5月7日、記者会見での菅首相。
Hiro Komae/Pool via REUTERS
東京・大阪・兵庫・京都の4都府県での緊急事態宣言が5月末まで延長された日本。5月12日以降、愛知県と福岡県も緊急事態宣言の対象地域に加わる。
GWが明けた5月10日、東京では573人、大阪では668人の新型コロナウイルス陽性者が確認された。どちらも前週比では減少したものの、とくに人口が東京都(約1400万人)の6割強である大阪府(約900万人)では、医療体制が危機的な状況が続いていると報道されている。
現時点で唯一の好材料といえるのは、ワクチンの接種が徐々にではあるが進み始めていることだろう。
医療従事者に対するワクチンの接種が思うように進んでいなかったり、ワクチン接種の予約システムが脆弱であったりと課題は山積みだが、ワクチン接種を確実に進めていくことが、現状を大きく変える可能性を秘めた唯一の方法だといえる。
GWが明けた5月10日からは、全国の自治体で続々と高齢者に対するワクチンの接種の予約が始まっており、今後ワクチン接種の加速が期待される。
5月7日、菅義偉首相は緊急事態宣言の延長を表明した記者会見において、「1日あたり、100万回のワクチン接種を目指す」と公言した。
官邸のデータなどをもとに、日本のワクチン接種の現状と、この先どの程度ワクチン接種のペースを加速させなければならないかを考えてみよう。
5月9日時点で、全人口の2.6%が1度は接種
日本のワクチン接種数の総数(左軸)と人口あたりの接種割合(右軸)。
出所:首相官邸の公開情報をもとにFlourishを用いて編集部作成
官邸のワクチン接種実績を参照すると、5月9日までに医療従事者・高齢者に接種したワクチンの回数は合計でおよそ450万回。少なくとも1回以上接種した人の割合は、日本の人口(約1億2600万人)の約2.6%だった。
上のグラフを見ると、3月上旬、さらに4月中旬を機にワクチンの接種ペースが加速していることが分かる。
次に、1日あたりのワクチン接種回数の推移を見ていこう。
日本における1日のワクチン接種数の推移(左軸)と、人口あたりの接種割合(右軸)。
出所:首相官邸の公開情報をもとにFlourishを用いて編集部作成
高齢者のワクチン接種は4月12日から始まったが、全体として1日のワクチン接種回数が増え始めたのは4月19日頃からだ。
データを詳しく見ていくと、その要因は高齢者の接種が大きく進みはじめたからというよりも、医療従事者へのワクチン接種(=上図のオレンジ色部分)のスピードが加速したことが影響しているといえる。
5月6日のワクチン接種実績の内訳を見ると、医療従事者への接種回数が33万1914回で、高齢者への接種回数は2万2292回だった。
厚生労働省の資料を見ると、4月12日頃から医療従事者向けのワクチンの供給量が大幅に増加しており、5月10日の週内には全国の医療従事者約480万人分向けのワクチン供給が完了する見込みとなっている。
そう考えると、全国の高齢者(約3500万人)へのワクチン供給が本格化するのは、5月10日の週以降となる。
高齢者向けのワクチン接種が開始された4月12日の週に全国配布されたワクチンの数は、たった500箱(約50万回分)だったが、5月10日、17日の週では合計1万6000箱(約1900万回分)のワクチンが供給される見込みだ。
以降、毎週1万3000箱(約1500万回)のワクチンが供給される見通しとなっている。
5月9日時点でワクチンを1回でも接種した高齢者の数は約33万人。
これまでの2カ月で少なくともワクチンを1回接種した人の数が約300万人(2回接種した人もいるため、接種回数と人数は一致しない)ということを考えると、同じペースで接種が進んだ場合、高齢者約3500万人に接種が完了するまでに2年近くかかる計算だ。
菅首相の宣言通りに1日100万回のワクチン接種を実現できたとしても、残りの高齢者全員に最低1度でもワクチンを接種するには1カ月以上はかかる。
7月末までに高齢者への接種を完了するためにも、ワクチン供給が大きく加速するこの先数週間で、接種がどの程度加速するのかが注目される。
イスラエルでは100万人あたりの陽性者数の平均が「5.6人」
イスラエルで少なくとも1度はワクチンを接種した人の割合。
出典:Our World In Data
新型コロナウイルスに関するデータをまとめている、Our World in Dataを見ると、ワクチン接種における先進国といえるイスラエルでは、5月9日の段階で人口の62%が少なくとも1度目のワクチン接種が完了している。
また、5月9日段階でイスラエルで確認された100万人あたりの陽性者の7日間平均は、わずか5.6人。イスラエルの人口は大阪府とほぼ同じ約900万人だ(大阪の100万人あたりの陽性者数の7日間平均は95.1人、5月10日時点)。
イスラエルで確認された陽性者数の7日間平均。4月以降も減少を続けている。
出典:Our World In Data
イスラエルの感染者数の少なさは、春に厳しいロックダウンを実施していたことも影響していると推察される。
必ずしもすべてがワクチンの効果とは言えないかもしれないが、経済活動を段階的に緩和している現時点でも顕著な感染者数の増加に転じていない点は、この先世界でワクチン接種を進めていく上でポジティブな意味合いを持つ先行例といえる。
(文・三ツ村崇志)