データから「死にたい」を読み解く。「望まない孤独」は自己責任じゃない【あなたのいばしょ・大空幸星2】

大空幸星

撮影:伊藤圭

神奈川県では、水曜日の夜11時からいじめの相談が増える。

大空幸星(22)が理事長を務めるNPO「あなたのいばしょ」が、チャット相談のやり取りを分析した結果、こんな傾向が浮かび上がった。

原因は分からない。だが実際に相談が増える以上、

「神奈川県の小中高で、水曜日の下校時に相談窓口を紹介する、といった対策が有効ではないか」

と、大空は語る。

言語処理でワードマップ作成

10代のワードマップ

「あなたのいばしょ」が言語解析を通じて作成した、10代相談者のワードマップ。

提供:あなたのいばしょ

「あなたのいばしょ」の特徴は、相談に応じるだけでなくチャットを言語処理技術で解析し、相談者の属性や年代別に、自殺の背景を明らかにしようと試みている点だ。

チャットに出てくる単語を世代別に分かりやすく示した「ワードマップ」も作っている。10代では「親」「学校」「クラス」「先生」、20代なら「お金」「精神」「就職」などの言葉が目立つ。30代~40代では夫婦関係、シニア層は「心の病気」に関する言葉が増えるという。

「社会福祉の分野ではこれまで、当事者の体験談が政策を動かすケースが圧倒的に多かった」

と、大空は指摘する。障がい者や自死遺族、性犯罪被害者らが政治家らに実状を訴え、当事者の権利を守る法律の制定、改正などを実現させてきたからだ。

大空は生の声を反映させる重要性は認めつつも、数値化できない「ストーリー」頼みで政策がつくられてきたことに、疑問を感じてもいる。このためチャットのデータについては、個人情報を把握できないように加工した上で、公開するとしている。

「特に自治体には、地域の課題の洗い出しや、新しい自殺対策づくりに役立ててほしい」

と大空。すでに川崎市や神戸市、徳島市などと、具体的な連携を模索し始めているという。

海外相談員で24時間対応

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「あなたのいばしょ」ではチャットのデータを元に緊急度の高い相談者を判別し、優先的に対応できるシステムになっている。

Oleg Elkov / Shutterstock.com

「あなたのいばしょ」のもう一つの特徴は、国内のみならず海外13カ国にも相談員を配置し、24時間相談に応じられる体制をつくったことだ。

自殺予防を目的とした電話相談窓口の多くは、相談員の確保が難しいことなどから、深夜帯はクローズしてしまう。しかし厚生労働省の2020年の統計によると、最も自殺者数が多い時間帯は深夜0~2時(不詳を除く)で、深夜から早朝にかけての相談対応が課題となっている。

「相談が増える夜10時ごろから朝方にかけては、時差を利用して海外在住の日本人相談員にも活動してもらい、なるべく多くの相談に応じられるようにしています」

と、大空は説明する。

団体には研修中も含めて700人以上の相談員が所属し、全員がボランティアだ。エントリーしてきた人を書類選考や面接などで絞りこんでいるが、現役の医師や臨床心理士、子ども支援の関係者ら、専門家も多数参加している。HPでの告知などが中心だが、大空自身がこの1年、メディアにかなり露出したこともあり、多数の応募があったという。

チャット相談という手法はまだ始まったばかりで、「確立したノウハウやエビデンス、十分なマニュアルが存在しない」(大空)のが実状。団体独自のマニュアルや、Eラーニングによる研修システムの作成にも、専門知識を持つ相談員の協力が不可欠だったという。

息遣いや表情が伝わらない文章でのコミュニケーションには、独特のスキルも求められる。相談員が経験から得られた気づきを出し合い、「一度に送るテキストの分量を、一定の文字数にそろえる」「『?』や『!』などのマークは、相談者へ不要な圧迫感を与える懸念があるのでなるべく避ける」といった注意点を共有していった。

時には「死にたい」という悩みも寄せられる相談業務は、精神的な負荷が高い。このため相談員をサポートする仕組みも整えた。相談員の中から経験豊富なメンバーを「アドバイザー」に選び、一般の相談員が悩みを打ち明けられるようにしたほか、チャット相談中はオンライン会議ツールを常時オープンにして、受け答えに迷った時、相談員同士でアドバイスし合えるようにしているという。

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