SN15プロトタイプロケットは着陸に成功し、イーロン・マスクが作ろうとしている再利用可能な大型ロケットへの一歩を踏み出した。
SpaceX; Britta Pedersen-Pool/Getty Images
- スペースXは、宇宙船「スターシップ」の最新プロトタイプを高高度まで打ち上げ、着陸させることに成功した。
- 今回を含めて、これまでに5つのプロトタイプが飛行したが、最初の4つは爆発していた。
- 今回の成功は、イーロン・マスクが考える完全に再利用可能なロケットの実現に向けた大きな一歩だ。
2021年5月5日(現地時間)、スペースX(SpaceX)は大型ロケットの最新プロトタイプをテキサス州の上空約1万メートルまで打ち上げた。2020年12月から数えて5回目の高高度への打ち上げだ。
今回は、これまでの4回とは異なり、帰還時に爆発することなく着陸に成功した。前回のプロトタイプは、ロケットの足元で発生した火が消えず、着陸の約10分後に爆発した。今回も足元に火は見えるが爆発はしなかった。
「スターシップは計画通り着陸した!」
スペースX社の創業者で、CEO、チーフエンジニアでもあるイーロン・マスク(Elon Musk)は、ツイッター(Twitter)で高らかに宣言した。
16階建てのビルほどの高さの「スターシップ(Starship)Serial No.15」(SN 15)と呼ばれるこのロケットは、前回の打ち上げと同じコースを辿った。テキサス州ボカチカにあるスペースXの発射施設から打ち上げられ、飛行の頂点に近づくと、エンジン3基のうち2基を停止。最終エンジンを切る前に上空約1万メートルでホバリングして、それから横に傾き、地球に戻ってきた。ロケットは地表に近づくと、エンジンを再点火して垂直になり、着陸地点に降下した。
5日午後の時点で、SN 15はまだ着陸地点の上に無傷のままでいる。
この巨大宇宙船の最終バージョンは、NASAの次の月面着陸船になる予定で、成功すれば、1972年以来初めて月面に人を運んだ乗り物になる。
月に着陸したスターシップのイメージ図。
SpaceX
マスクは、ロケットシステムに対して野心的なビジョンを持っている。彼の会社が打ち上げているプロトタイプは、2つの部分からなるシステムの上段になることを想定している。最終的には、23階建てのビルと同等の高さの「スーパーヘビー(Super Heavy )」と呼ばれるブースターが宇宙船を軌道に乗せることになる。
マスクは、このシステムで人間を地球低軌道に乗せ、次いで月や火星にまで連れて行き、地球に戻ってきて再びそれを使用したいと考えている。SN15がスムーズに着陸したことで、スターシップは、マスクが望む再利用可能な乗り物へと大きく近づいた。
4月23日に行われたNASAの記者会見でマスクは、「我々は完全かつ迅速に再利用可能なロケットを作るという課題を解決しようとしている。それはとても難しい」と語った。
「誰かがやらなければならないことだ。そして、迅速かつ完全な再利用が可能であれば、その船が宇宙への入り口になる」
スターシップを軌道に乗せるためのブースターは現在製作中
SN15は、5つのスターシップ・プロトタイプのうち、一旦は無事に着陸した2番目の機体だ。もう1つは、3月上旬に無傷で着陸したものの、10分後に爆発してしまったSN10だ。スターシップの最初の2つの試作機、SN8とSN9は、高高度まで上昇した後、高速で着陸地点に墜落し、すぐに爆発した。もう1機のSN11は、着陸のためにエンジンを再点火した際に空中で爆発した。
スペースXは、3月中旬にテキサス州の工場で、スターシップ・システムの残りの部分であるスーパーヘビー・ブースターの最初のプロトタイプの組み立てを開始した。マスクによると、今回は生産テストのためのもので、次のプロトタイプが飛行する予定だという。
この打ち上げシステムの大きさを理解するために、マスクがツイッターで公開した写真の中で、ゴンドラに立っている人間を探してみてほしい。写真には写っていないが、スターシップはこのブースターの上に乗せられる。
宇宙飛行士を月に着陸させることに加えて、マスクはスターシップ・スーパーヘビー・システムを地球上での極超音速飛行に利用したいと考えている。最終的には、1000隻のスターシップを建造し、火星に人や貨物を運んで自立した居住地を作る計画だという。
マスクは、スターシップ・スーパーヘビーを再利用可能にすることで、宇宙に到達するためのコストを「100分の1以下に」削減できると述べている。スペースXが今後軌道に乗せる予定の何万個もの「スターリンク」衛星をはじめ、大型のペイロードを宇宙に運ぶことができる巨大な機体だ。
つまり、このロケットシステムはスペースXがすべてを賭けているものなのだ。しかし、このシステムが宇宙に到達するまでには、いくつかのハードルがある。
環境審査でスターシップの軌道への到達が遅れる可能性も
日本のビリオネア、前澤友作は、2023年に月の周りを1週間かけて飛行するスターシップのチケットを、自身を含めて8人分予約している。この一行が、宇宙船の最初の乗客となる予定だ。その後、NASAはスターシップが2024年に宇宙飛行士を月に送り届けることを期待しているが、NASAの報告書はその可能性は「非常に低い」と指摘している。
スペースXは、スターシップの着陸成功に加えて、スーパーヘビー・ブースターをスターシップと統合し、その2つを一緒に打ち上げる方法を学び、ブースターを着陸させることができることを示す必要がある。
また、スターシップの大気圏再突入能力をテストするために、軌道まで打ち上げる必要がある。そのためには、アメリカ連邦航空局(FAA)から新しい打ち上げライセンスを取得しなければならないが、これには環境アセスメントをはじめとする多くのハードルがある。環境アセスメントの結果次第では、スペースXが新たに評価報告書を作成しなければならない可能性もあり、それには3年ほどかかると言われている。
問題を複雑にしているのは、Insiderが入手したFAAの資料の草案で示された、スペースXがテキサス州ボカチカで天然ガスの井戸を掘り、ガス火力発電所を建設する計画だ。このような計画は、環境審査を長引かせる可能性がある。
それでもマスクは、スターシップが「2、3年後」に最初の人間を飛ばすことができると主張している。彼はまた、スペースXが2024年に無人のスターシップを火星まで飛ばし、その後の2026年に有人ミッションを行うことについても「自信がある」と述べている。
しかし彼は「私はスケジュールに関して、やや楽観的な傾向がある。それは認めなければならない」とNASAのブリーフィングで述べている。
「だから、少し大目に見てほしい。しかし、数年後に人を飛ばすことは不可能ではないと思う」
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)