アマゾン物流センター潜入:“アクリル仕切りの個室ランチ”まで…徹底したコロナ対策の実態

アマゾン坂戸FC

撮影:西山里緒

コロナ禍で激増した“巣ごもり需要”。ネット通販の利用頻度が上がった人も少なくないだろう。

4月29日に発表された米アマゾン・ドット・コムの決算によると、2021年1~3月期は、売上高が前年同期比44%増の1085億1800万ドル(約11兆8000億円)、最終利益は3.2倍の81億700万ドル(約8800億円)。いずれも1~3月期としての最高額を更新した。

コロナ禍で業績を大きく伸ばしたアマゾンだが、それを実現する物流システムはいま、どのように運営されているのか。埼玉県・坂戸市にある「坂戸フルフィルメントセンター(FC)」でその実態を目撃した。

1年で少なくとも数千人規模の雇用

ある小雨の日、筆者はアマゾンFC(フルフィルメント・センター、物流倉庫のこと)を訪れた。

池袋駅から東武東上線で1時間ほど揺られ、坂戸駅で降りる。タクシーで10分ほど走り、アマゾンが運営する物流センターまで向かう。

「あの一帯の工事を担当したのは大和ハウスだよ。とんでもない大規模な工事だったね。どこかで読んだけど、アマゾンだけで2000人もあたらしく雇うことになったらしいねえ」

ドライバーの方と雑談をしていると、感嘆したような、半ば呆れたような声でそう漏らす。アマゾンは従業員の人数を公表していないものの、さまざまな情報を総合すると、数千人規模が働いていることは間違いなさそうだ。

なお、アマゾンは2020年だけで4つの物流センターを新オープンしており、坂戸FCもそのひとつだ。センターには、アマゾン以外にも住友電装やフジッコなど、いくつかの企業がテナントとして入っていた。

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撮影:西山里緒

中に入ってみると、人影はほとんど見えない。

受付があるという2階に上がってみると、早速厳重なコロナ対策がとられたエントランスが見えた。セルフ検温に、消毒もオートマチック。しばらくして、案内を担当してくれる広報担当者が現れた。

2メートルおきに貼られた黄色いテープ

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撮影:西山里緒

今回の取材の目的は、オペレーションエリア(メーカーから入荷した商品を仕分け・梱包・出荷するまでを担う、物流センターの核となる場所)内のツアーだ。

案内を担当してくれたアマゾンジャパン FC事業部統括本部長の島谷恒平氏はコロナ対策について、人が意識しなくても良くなるような“仕組み”づくりを徹底した、と説明する。

まず室内のすべての歩行スペースには、2メートルおきにテープが貼られている。オペレーションエリア内だけでなく、オフィスの廊下や会議室に至るまでだ。

「こうすれば、意識しなくても2メートル以内に近づかないようになるんです」(島谷氏)

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撮影:西山里緒

オペレーションエリア内の事務作業スペースには、飛沫防止のためのアクリル板が天井にまで伸びる。元々は「つい立て」だったが、それでは効果が薄いと判断し、追加工事をしてこのスペースを作ったのだという。

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撮影:西山里緒

ビーッ、ビーッ、ビーッ。エリア内の一角で説明を受けていると、突然けたたましいアラームが鳴り始めた。

前を見ると、モニターの上にセンサーが設置されており、自分の周りに赤い線が引かれている。2メートル以内に人が接触すると、センサーが反応してアラートが出る仕組みだという。一歩下がると、自分の周りにある線は緑に変わり、アラームもやんだ。

「こうすれば、意識しなくても2メートル以内に近づかないようになりますよね」

島谷氏はもう一度、そう繰り返した。

ランチスペースにも個室のアクリル板

ランチをとるスペース

撮影:西山里緒

システムとしての感染症対策は、オペレーションエリア外にも及んでいた。従業員がランチをとるスペースでも、お互いに「ソーシャルディスタンス」を取れる仕組みが徹底されていた。

例えば、食堂の中に入るにも、迷路のように入り組んだアクリル板の仕切りがある。また手洗い場では、混雑しないように2メートル離れた場所に「止まれ」のサイン。さらに進むべき方向を指し示す矢印まで。

ランチスペース

撮影:西山里緒

さらに驚いたのは、食堂だ。アクリル板でできた「個室」が長机に特設されており、それぞれの机に消毒用のアルコールやペーパーが置かれていた。もちろん、混雑しないようにランチタイムも分単位で時間が決められている。

