イスラエルの首都エルサレムにあるインテル傘下モービルアイ(Mobileye)の先進運転支援システム(ADAS)開発拠点にて。2020年も世界中で完全自動運転実現に向けた技術開発が進められた。
Mobileye
米市場調査会社ガイドハウス・インサイツは、自動運転技術の開発に取り組む企業を、技術・戦略・パートナーシップなどの視点から評価し、総合点に基づくランキングを毎年発表している。
最新の2021年版によると、自動運転技術の市場投入は遅れ気味ながらも、トップレベルの企業は着実にその地位を確立しつつある。したがって上位に大きな変動はなかった。
グーグルの兄弟会社ウェイモは2020年版に続いて首位を獲得。画像処理半導体のエヌビディアなど、ランキング圏外から一気に業界リーダーのポジションにノミネートされた企業もいくつかある。
また、テスラについては、自動運転技術のテスト方法に疑念が残るとの見方から、ランクインした企業のなかでは最下位とされている。
ガイドハウスのアナリスト、サム・アブエルサミドとスコット・シェパードの2人が作成した2021年度版ランキングと、それぞれの評価コメントは以下の通りだ。
【第15位】テスラ(Tesla)
テスラ(Tesla)の自動運転テスト手法に懸念の声も。
Grisha Bruev/Shutterstock.com
米カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くテスラ。2020年は、標識や信号を認識して反応する能力を含め、同社の言うところの「完全自動運転(FSD)」機能のアップデートを進めた。
「スマートサモン(自動運転による呼び寄せ)」機能など先行するアップデートと同様、2020年のメジャーアップデートはいずれも問題が多かった。標識や信号の認識については、信号が青なのに止まったり、一時停止など基本的な標識を認識しなかったり、トラブルの報告が相次いでいる。
テスラは自動運転システムの開発アプローチを根本的に見直す必要がある。この5年ほど、同社はマーケティング面で大風呂敷を広げてきたが、まったく結果が伴わなかった。誠実なスタンスに改めない限り、このランキングで順位を上げることはできないだろう。
総合点:34.7
戦略点:24.0
進捗点:42.8
【第14位】メイモビリティ(May Mobility)
米ミシガン州グランドラピッズ(ミシガン湖東岸)を走るメイモビリティ(May Mobility)の試験車両。
May Mobility YouTube Official Channel
米ミシガン州アナーバーに本拠を置くメイモビリティ。2020年は、年初に複数の経営幹部が退社し、その直後にパンデミックが広がって数カ月の業務停止を余儀なくされるなど、苦難の時期が続いた。
ロードアイランド州プロビデンスとオハイオ州コロンバスで実施していた4つのパイロットプログラムのうち、2つが早期終了。メイモビリティが同プログラムで使用していた、ポラリス(Polaris)製の6人乗りシャトルバス「GEM」は、信頼性に欠ける面があるとともに、空調システムの不備が指摘されていた。
同社はパイロットプロジェクトを通じて浮かび上がったさまざまな問題を、2021年にローンチする新サービスで払拭しようと準備を進めている。
総合点:54.3
戦略点:59.5
進捗点:48.6
【第13位】オートエックス(AutoX)
中国・深センを走るオートエックス(AutoX)の自動運転レベル4(完全無人走行)試験車両。自転車の横断を待って交差点を左折するシーンのスムーズさに注目(02:50以降)。
AutoX YouTube Official Channel
オートエックスは、米カリフォルニア州で「緊急時に安全を確保する運転手(セーフティ・オペレーター)なしの公道走行試験」許可を受けた6社のうちの1社。2020年4月からは、中国・深センでも同様の試験走行を開始している。
中国市場にフォーカスする同社だが、獲得可能な市場規模が大きい一方で、競争もし烈だ。とりわけバイドゥ(百度)は強力な競合。オートエックスの自動運転システムを導入したいと考える完成車メーカーを増やせるかどうかが成長のカギを握る。
なお、2021年4月にはホンダの中国法人(本田技研科技)と自動運転技術開発について提携を発表している。
総合点:54.9
戦略点:56.1
進捗点:53.8
【第12位】ガーティック(Gatik)
ガーティック(Gatik)とウォルマート(Walmart)は2020年12月、米アーカンソー州で完全無人走行トラックによる配送テストに着手すると発表した。
Courtesy of Walmart
商用(法人向け)の短・中距離輸送に特化した自動運転車を開発するガーティック。本拠は米カリフォルニア州パロアルト。
2019年、小売り大手ウォルマートが本社を置く米アーカンソー州でパイロットプログラムを開始し、2020年にはカナダのスーパー大手ロブローズ、米ルイジアナ州のウォルマートにも拡大。2021年にはアーカンソー州で(運転手が同乗しない)完全無人運転による物流センターからの配送プロジェクトにも着手する。
ガーティックは需要の想定される限定された市場を狙っているが、果たしてそれを効率的に拡大していけるのか、現時点では見通せない。同社開発の自動運転システムを導入する完成車メーカーが出てくるかがポイントになる。
総合点:56.1
