米ペンシルベニア州ピッツバーグに本拠を置くアルゴ(Argo)AIは、自社開発のライダー(LiDAR)が完成、市場投入が決まったことを明らかにした。
Argo AI
2017年、自動運転分野の有望スタートアップとして知られるアルゴ(Argo)AIの最高経営責任者(CEO)ブライアン・サレスキーは、ライダー(LiDAR)開発を手がけるスタートアップの多くは実証前のコンセプト、アイデア段階にとどまっているとみていた。
当時のライダー市場は未成熟で、ある企業の存在だけが際立っていた。その企業の名は、プリンストン・ライトウェーブ(Princeton Lightwave)。すでに動作するプロトタイプ(試作機)を完成させていた。
それから4年。プリンストンは買収されたが、プロトタイプはついに日の目を見ることになる。
アルゴAIは5月4日、プリンストン・ライトウェーブの開発したプロトタイプを4年かけて改良、「アルゴ・ライダー(Argo LiDAR)」へと改称し、2022年から商用運行予定の自動運転車に搭載することが決まったと発表した。
ライダー開発を手がける他の競合企業と同様、アルゴAIも技術的ブレークスルーの実現を確信している模様だ。
「自動運転車による配送・配車サービスを実現する上で、ほとんどの競合他社が乗り越えられない壁と感じていた限界を、当社は『アルゴ・ライダー』の製品化を通じて克服した」(アルゴAIのプレスリリース)
ライダーは「Light Detection And Ranging(光による検知と測距)」の頭文字をとった言葉。車体の周囲にレーザー光を照射し、物体に当たってはね返ってくるまでの時間を計測することで、物体までの距離や方向を測定する技術を指す。
自動運転システムを開発する企業の大半は(テスラがその例外であることは有名な事実だが)、車体の周囲の状況を把握する上でライダーは不可欠なツールと考えている。
プリンストン・ライトウェーブのプロトタイプは、その時点でアルゴAIのサレスキーCEOにとって魅力的なものに映ったが、商用化に向けて開発を先に進めるためには多額の資金に加え、自動運転車向けにライダーを最適化していくための伴走が必要だった。
そして、アルゴAIはその両方を提供し、2017年にプリンストン・ライトウェーブを買収した。
「アルゴAIとプリンストン、それぞれが持つ能力(とその可能性)の組み合わせは、最高に相性がいい」
そう語るサレスキーCEOは、アルゴ・ライダーが「検知範囲」「精度」「解像度」という3つの点で競合他社よりも優れていると強調する。
ただ、あらゆる条件下で検知範囲がトップレベルかと言うと、必ずしもそうとは限らない。
サレスキーは、400メートル以上離れた物体を検知できるとInsiderに語ったが、アルゴAIのプレスリリースには「最大検知距離」400メートルと書かれている。
他社の例を見てみると、有力競合スタートアップのルミナー・テクノロジーズ(Luminar Technologies)によれば、同社開発のライダーは最大検知範囲500メートルながら、反射率が低い物体(例えばダンボール箱など)の場合、検知能力が半分程度になるという。
しかし、アルゴAIのシニアディレクター(ハードウェア・ファームウェア担当)ザック・リトルは5月4日付のブログ記事で、反射率の低さはアルゴ・ライダーにとってさほど大きな問題にはならないと書いている。
その理由は、アルゴ・ライダーが物体を検知する際にはわずかな反射光があれば十分だからだ。リトルは同記事で、以下のように強調している。
「アルゴAIが開発した画期的な『ガイガーモード』技術(=放射性物質を検知するガイガーカウンターにちなんでこう命名された)技術により、計測可能な光の最小単位である1フォトン(光子)も検知できる」
「1光子を検知可能なアルゴ・ライダーは、自動運転車に使われる他社製のライダーと比べて、反射率が1%以下と低くなる黒い塗装の車でも、2倍遠くまで検知できる」
アルゴAIは、自動運転車が走行する環境として最も厳しいエリアとされるフロリダ州マイアミ、テキサス州オースティン、首都ワシントンなど6都市でテストを行い、難しい地形に対応できるよう自動運転システムのアップデートを進めてきた。
そして近く、試験走行フェーズから商業運行フェーズへの移行が始まる。米フォードとは、共同で2022年末までに自動運転による配車・配送サービスをローンチさせる。
なお、フォードと独フォルクスワーゲンはそれぞれ26億ドル(約2800億円)を投じ、アルゴAIの発行済み株式の8割を保有している。現時点で評価額は75億ドル(約8100億円)とされる。
(翻訳・編集:川村力)