独バイオンテック(BioNTech)、ウグル・シャヒン最高経営責任者(CEO)。
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米製薬大手ファイザー(Pfizer)と新型コロナウイルスワクチンを共同開発したドイツのバイオンテック(BioNTech、日本ではビオンテックと呼称する場合も)が、中国での同社製ワクチンの供給開始に向けて、同国の製薬大手・上海復星医薬(シャンハイ・フォサン)と合弁会社を設立する。
オランダのANP通信など複数の海外メディアが報じた。
※地域統括本社(RHQ)について……バイオンテックは5月10日、シンガポールにアジアでの事業展開を強化するための営業・生産拠点を設立すると発表した。計画の承認を得られ次第、工場建設に着手。早ければ2023年にも稼働させるという。同社のRHQ設立は、米マサチューセッツ州ケンブリッジ(2020年)に続く2つ目。
バイオンテックは2020年3月、上海復星医薬との戦略提携に合意。中国各地での臨床試験を経て、2021年1月には香港で、同2月にはマカオで、それぞれ同社製ワクチンの緊急使用許可を受けていた。
またロイター通信(4月28日付)は、中国本土でも「早ければ7月にも」承認が得られる見通しという、バイオンテックのウグル・シャヒン最高経営責任者(CEO)のコメントを報じている。
上海復星医薬が5月9日に香港証券取引所に提出した書類によると、新たに設立される合弁会社は両社50%ずつの折半出資。
上海復星医薬は1億ドル相当の現金および現物(製造設備など)を拠出する一方、バイオンテックは1億ドル相当のmRNAワクチン製造技術とノウハウをライセンス供与する。
合弁会社の取締役は6人となる予定で、議長はバイオンテック側から選ばれる(なお、香港メディアのサウスチャイナ・モーニング・ポストによると、現場トップのゼネラルマネージャーは上海復星医薬側から選ばれる模様)。
合弁会社が中国国内で運営する製造拠点では、年間最大10億回分のワクチンを生産する計画だ。
バイオンテックがファイザーとの共同開発を通じて欧米の拠点で生産するワクチンは、2021年通期で16億回分(契約合意ベース)。上海復星医薬との合弁プロジェクトはその半分以上に相当する大規模なものになる。
中国国内のワクチン摂取状況
中国の国営製薬最大手シノファーム(Sinopharm)が供給中の新型コロナワクチン。
REUTERS/Thomas Peter
英オックスフォード大学が運営する統計情報サイト「Our World in Data」(5月8日時点)によると、中国のワクチン接種回数は約3億1700万回で、アメリカの約2億5700万回を上回っている。
しかし、人口100人当たりに換算すると、中国はわずか22回、アメリカはその4倍近い77回。中国はまだまだ大量のワクチンを必要とする状況が続くことになる。
中国では現在までのところ、同国国営製薬シノファーム(Sinopharm)と同民間製薬大手シノバック・バイオテック(Sinovac Biotech)のみが緊急使用許可を取得し、国内供給量のほぼすべてを担ってきた。
国外向けの輸出分を含めた数字ながら、シノファームが2億回分、シノバックが3億回分を出荷している。
今回、バイオンテックと上海復星医薬の合弁会社が当局からの使用許可を得られれば、外国企業としては初のケースとなる。
(文:川村力)