これはソーシャルディスタンスというより「強制ぼっちメシ」のようにも見えるが、島谷氏によると、むしろこのアクリル板があることで、気兼ねせずに隣の人と会話することができるのだという。

人の意志よりもシステムを優先する

アマゾン

従業員が梱包作業をするところ。梱包用の段ボールも細かく区分けされている。

撮影:西山里緒

善意に頼るな。仕組みを作れ(Good intention doesn’t work , only mechanism works)」

これはアマゾン創業者であり現取締役会長、ジェフ・ベゾスのモットーとして知られる

世界中のありとあらゆる人が働くための、人間の“意志”に頼らない「仕組み(システム)」づくりは、アマゾンの行動原則の中核を占めている。例えばホワイトボードに置かれているペンですら、置き場所が四角いテープで括られ「赤」「青」「黒」と場所まで指定されていた。

なお、アマゾンは2018年から「ドライブ(Drive)」と呼ばれる自走式ロボットを使って、物流拠点の自動化にも取り組んでいる。今回訪れた坂戸FCでも、多くの場所でドライブが棚を移動して商品をピッキングしている様子が見られた。

その一方で、一度も人の手を介さずにロボットだけで入荷から出荷までを完了させることはまだできないそうだ。

従業員の安全を確保しながら、コロナ禍の需要に応える ── 両者を叶えるため、効率化と感染症対策を同時並行で進めることは、アマゾンにとって必要不可欠な取り組みだったと島谷氏は語る。

日本も売り上げ過去最高の約2兆1700億円

アマゾン

アマゾンは、便利な配送サービスの裏で、複数の訴訟を抱えている。

撮影:西山里緒

コロナ禍で、アマゾンの業績の伸びはとどまるところを知らない。

4月29日に発表された決算によると、2021年1~3月期は売上高・最終利益がともに同期比で過去最高を更新した。ベゾスが株主に宛てたニュースレターによると、有料サービス「アマゾン・プライム」の会員数は2020年初から5000万人増え、全世界で2億人に達したという。

日本における2020年の売上高(全事業)は、前年比約3割増の204億6100万ドル(約2兆1714億円)だった

コロナ禍の“巣ごもり需要”で大きく売り上げを伸ばしたアマゾンはその一方で、労働環境についての摩擦を引き起こしてもいる

その最たる例が、2021年4月にアラバマ州ベッセマーの物流センターで実施された、米アマゾンで初となる労働組合結成の是非を問う従業員投票だ。結果的にこの従業員投票は反対多数で否決されたが、バイデン大統領も労組結成に支持を表明するなど、大きな注目を集めた。

さらにアメリカでは3月、アマゾンの配送を担うトラック運転手が忙しさのあまりペットボトルに排尿をしているとして批判された。アマゾンはTwitterの公式アカウントでこの批判に対して反論したが、後にツイートは誤りだったとして全面的に謝罪した

日本でも4月、アマゾンジャパンの労働組合支部長の男性が、不当な解雇を通告されたとして、社員としての地位確認と賃金などの支払いを求める訴えを東京地裁に起こしている。

「翌日配送」支える労働環境、メンタルケアも課題

アマゾン

感染症対策の次は、メンタルケアも課題だという。

撮影:西山里緒

アマゾンの物流を担う従業員を含む、感染症リスクを負いながら社会インフラを維持するために働く人々は「エッセンシャル・ワーカー」と呼ばれ、コロナ禍で注目を集めた。

その功績は讃えられた一方で、多くは厳しい労働環境に置かれているとも報じられている

アマゾンの徹底した感染症対策も、安全面から見れば従業員にとって必要なものなのだろう。しかし秒刻みで行動が規定され、歩幅もテープに合わせる必要があり、さらに休憩時間もアクリル板を通じて同僚と話すことになる労働環境は、率直なところストレスが溜まるだろうと感じた。

島谷氏も、従業員のメンタルケアは今課題になっていると話した。

コロナ禍でアマゾンの労働環境に批判の声が上がっている一方で、その“便利さ”を享受しているのは、他ならぬ私たち自身だ、ということも忘れてはならない。

取材から帰った後、「翌日配送」をクリックして手元に届いたアマゾンの段ボールを眺めながら、アクリル板に囲まれたランチスペースで黙々と食事をする従業員の背中が、ふと思い起こされた。

(文・写真、西山里緒

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