戦略点:62.3
進捗点:49.2
【第11位】ヤンデックス(Yandex)
Yandex
モスクワに本拠を置くヤンデックス(1997年に検索サービスを柱に創業)は、パンデミックの影響を受けながらも着実に開発を続けた。
同社は試験走行のほとんどを外部から確認できないエリアで行ってきた。将来性が期待されるものの、展開が早すぎて技術が追いつかない状況も垣間見える。配車サービス大手ウーバーなども過去に同様のやり方で問題を引き起こしており、懸念される。
総合点:62.5
戦略点:64.5
進捗点:60.4
【第10位】ニューロ(Nuro)
ニューロ(Nuro)の自動運転配送車両「R2」。
Nuro
このランキングに登場する他の企業と違って、ニューロはいわゆる「ラストワンマイル」の配送市場に特化して自動運転開発を進めている。
乗客の安全保護が欠かせないロボットタクシーに比べると、デリバリー専用に開発したニューロの車両はコストがきわめて少ない。清掃など車内メンテナンスの手間もあまりかからない。配送ルートを最適化できれば、経済性はロボットタクシーを上回るだろう。
ニューロの公道展開はまだまだ限定的だ。配送事業と専用車両の組み合わせは、短期的には間違いなく有利だが、この先まで含めて何もかもが問題なく実証されたわけではない。
総合点:67.1
戦略点:69.7
進捗点:64.4
【第9位】ズークス(Zoox)
12月14日、アマゾン傘下のズークス(Zoox)は配車サービスに投入するロボットタクシー車両を公開した。
Zoox
2020年6月、アマゾンはズークスを12億ドルで買収することで合意したと発表。8月には買収手続きまで無事完了した。
同年12月、開発を進めてきたロボットタクシー専用車両をお披露目。現在、試作機は走行試験を行っていて、2〜3年後にはサービスインが想定される。
アマゾンの傘下入りしたズークスが手にしたのは、圧倒的な技術力と資金力、さらにはビジネスがモノになるまで口を出さず、辛抱強く待つことで知られる親会社という後ろ盾だ。
とはいえ、ズークスの能力がどれほどのものかはまだ明らかになっていない。乗客の輸送にフォーカスしているため、想定しているサービスで最初から利益を出すのは容易ではないと思われる。市場開拓戦略をさらに多様化できればチャンスが広がるだろう。
総合点:74.4
戦略点:74.0
進捗点:74.8
【第8位】オーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)
米オーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)は、自動運転トラックの開発に強みを持つ。
Aurora Innovation
米カリフォルニア州パロアルトに本拠を置くオーロラ・イノベーションにとって、2020年は大きな変化の年だった。最初に挑む市場として勝ち残れる可能性がより高い、長距離トラックへの自動運転システム投入に舵を切った。
同社の開発アプローチは、公道での自動運転システム試験をできるだけ少なくして、ソフトウェア検証をシミュレーション中心に行うというもので、安全性の観点においては優れている。ただし、公道での試験走行の結果がシミュレーションと一致しない場合、このアプローチは問題ありということになるかもしれない。
総合点:74.6
戦略点:79.0
進捗点:70.0
【第7位】モービルアイ(Mobileye)
米ミシガン州デトロイトの市街地を走るモービルアイ(Mobileye)の自動運転車両。
Mobileye
コンピュータービジョン技術を駆使した先進運転支援システム(ADAS)のサプライヤーとしてトップを走り続けるモービルアイ。
米半導体大手インテル(Intel)による153億ドル(約1兆7000億円)の巨額買収から4年が過ぎたいまも、ADAS市場における地位は揺るぎない。自動運転システムの安全な展開にも大きな役割を果たしている。
ただし、同社の自動運転システムは光学カメラを中心に構成され、レーダーやライダー(LiDAR)は検証用の位置づけで、このままだと運行設計領域(=システムが正常作動する前提となる環境条件)が限られてくるおそれがある。
総合点:75.3
戦略点:76.2
進捗点:74.5
【第6位】モーショナル(Motional)
自動運転技術で社会のあり方を変革しようというモーショナル(Motional)のメッセージビデオ。
Motional YouTube Official Channel
新型コロナ感染拡大を受けて業務を一時停止していたモーショナルだが、2020年秋に米ネバダ州ラスベガスでロボットタクシーの商業運行を再開。配車サービスのリフト(Lyft)を通じて10万回超の実車走行を達成した。
2020年下半期には、非常時に安全確保にあたる運転手が同乗しない、初の公道での試験走行をラスベガスで開始している。
ただし、リフトを通じて実施したラスベガスでのパイロットプログラムは、ホテルの車寄せまで乗客を送り届ける走行は許可されず、モーショナルの自動運転能力が完全に示されたとまでは言えない内容だった。
ドアツードアの実車走行が実現されるまで、業界リーダーとしてのポジションは限定的と言うほかない。
総合点:77.5
戦略点:81.2
進捗点:73.7
【第5位】クルーズ(Cruise)
