米ソリッドパワー(Solid Power)が2020年12月に発表した容量20Ah(アンペア時)の全固体電池セル。
Solid Power
世界中の自動車メーカーがこれから数年かけてたくさんの新型電気自動車(EV)を市場投入する。
既存の電池メーカーやスタートアップは、EV購入者の満足度を高め、なおかつ十分な収益を得られるよう、より大容量で長寿命、しかも手ごろな価格の車載電池を開発しようと取り組んでいる。
韓国のLG化学や日本のパナソニックといった大手電池メーカーに加え、いくつかのスタートアップが、現時点で大きなシェアを占める従来型のリチウムイオン電池に代わる新たな動力源となるソリューションを生みだすことで、市場の要請に応えようとしている。
そんななか、米電池スタートアップのソリッドパワー(Solid Power)が、米フォード、独BMW、ボルタ・エナジー・テクノロジーズ(Volta Energy Technologies)から1億3000万ドル(約140億円、シリーズBラウンド)を調達したと発表した。
フォードとBMWはソリッドパワーに取締役を派遣し、車載電池の共同開発を進めるという。
ソリッドパワーでサプライチェーン開発を担当するディーン・フランケルは2021年2月の取材時、従来のリチウムイオン電池に比べて、(電解液を使用しない)全固体電池はエネルギー密度と安全性の点で優れていると語っている。
米ソリッドパワー(Solid Power)が2020年10月に発表した、10層・容量2Ah(アンペア時)全固体電池セルの紹介ムービー。
Solid Power YouTube Official Channel
同社は2020年第2四半期(4〜6月)、現行のEV車種に搭載されているリチウムイオン電池より15〜20%高い出力を得られる全固体電池セルの販売を開始した。
この高いエネルギー保持力は、負極(アノード)によるところが大きい。一般的なリチウムイオン電池で使われている黒鉛(グラファイト)の負極材を金属リチウムに置き換えることで、電池容量を10倍にできるという。
ただし、全固体電池については、独フォルクスワーゲングループが支援する米クアンタムスケープ(QuantumScape)や、米ゼネラル・モーターズなどが出資するソリッドエナジー・システムズ(SolidEnergy Systems、SES)など、他の電池スタートアップも技術開発を進めており、競争は激化しつつある。
「『固体電池』という言葉をよく耳にするようになった。しかし技術を精査してみると、電解液がまだ一部使われているものが目につく。そうした他社製品との差別化を図るため、我々ソリッドパワーは電解液を一切使わない『全固体』のブランドを打ち出した」(フランケル)
また、ソリッドパワーは電池の製造方法も特徴的だ。既存の(リチウムイオン電池)製造設備を用途変更して使えるように、従来の電解質を使う電池と全固体電池をほぼ共通のプロセスで製造しており、「変更箇所はごくわずか」(フランケル)にとどまる。
この製造手法は同時に、現時点で従来型のリチウムイオン電池を採用している自動車メーカーにとって、近い将来の全固体電池への切り替えが容易に実現されることを意味している。
そしてそれはとりもなおさず、電池スタートアップが大手自動車メーカーを顧客リストに加え、次なる台風の目になる未来を示唆してもいる。
(翻訳・編集:川村力)