準を予想していたアナリストもいたほどだ。
事業セグメント別に見ると、利益に大きく貢献したのは「ゲーム」と「金融」。2019年度との比較で言えば、圧倒的に大きく伸びたこの2分野だ。
とはいえ、改めて見れば、営業利益で大きなマイナスになったのはイメージセンサーを中心とした「イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)」分野くらいというのは、不調の事業も含めて状況に適切な対応を打ってきた結果、と言える。
ゲームについては、やはり稼ぎ頭であり、利益貢献度も高い。売上高は前年比で34%増、2兆6563億円というビジネス規模になった。
ゲーム&ネットワークサービス分野。2020年度は大幅な増収増益。21年度は営業利益は減少を見込むものの、全体としては好調を維持する想定。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
ゲーム事業の絶好調には、ポイントが2つある。
いわゆる「巣ごもり需要」を軸とした、オンラインからの収益拡大と、PS5の立ち上げに伴う売り上げ増加だ。
ネットワークからの販売比率の増加は、そのままソニーのプレイステーション向けネットワークへの依存度となり、ネットワークサービスの収益増加・ゲーム機としてのアクティブユーザー数増加につながり、ソニーにとってはビジネスの安定感が増すことを意味する。
決算の補足資料として公開された図表には、PS4やPS5の販売台数、ソフトの販売本数に加え、「デジタルダウンロード比率」も記載されている。
2020年度を見ると、コロナ禍がスタートした第1四半期と第4四半期で、ソフト販売数量のうち、ネットワークからのダウンロード販売比率は70%を超えている。
ソニーグループ副社長兼CFOの十時裕樹氏は、この“好調”を「巣ごもり需要と季節要因によるもの」と説明する。2021年度以降も好調を維持すべく努力はするだろうが、すっと7割越えが続くわけでもない……と予測しているのだろう。
PlayStation 5は発売から約半年が経とうとしているが品薄は続いている。さまざまな要因がからみあい、供給数は「すぐに増やせる状況にはない」とソニーの十時CFOは話した。
撮影:西田宗千佳
通常、新しいゲームハードウエアの立ち上げ年は、マーケティング費や製造・研究開発コストなどが収益を圧迫し、「売り上げは上がっても、利益は大幅に下がる」ものだった。だがPS5では、ネットワークから生まれる収益を背景に、そこまでの収益悪化はない。
PS5自体は「戦略的な値付け」(十時CFO)=製造原価を下回る価格で販売されているため、短期的には販売数量の増加は収益を圧迫するのだが、「そこまで影響は大きいものではなく、2021年度中に、周辺機器などを含めたトータルの売り上げでカバーできる」(十時CFO)。
課題はやはりPS5の台数確保だ。
半導体不足の影響もあるが、その他の要因もあり「(PS5の生産は)すぐに数を増やせる状況にはない」と十時CFOはいう。とりあえず、2021年中にはPS4の2年目と同等以上となる1480万台以上の出荷を目指す、としている。
PS5は販売開始から2年目で1480万台以上の出荷を目指す。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
日本が軸になった「音楽」「スマホ」事業
売り上げ拡大・利益貢献という意味で興味深いのが「音楽」事業だ。
音楽もコロナ禍で制作やライブ収益などに影響が出たものの、ストリーミングサービスからの収益拡大と、アニメ・モバイルゲームの収益拡大が寄与した。
音楽部門は好調。特に、アニメとモバイルゲームの成長が売上増を牽引した。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
後者のアニメ・モバイルゲームは、具体的に言えば日本のIP事業、ということだ。大ヒットした『鬼滅の刃』を扱うアニプレックスなどのアニメ部門や、『Fate/Grand Order』などのヒットスマホゲームを多く抱えるのもこの部門。「音楽事業の3割が(人気IPによる)これらの事業」(十時CFO)というから、影響力は非常に大きい。
ただし、それぞれのヒットが2021年度に与える影響はかなり保守的に見積もられており、2021年度は減収に転じると予想されている。
2021年4月1日より、テレビなどの家電とカメラ、スマートフォンなどのコンシューマ事業を合わせて「ソニー」となったが、これらをまとめた「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)分野」は、若干の減収だが営業利益は519億円の大幅増益となっている。
EP&S事業も半導体不足やコロナ禍での物流網への影響を受け、販売数量の減少が起きたものの、「機動的に調達先を変更するなどの施策」(十時CFO)を打っていき、利益率の高い製品へと事業リソースを集中することで利益率を確保している。2021年度もこの路線は継続する。
