企業が従業員をオフィスに戻そうという計画を立てているなか、人事担当者らの頭を悩ませる問題がある。チームにとって一番いい働き方モデルとはどのようなものか、という課題だ。
SpotifyやZillow(米オンライン不動産データベース運営会社)などは、従業員がどこででも仕事ができるハイブリッド型の勤務体系に力を入れている。一方、JPモルガンのジェームズ・ダイモンCEOは、10月までにすべての従業員をマスク着用のうえオフィスに戻したいと考えている。
従業員をオフィス勤務に戻す場合、企業はそのやり方に十分注意する必要がある。従業員を強制的にオフィス勤務に戻そうとすると、企業の労働力の39%が失われる可能性があることが、調査・助言を行うアメリカの会社ガートナーの最新報告で明らかになった。
しかし同社の報告によると、オフィスは残しつつ在宅勤務をするというやり方も、従業員にとっては機能していないことも明らかとなった。
ガートナーの調査では、従業員が在宅またはハイブリッド型の勤務を始めたときに失われる一貫性(継続して仕事を完成させられる環境)、可視性(いろいろなことが見えやすいこと)、セレンディピティ(思いがけない偶然や発見)に注目している。
また、オフィス勤務とのこうしたギャップを埋めようとして人事担当者やマネジメント層がよくとる戦略は、問題を悪化させている傾向があることも分かった。この点に関して、ガートナーの人事プラクティス担当ディレクター、ジェローム・マコウィアックは次のように述べている。
「組織はこれまで、自分たちが知っている知識を何とか活かして問題に対処しようとしてきましたが、オフィス勤務での方針をハイブリッド型勤務にただ当てはめるより、古い習慣はいったん捨てて、働き方について根本的なところを考え直す必要があります」
本稿ではガートナーのレポートの中から、すべての人事担当者が、従業員をオフィス勤務へ戻す決定をする前に確認すべき点について書かれた3つのスライドをピックアップして紹介する。
(出所)ガートナー
従業員は現在の労働環境に疲れ切っている。
この調査では、会議の増加、オフラインだった仕事がオンラインへ移ったこと、仕事を監視されていることなどが、従業員の疲労を増幅させる主な要因であることが分かった。
(出所)ガートナー
燃え尽き症候群は、こうした疲労の大きな原因だ。Spotify、TIAA(米大手金融サービス)、フェイスブックなどが採用しているハイブリッド型の勤務体系は、柔軟性を受け入れる未来を予感させるが、適切に運用しなければ必ずしも良い結果につながるとは限らない。
燃え尽き症候群の増加は、同じ職場に留まる意向、従業員の参画度、自発的に働く積極性、革新的な活動に悪影響を及ぼす可能性があるとガートナーは強調する。
(出所)ガートナー
会議、コラボレーション、生産性のマネジメントの仕方を構造的・戦略的に見直す必要がある、とガートナーは伝えている。
そのためには、仕事の進め方を見直し、勤務時間に柔軟性を持たせることが必要だと、この調査は述べている。このような人中心の働き方にシフトすることで、疲労を軽減し、スムーズなコラボレーションを可能にし、従業員が同じ職場に留まる意向を強めることになるだろう。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)