「モデルナ」ワクチン開発の知られざる物語。接種対象の「多様性」重視し、白人偏重の臨床試験見直し

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日本にとってモデルナ(Moderna)は、米ファイザー(Pfizer)、英アストラゼネカに続く3社目のワクチン供給元となる。

REUTERS/Mike Segar

5月20日、厚生労働省の専門部会は米バイオ医薬品メーカー・モデルナの新型コロナワクチンの承認可否について審議を行い、了承した。早ければ明日21日にも正式承認される。米ファイザー製に続いて国内2番目となる。

ファイザー製とほぼ同等の有効率を示し、日本では東京と大阪の大規模接種センターで使用される予定だ。

モデルナは、日本ではほとんど知られていない新興医薬品メーカーだが、その開発スピードと高い有効性、温度管理の容易さ(=扱いやすさ)には、多くの関係者が驚きの声をあげている。

開発開始から完成に至る、長いようで短い1年弱の物語を以下でお届けしよう。


2020年1月。アメリカのバイオ医薬品メーカー・モデルナ(Moderna)最高経営責任者(CEO)のステファン・バンセルは、南フランスで家族との休暇を楽しんでいた。

iPadでニュースに目を通していた彼は、ウォール・ストリート・ジャーナルのタイムラインに「中国で感染広がる謎のウイルス、保健当局が事態収束に奔走」(1月6日付)との見出しを見つけると、フリックする指を止めた。

バンセルはその場でアメリカ国立衛生研究所(NIH)のワクチン研究者、バーニー・グレアム博士にメールを送り、中国中部に突如として出現したこのウイルス性肺炎について何か知らないかたずねた。

グラハムからの返信によれば、ウイルスの正体はまだわかっていないとのことだったが、その数日後には新型のコロナウイルス(=風邪や肺炎などの原因となるウイルス)であることが明らかになった。

バンセルは、NIHの科学者がウイルス遺伝子の塩基配列(シーケンス)を確認できたらすぐに連絡をくれるよう、グレアムに頼んだ。

モデルナはすでにその時点で仕事に取りかかる準備を整えていた。

前例のないスピードで開発されたワクチン

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モデルナ(Moderna)の最高経営責任者(CEO)ステファン・バンセル。創業直前は、フランスの体外診断薬メーカー・ビオメリュー(bioMérieux)のCEOを務めた。

Harvard Business School Healthcare Alumni Association

それから1年もしないうちに、モデルナとNIHは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への罹患を防ぐワクチンを開発し、緊急使用の許可取得までこぎ着けた。

モデルナと、同時期に緊急使用許可を得たファイザー・独バイオンテック(BioNtech)連合によるワクチン開発は、いずれも前例のないスピードで進められた。

モデルナとバイオンテックが用いた、従来的な手法とは全く異なる新たなアプローチは、ワクチンの製造方法に革命をもたらし、製薬大手が独占してきた350億ドル規模のワクチン市場でシェアを拡大するチャンスを生み出すとみる向きが多い。

バンセルはInsiderの取材にこう語っている。

「これまでの競争とはまったく異なります。我々はウイルスを見たことがありませんし、見る必要もありません。必要なのは、ウイルスの遺伝子情報だけなのです」

モデルナの可能性に関するバンセルの希望に満ちたビジョンに対し、投資家たちが諸手をあげて支持を表明するまで、さほど時間はかからなかった。同社の株価は2020年初に比べてほぼ10倍に上昇し、時価総額は745億ドル(約8兆円)までふくれ上がっている(2021年5月3日時点)。

しばしば製薬業界の巨人と呼ばれるファイザーは時価総額2221億ドルと数倍の規模を誇るが、モデルナはそれほどの大手製薬会社とワクチン開発で互角にわたり合い、ファイザー・バイオンテック連合に遅れることわずか1週間で、高い有効性を示す臨床試験の結果を発表するところまでたどり着いた。

2010年に設立されたばかりの新興医薬品メーカーに、なぜそんな勝負が可能になったのか。

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