エアバスA350-1000(XWB)のコックピット。
Thomas Pallini/Business Insider
- ハネウェル・エアロスペースの研究者とエンジニアは、音声で操作できる航空機システムの開発に取り組んでいる。
- パイロットが指示を出し、バーチャルアシスタントにタスクを実行させることで、パイロットの負担を軽減させることができる。
- 「航空機の完全自律飛行」に向けた新たな一歩であり、専門家は2050年までに実用化されると予測している。
「ヘイSiri、ロサンゼルスまで」
音声制御技術は絶え間ない進化を続け、今ではアップル(Apple)のSiriやアマゾン(Amazon)のアレクサ(Alexa)が消費者の日常生活に溶け込んでいる。それと同じように、ある企業は航空機に音声制御を取り入れようとしている。
ハネウェル・エアロスペース(Honeywell Aerospace)のエンジニアと研究者は現在、パイロットが音声コマンドで飛行機を操縦できるシステムの開発に取り組んでいる。
コックピット内の自動化をさらに進め、パイロットの負担を軽減しようという試みだ。無線周波数を合わせたり、ある方位へ旋回したりといった簡単な指示をパイロットが音声で行えるようになるだけでなく、天候調査などの面倒で時間のかかる作業に費やす時間を減らすこともできる。
ハネウェル・エアロスペースのアビオニクス(航空電子機器)担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるヴィプル・グプタ(Vipul Gupta)はInsiderに、「(ノースカロライナ州)シャーロットの天候と、ルート上の重要な天候を教えて」などの音声コマンドが、パイロットの負担軽減につながると語った。
「パイロットの代わりにシステムが調べて、情報を自動的に表示してくれる」
グプタはこれを、人々がSiriに天気を尋ねたり、自分でコンピューターで何かを調べる代わりにバーチャルアシスタントを使って時間を節約するのと同じだと話す。ハネウェルは、パイロットが日常生活で使っている技術を、コックピットでも使えるようにしようとしているのだ。
スマートフォンと同様のタッチスクリーン技術は、ガルフストリーム(Gulfstream)のG500やG700などのビジネスジェットではすでに一般的になっている。ハネウェルの「Primus Epic」コックピットを搭載したガルフストリームの「Symmetry」フライトデッキでは、計器パネルや従来のフライトコンピューターのディスプレイに代わって、タッチスクリーンが多用されている。
ガルフストリームの「Symmetry」コックピット。
Honeywell Aerospace/Gulfstream
タッチスクリーン技術は、宇宙飛行にも採用されている。スペースX(SpaceX)の宇宙船クルー・ドラゴン(Crew Dragon)が、ダグラス・ハーリー(Douglas Hurley)とロバート・ベンケン(Robert Behnken)両宇宙飛行士を宇宙に送り出した際にも使われていた。消費者は、タッチスクリーン式のスマートフォンに慣れたのと同じように、音声コントロールにも慣れつつある。音声制御は近いうちにパイロットが利用するツールになるだろう。
グプタは音声コントロールについて、「アレクサは我々の生活に、第3のコントロール手段をもたらした」と述べている。
音声認識の精度と応答速度を高める
音声制御された航空機が実際に空を飛ぶ前に、ハネウェルはシステムに数多ある専門用語を覚えさせなければならない。「ZULAB(ニューヨーク州にある航空路上のウェイポイント[通過点]のひとつ)まで180ノットを維持。ILS 31Lアプローチを飛行(ILS=Instrument Landing System[計器着陸装置]、31LはJFK空港の滑走路の1つ)」と航空機に指示することは、ニューヨークの来週の天気を尋ねるよりもやや難しい。
「最終的な目標は、自然言語処理によるコンテキスト(文脈)理解を取り入れて処理を行うことで、コックピットに価値を提供することだ」とグプタ氏は話す。
しかし、Siriやアレクサと違って、航空機には瞬時のレスポンスが求められる。パイロットは、システムがコマンドを認識し、理解し、実行するまで何分も待つことはできない。困難な条件下での飛行中は特にそうだ。
エンジニアたちは、システムがパイロットよりも速く反応できるように、応答時間を250ミリ秒に短縮した。また、ウェアラブルデバイスを使用してパイロットの状態をモニタリングすることで、パイロットが飛行中に十分に注意力を保っているか、フライトデッキで油断していないかを確認することもできる。
また、アリゾナ州ディアバレーにあるハネウェルの施設には、さまざまな方言やアクセント、話し方をするボランティアが集まり、サウンドブースで何百もの想定されるコマンドを録音している。録音する際には、実際のコックピット内の物音を再現した音が背景に流れている。
さらに、この技術はフルモーション・シミュレーターでテストされ、パイロットは乱気流を含むさまざまな飛行条件下で技術を試すことができる。研究者はこのテストで、この技術がパイロットの疲労レベルにどのような影響を与えるか、また、実際にパイロットの負担を軽減するのに役立っているのかについて、データを収集している。
Insiderは、先ごろハネウェルを訪問した際に、この技術のベーシック版のデモを体験したが、驚くほど直感的に操作でき、反応も速かった。
アリゾナ州ディアバレーのハネウェル・エアロスペースにあるシミュレーター。
Thomas Pallini/Insider
音声制御技術が最初に導入されるのは、アーバン・エア・モビリティー(都市航空交通:UAM)機と一般航空(General aviation:軍事航空と定期航空路線を除いた航空の総称)になるだろう。バーチャルアシスタントが作業負荷を軽減してくれるため、シングルパイロットの航空機には理想的だ。
また、電動垂直離着陸機(eVTOL)も非常に多くのパイロットが必要になることから、自動化が進められるだろう。ハネウェルは、eVTOLを操縦するのは従来のパイロットではなく、訓練を受けた「オペレーター」であり、そのためには簡略化されたシステムが必要になると考えている。
「世界中でUAM市場が拡大しており、今後はパイロットが足りなくなる」とグプタは言う。
「現在、旅客機とビジネスジェット、UAM機のすべてを操縦できるパイロットはそれほど多くなく、今後も増えることはないだろう」
ジョビー・アビエーション(Joby Aviation)やベータ・テクノロジーズ(Beta Technologies)など、ほとんどのeVTOL事業者は運航の自動化を目指しており、音声制御システムはその選択肢の一つになる。ただし、指示を出すのはパイロットではなく、乗客になるだろう。
「最終的には、音声アシスタントが導入されると、(座席に)座った乗客が『ヘイ、あそこへ飛んで』『あそこまでに連れて行って』と指示を出すだけになるだろう」とグプタは言う。
航空機で進む自動化を一般の人々に受け入れてもらうことは、航空機の完全自律飛行化に向けた段階的なプロセスのひとつだ。
「音声コントロールは第一歩であり、基礎となるレンガだ。そこから発展させていく」とグプタは述べている。
(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:Toshihiko Inoue)