GMがホンダなどと協力して開発を進めるシェアリング向け自動運転車両「クルーズ・オリジン(Cruise Origin)」。2020年1月にサンフランシスコでお披露目された。
Cruise
米カリフォルニア州サンフランシスコに本拠を置くクルーズ。2019年末までにロボットタクシーの商業運行を開始するという当初の目標は未達のままだったが、2020年にいくつかの注目すべきマイルストーンをクリアした。
商業運行の規模・エリア拡大に向けて、走行試験を世界中の都市に拡大しつつある同社だが、最初に商業運行を実現するのは2022年上半期、地元のサンフランシスコになりそうだ。
ただ、サンフランシスコで強固な基盤を築き、親会社の米ゼネラル・モーターズ(GM)や出資企業のホンダなど名だたる完成車メーカーとの提携関係があるにもかかわらず、自動運転システムの実証試験開始からそれなりの時間が過ぎている。
同社が公道で要求されるパフォーマンスまで到達するのに苦しんでいるとの懸念もあり、なかなかサービスインに至らないのもそのあたりに理由があるのかもしれない。
総合点:80.2
戦略点:85.8
進捗点:74.2
【第4位】バイドゥ(Baidu、百度)
バイドゥ(Baidu)が開発する自動運転プラットフォーム「アポロ(Apollo)」の紹介動画。
Baidu YouTube Official Channel
北京に本拠を置くバイドゥは、中国における自動運転開発のリーディングカンパニー。完成車メーカーとの提携は複数におよび、自社開発の自動運転プラットフォーム「アポロ(Apollo)」の搭載を支援している。
中国では各地で運転手の同乗しない走行試験が実施されているが、首都・北京で許可されているのはバイドゥのみ。同国内ではそれだけ強力な地位を占めており、ロボットタクシーに付加価値をもたらすさまざまなデジタルサービスも提供する。
中国は2020年代に世界最大の自動運転市場に成長すると予想され、多くのプレイヤーがひしめき合う。ハード面で他社との提携を進めることで、バイドゥのチャンスはさらに広がるだろう。
総合点:79.7
戦略点:83.2
進捗点:76.0
【第3位】アルゴAI(Argo AI)
アルゴAI(Argo AI)の自動運転システムを搭載したフォード(Ford)の車両。米ミシガン州デトロイトの市街地にて。
Argo AI
米ペンシルベニア州ピッツバーグに本拠を置くアルゴAI。独フォルクスワーゲン(VW)とフォードから26億ドル(約2800億円)ずつの出資を受け、財務面ではきわめて恵まれている。
フォード・フォルクスワーゲンともに今後2年以内にモビリティサービスによる収益計上が想定されており、アルゴAIがそれを実現するための資本は十分と言える。それでも、これから数年の間にさらなる提携や出資受け入れの可能性はあり得る。
アルゴAIは2017年以降、さまざまなパートナーとのパイロットプログラムなど、複数のロケーションで技術開発を進めてきたが、乗客ありの公道での運行はまだ経験がなく、その能力は未知数。
2022年には商業運行が計画されており、そこで実力を見せつけることができれば、さらに上位ランキングも狙える。
総合点:81.2
戦略点:85.7
進捗点:76.4
【第2位】エヌビディア(Nvidia)
エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)。
REUTERS/Rick Wilking
2020年9月、日本のソフトバンクグループから英半導体設計大手アーム(Arm)を買収すると発表し、世間の話題をかっさらったエヌビディア。
同社のハードウェアおよびソフトウェアは、自動運転システムを開発するほとんどの企業が使っている。モービルアイの半導体を選択した企業以外は、少なくともある程度はエヌビディアのハードウェアをシステムに組み込んでいることになる。
今後さらに同社のソフトウェアプラットフォームを導入する企業が増えれば、エヌビディアのランクはさらに上昇するだろう。
総合点:81.7
戦略点:86.1
進捗点:77.2
【第1位】ウェイモ(Waymo)
REUTERS/Steve Marcus
2020年はウェイモにとって非常に重要な年となった。年明け早々、複数のプライベート・エクイティやカナダ年金制度投資委員会、大手自動車部品サプライヤーのマグナ・インターナショナルなどから、同社初の外部資金を獲得した。金額は22億5000万ドル(約2400億円)だった。
この巨額の資金調達により、同社は親会社アルファベットの財布に頼ることなく、収益を拡大して黒字化を達成するための「次の一歩」を踏み出す準備が整った。
米アリゾナ州フェニックスや近郊のチャンドラーで展開中の自動運転配車サービス「ウェイモ・ワン(One)」について、安全確保のための運転手が同乗しない完全無人車両を一部に導入した。2020年時点では配車サービス全体の5~10%が完全無人車両。サービス利用には、秘密保持契約(NDA)に同意する必要がある。
自動運転業界では競争が激化してプレイヤーの統合が進んでいるが、ウェイモは2年連続の首位を獲得し、その地位を固めつつある。
現時点では、ステランティス(旧フィアット・クライスラー・オートモービルズ)など2社が、自社開発する自動運転レベル4の車両にウェイモの自動運転システムを搭載する契約を結んでいる。
総合点:85.6
戦略点:89.3
進捗点:81.8
(翻訳・編集:川村力)