エレクトロニクス部門全般。売上は減ったものの利益は向上。利益率重視の経営方針が功を奏した。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
ソニーのXperia事業が悲願の「通期黒字」
ソニーが4月に発表したXperiaシリーズの最新モデル『Xperia 1 III』。業界評判は非常に高いモデル。この成果が決算で見えてくるのは、次の決算からになる。
撮影:小林優太郎
中でも興味深いのは、スマートフォン事業の営業利益が227億円と黒字になったことだ。
ソニーのスマートフォン事業は長年赤字に苦しめられており、2019年度も営業赤字だった。先日は韓国・LGエレクトロニクスがスマホ事業からの撤退を決めるなど、事業環境は世界的に厳しい。その中でまとまった額の黒字化に成功したのは、非常に興味深い。
その理由について十時CFOは「3点ある」と話す。
- 事業領域=販売数を絞り込んだこと。「現状、(市場は)ほぼ日本(のみ)」(十時CFO)としており、そのぶん営業リソースの出費も抑制
- 高付加価値路線。日本の中でも数を追うのではなく、高付加価値で単価の高いモデルに集約したことで、利益率が向上
- 設計の最適化。費用削減と設計の最適化が行われた結果、「大幅な収益改善につながった」(十時CFO)
戦略的にここから再度転換し、拡大路線に入ることは考えづらい。当面Xperiaは「日本を中心としたハイエンドマーケット」に特化していくことになるのだろう。
ソニーの大きな課題「センサー事業」
スマートフォンにからみ、現状ソニーにとって大きな課題となるのが、イメージセンサー事業だ。
イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)分野。スマホ向け事業の影響から減収減益だった。21年度も構造改革の時期が続く。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
2020年、ソニーのイメージセンサー事業は大幅な減収・減益となった。コロナ禍での需要減退に加え、中国リスク、平たくいえばファーウェイに対する規制の結果、ソニーのハイエンドスマホ向けのセンサー出荷が減り、事業を直撃した。
その影響は当初の想定より小さいものにとどまったとはいえ、ソニーとしては、新規顧客開拓や販売する商品構成の変更によって、ダメージ回復を図らねばならない立場にある。十時CFOは「早期に2019年度の水準に数を戻す」と当面の状況を説明する。
イメージセンサーへの設備投資は、2021年度に水準を戻し、「攻め」の大勢へ戻るとしている。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
その上で、2022年度に向けて生産設備と技術開発への投資を加速し、「世界最高峰のイメージセンサー企業」として、差別化を加速したいという狙いがある。
だが、スマートフォンを巡る状況は厳しく、他社の追い上げも激しい。その中でどのような戦略を取るのか、もう少し具体的な方針を知りたいところではある。
アメリカなどの「日常化」で映画産業が回復傾向に
2020年は大きく沈んだが、2021年度に向けて大幅な売り上げ改善が想定されているのが「映画」事業だ。
映画部門。コロナの影響を大きく受けたが、劇場の「復活」により、21年度には売上が戻ると見込まれている。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
映画事業はまさにコロナ禍に大きく影響された領域だ。
補足資料で示された数字を見ればわかるように、2019年度と2020年度では「劇場公開」での売り上げ額の規模が大きく変わっている。日本ではどうにか劇場が開いていたものの、映画制作の本場であるアメリカはずっと閉じたままで、劇場公開できない作品が多かった。
結果として2020年度は、「劇場公開に関わる収益が下がり」「配信などのホームエンタテインメントが伸びる」結果に落ち着いた。
ソニーが公開した補足資料より。劇場公開(Theatrical)の部分が、2020年度は、前年比97%減という非常に低い数字になっている点に注目。
出典:ソニー2020年度 業績説明会資料より
いま、アメリカやイギリスなどのワクチン接種が始まった先進国では、劇場の再開が広がっている。「2021年には劇場公開が戻り、2020年度比で50%増を見込んでいる」と十時CFOは言う。
一方、配信の好調が収益の安定化を促す部分もある。
十時CFOは「海外向けに、ネットフリックスおよびディズニーと、同社制作のコンテンツについて良好な条件で長期的な契約を交わした」と明かした。詳しい内容は未開示だが、ソニーは「配信元」ではなく、そこにコンテンツを卸す「制作側」としてキャスティングボードを握る考えであるようだ。
(文・西田宗千佳)
1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。