ソフトバンクの宮川潤一社長は、社長就任後初めての決算説明会に臨んだ。
撮影:小林優多郎
ソフトバンクは5月11日、2020年度の本決算を発表した。
携帯電話料金値下げの波やコロナ禍の長期化など先行きが不透明な中ではあったが、売上高は前期比7%増の5兆2055億円、営業利益は同6%増の9708億円の増収増益となった。
4月1日からソフトバンクの社長に就任した宮川潤一氏は、5月11日に開催された決算説明会で「法人(向け事業)が大幅増益」と2020年度の好調要因をあげた上で、2021年度通期予想や新事業の方針を語った。
通信事業の成長にはやや悲観的
2021年度の業績予想。
撮影:小林優多郎
ソフトバンクは2021年度の業績予想として、以下の数値を示した(括弧内は2020年度比)。
- 売上高:5兆5000億円(6%増)
- 営業利益:9750億円(0.4%増)
- 純利益:5000億円(2%増)
今期の成長率に比べると、順当もしくはやや保守的な印象を受ける。とくに営業利益に関してはほぼ横ばいの予想だ。
営業利益の増減要因。
撮影:小林優多郎
決算説明会資料によると、営業利益の増減の内訳は、携帯電話料金値下げの影響とLINE統合に伴う無形資産の償却などで1000億円超のマイナスを計上。その減少分をモバイル契約数増加、法人事業とヤフー事業の増益、コスト削減などでカバーする計算だ。
宮川氏は1000億円の減少要因について「携帯電話が年間700億円ぐらいの値下げインパクト。LINEの償却は300億円ぐらいの見込み」と話し、携帯電話事業については「さらに悪くなる可能性もある」と厳しい見方を示している。
なお、ソフトバンクは3月にオンライン専用プラン「LINEMO(ラインモ)」を提供開始。ソフトバンクやワイモバイルからLINEMOへの変更は収益悪化の一因とも言えるが「見込み通り」とし、「(具体的な契約数は)タイミングが出たらお話しする」と話した。
LINE統合で法人強化、“PayPayまわり”の新規事業に期待を示すが…
2020年度、ソフトバンクの法人事業は非常に好調だった。
撮影:小林優多郎
宮川氏は社長就任発表時の「増収増益にこだわる」という発言を自ら振り返り、「初年度からくずすわけにはいかない」と通信事業のマイナスをカバーする領域として法人事業およびPayPay経済圏まわりの金融事業に期待を寄せた。
法人事業については、2020年度に営業利益が1077億円、前期比で29%増となる成長をとげた。コロナ禍におけるリモートワークやDX(デジタルトランスフォーメーション)の需要増が大きく影響した。
2021年度は、Zホールディングス(旧ヤフー)とLINEの経営統合完了を受け、ソフトバンクとPayPayを含めた4つのブランドの会員基盤を生かしたソリューションの開発・提供を進めていくとしている。
グループ内のアセットを最大限活用して、新事業の垂直立ち上げをしていくと語る宮川氏。
撮影:小林優多郎
また、新規事業の開拓も宮川氏が新社長として推進したいポイントだ。質疑応答で注力領域を聞かれた宮川氏は「PayPayまわりはいま一番立ち上げやすい。銀行系、証券系、組み合わせられるもの」と回答した。
実際、今回から従来発表していなかったPayPayの決済取扱高(GMV)を開示。2019年度は約1.2兆円だったのに対し、2020年度は3.2兆円(前年比2.6倍)だった。
宮川氏は「今年も十分伸びている」として、今後の成長と収益化へのスピードについては明るいとの見方を示した。
宮川潤一社長。
撮影:小林優多郎
ただし、決算会見ではとくに触れられなかったが、LINEは個人情報の取り扱いについて4月23日に個人情報保護委員会から、4月26日には総務省から指導を受けている。
また、3月1日に発表した「PayPay加盟店向けQRコードのLINE Pay利用」も、当初「4月下旬以降」としていたが、5月11日時点でとくにユーザーや加盟店向けにアナウンスがないことから、進捗は芳しくない模様だ。
宮川氏が描くLINEやPayPayを活用した事業戦略が、これから順風満帆に展開されていくのか、今後の動きに注目だ。
(文、撮影・小林優多郎)