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- 新型コロナウイルスのパンデミックの最前線で働く多くの看護師たちが、肉体的にも精神的にも疲れ切っている。
- Trusted Healthの調査によると、アメリカではかなりの数の看護師たちが転職を考えているという。
- 看護の仕事に対する情熱が失われたように感じると答えた人のうち、25%は新たな仕事を探しているもしくは引退を考えているという。
新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから1年以上が経ち、先行きが見えない中で患者を助けるためにこれまで休むことなく働いてきた看護師の中には、この仕事を辞めようと考えている人たちがいる。
コロナ禍での看護の仕事に耐えられなくなった人たちもいるし、多くの看護師たちは自分たちの仕事が正当に評価されていない、過小評価されていると感じている。
トラベルナースのニッキー・モッタさんはこの1年、アメリカ東海岸沿いの複数の病院で働いてきた。新型コロナウイルスの患者を看護し続けてきたモッタさんはストレスで髪が抜けた。
モッタさんが働いてきた病院はどこも深刻な人手不足に陥っていて、重症患者の中にはマンツーマンのケアを必要とする人がいるにもかかわらず、たくさんの患者を受け持つことが多かったと、モッタさんはInsiderに語った。患者の体勢を変えるといったタスクや患者の基本的なケアも、全て1人でやらなければならなかったという。
「人工的な昏睡状態にあったり、消耗しきっていたり、身体機能が低下していて、こちらに協力することができない患者さんの体勢を変えたり、からだを持ち上げたりするんです。床ずれがないかどうか確認するために患者さんのからだを横向きにするのですが、それを手伝ってくれる人はいないんです」
「助けてくれる機械もありません。そのため、看護師たちが1日中、数時間をかけていろいろな体型、いろいろな身体状態の患者さんの肩や背中、足の傷をチェックしているんです」
多くのトラベルナースが別の仕事を探している
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約1000人のトラベルナースを対象に行われたTrusted Healthの最新のオンライン調査によると、回答者の67%は「医療機関が看護師のメンタルヘルスや健康を重視しているとは思わない」と考えている。
また、看護の仕事に対する情熱が失われたように感じると答えた人のうち、46%は離職を検討していて、25%は看護師以外の仕事を探しているまたは引退を考えているという。
Trusted Healthによると、看護の仕事に対する情熱が失われたと答えた40歳以下の看護師は、平均よりも22%多かった。
「これは大問題です。看護師の供給はすでに少ないからです」とTrusted Healthのクリニカル・イノベーションの責任者ダン・ウィバーグ(Dan Weberg)氏はInsiderに語った。「看護師はずっと不足してきました。2029年まで、毎年17万5000人の欠員が出続けるだろうとの統計もあり、看護師が早い段階で離職し、十分なトレーニングができないとなると、全く違う医療危機を招きかねません」とウィバーグ氏は言う。
リズ・エバンスさんは、新型コロナウイルスのホットスポットで集中治療室(ICU)専門のトラベルナースとして働くために、心臓・胸部ICUの看護師(正職員)の仕事を辞めた。
エバンスさんは、コロナ禍でカリフォルニア州の病院では看護師が不足していて、1度のシフトで5~6人の患者を担当しなければならなかったとInsiderに語った。こんな状況は「聞いたことがない」という。
「ICUでは通常、1人… 多くても2人の患者さんを担当します。患者さんたちがそれだけ重症だからです」とエバンスさんは話した。
「文字通り5分で状態が急激に悪化する可能性があるので、常にそこにいなければなりません。誰かが見ていないと、患者さんは死んでしまいます」
リソースが不足しているということは、看護師の負担が増えるということ
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モッタさんは、患者のケア以外で突き付けられる要求にもストレスを感じたと話している。シフトが明けた後も、患者情報をまとめるのに何時間も費やさねばならず、シフト中も備品などを補給するのに走り回らなければならなかったという。
看護師として6年働いてきたモッタさんは病室看護を離れ、高度実践に移ろうと考えていると話した。
「この1年、本格的に病室看護を離れることを考え始めました。あまりにも負担が大きいし、患者さんを助け、気分を和らげる支えになりたいという、もともと自分が希望していた仕事をやっているように思えないんです」
「看護師に対する要求がどんどん増えているようにすら感じます。看護師は人助けがしたい、頼まれたことはやりたいと考えるタイプの人たちですが、いろいろな意味でそれをいいように利用されていると思います」
エバンスさんも、患者を生かしておくために本来別の担当者がやるべき重要な役目を果たすようになったり、看護師が普通はやらないような仕事もせざるを得なくなっていると話した。ただ、それは精神的にも肉体的にも大きな負担となっているという。
看護師になってからまだ3年だが、エバンスさんには看護の仕事を辞めようかと思ったトラウマ的な瞬間があった。ある日、患者が心肺停止状態になり —— つまり、救命治療が必要ということだ —— エバンスさんは助けを呼んだが、誰も反応しなかったという。同じフロアで他にも2人が心肺停止状態になっていたからだ。
「リソースが十分でなかったので、他のみんなが別の患者さんの処置をしている間、わたしが目の前の患者さんを生かそうと心臓マッサージをやりました。処置が終わるとすぐにみんながわたしのところへ来てくれましたが、もう手遅れでした」
「ドアに向かって『ねぇ! 助けが必要なの。誰かここに来て。マネジャーでも誰でもいいから連れてきて。誰かがここにいなきゃダメよ』と大声を上げていたかもしれません。でも、誰もいなかったんです」
この日の夜、別の患者が心肺停止状態になったが、看護師長が来てくれるまで、エバンスさんはまた1人で対応しなければならなかったという。
「それでも、わたしたちは2人だけでした。医師はいなかった。他には誰もいなかったんです」
看護師を確保するために、医療機関にできること
多くの看護師たちが看護の仕事を辞めようかと考えているものの、その決断は簡単ではない。エバンスさんもモッタさんも、本当に自分が看護師の仕事を辞めたいのかどうか、患者を直接ケアすることが少ない医療の仕事に就きたいのかどうか、まだよく分からないと話している。安易に判断は下していないが、2人とも自分たちはいっぱいいっぱいで、燃え尽きていると感じている。
ただ、医療機関には、看護師が"自分たちはサポートされている"と感じられるようにできることがあると2人は言う。それが感じられれば、看護の仕事を続けられるかもしれない。
モッタさんは、看護師と患者の適切な比率を守り、人手不足を解消することが重要だと指摘する。経験豊富な看護師を配置して、経験の浅い看護師を支援することも重要だ。モッタさんは、精神的にも肉体的にも負担の大きい看護師の仕事に見合った報酬も支払われるべきだという。
「医療機関は、看護師が価値のある、医療機関にとって欠くことのできない存在であり、看護師なしでは病院は運営できないと認識する必要があると思います」
「これは病床から離れて過ごす時間についても同じです。どんな仕事でも、精神的、肉体的に負担が大きな仕事は、その仕事から離れられる時間が必要なのです」
(翻訳、編集:山口佳美)