コロナ禍のいま、地方局は何ができるか。「水曜どうでしょう」のHTBが問い続ける“存在意義”とは。

イチモニ!劇場では、視聴者から寄せられた1枚の写真をもとにショートストーリーを編む。左はHTBのマスコット「onちゃん」。「水曜どうでしょう」では過去にTEAM NACSの安田顕さんが「中の人」として演じた。

イチモニ!劇場では、視聴者から寄せられた1枚の写真をもとにショートストーリーを編む。左はHTBのマスコット「onちゃん」。「水曜どうでしょう」では過去にTEAM NACSの安田顕さんが「中の人」として演じた。

イチモニ!劇場/HTB北海道テレビYouTubeチャンネル

新型コロナ禍の今、地方のローカルテレビ局が自らの存在意義を問い続けている。『水曜どうでしょう』で知られるHTB(北海道テレビ放送)も、その一つだ。

朝の人気情報番組『イチモニ!』(月~金・あさ6:00~8:00、土・あさ6:30~8:00/9:30~10:40)では新しい挑戦も始めた。視聴者がこれまでに撮影した“暮らしの一コマ”を募集し、楽曲とともにつづる映像やショートドラマに仕立てている。「あなたの写真にはドラマがある」がコンセプトだ。

視聴者から寄せられた数々の写真。そこに写っていたのは、家族みんなで祖父母の長寿を祝う誕生会、学校の遠足に向かう我が子の背中……。コロナ禍の今となってはなかなか見られない光景ばかりだった。

番組チーフプロデューサーの伊藤伸太郎さんは、こう語る。

「パートナーや家族との愛、隣人への思いやり……。日々の暮らしには、生きていく上で大切なことがあります。コロナ禍で“つながり”が絶たれる中、朝の数分間だけでもそんなメッセージを伝えられたら…」

いま、地元に根ざすローカル局にできることは——。模索し続ける伊藤プロデューサーに話を聞いた(以下、談話)。


常に問い続ける「東京キー局」と「地方ローカル局」の違い

「イチモニ!」お天気コーナー。道内の天気や通勤・通学時の注意点をイラストで説明する。

「イチモニ!」お天気コーナー。道内の天気や通勤・通学時の注意点をイラストで説明する。

イチモニ!お天気コーナー/HTB・アクトビラ

『イチモニ!』は毎週月~土に放送している朝の情報番組です。私が所属するHTBの社会情報部が制作しています。

報道部とは違い、生活や暮らしに関わる情報をどうやって視聴者の皆さんの目線に落とし込めるかを意識しながら番組をつくっています。

コロナ禍でステイホームが進む中、おうちで番組を見た時にほっこりしてもらえたり、会話のきっかけになる企画も試行錯誤しています。

最近の企画で反響をいただいたのは「イチモニ!牛乳ヒゲスマイル選手権」ですね。牛乳を飲んだ時、口の周りにできる「白いヒゲ」の写真を募集し、投票で最優秀賞を決める企画です。

おうち時間が少しでも明るく、元気になればと発案したものですが、それだけではありません。北海道は牛乳の特産地ですが、緊急事態宣言などで給食がなくなり需要が低下。牛乳の消費は大きく落ち込みました。地元の農家さんを応援したいという思いもありました。

今回のショートドラマにもつながりますが、東京の情報番組と地方のローカル局の情報番組の違いは何かを常に考えています。

東京のキー局では「誰に届けている」のか、なかなか見えにくいと思うのですが、地方のローカル局にとって情報の届け先は地元の方。「この情報を、誰に届けるのか」を、はっきり明確に意識しています。

天気予報ひとつとってもそうです。北海道は四季がはっきりしていて、1日の天気の変化も激しい。傘を持っていくべきか、どんな服装で出かけたらよいか、長靴は必要かなど、具体的な情報も盛り込みます。

ローカル局と視聴者は「顔」が見える関係。

HTB東京支社の入口。ぎゅうぎゅう詰めになったHTBのマスコットキャラクター・onちゃんが来訪者を迎える。

HTB東京支社の入口。ぎゅうぎゅう詰めになったHTBのマスコットキャラクター・onちゃんが来訪者を迎える。

撮影:今村拓馬

生活目線の企画や放送の反響はダイレクトに伝わってきます。スタッフにとって、視聴者さんは「顔」が見える関係です。

たとえば、私の自宅の隣のお家の方は『イチモニ!』の視聴者さんです。妻のお友だちも『イチモニ!』を見てくれています。ご意見フォームにも番組への感想がアプリを通して寄せられています。

もちろん、距離が近いからこそ、時に厳しい意見や辛らつな批判もいただきます。番組が内輪ウケに走ったら「自分たちだけで盛り上がってる」と。

でも、忌憚(きたん)ない意見が聞けるのはありがたいです。ヒリヒリしますが、やりがいがあり、面白いですよね。

情報を正確に伝達することは当然として、地域の人たちに寄り添い、皆さんの生活になくてはならないものになり得るか。目指すところが明確ですし、そういった存在でありたいと思っています。

愛や信頼、思いやり…コロナ禍だからこそ伝えたい「大切なこと」

イチモニ!劇場では、視聴者から寄せられた1枚の写真をもとに、ショートストーリーを編む。

イチモニ!劇場では、視聴者から寄せられた1枚の写真をもとに、ショートストーリーを編む。

イチモニ!劇場/HTB北海道テレビYouTubeチャンネル

そこで発案されたのが今回のショートドラマ企画でした。今回の企画には、秋元康さんが脚本・ドラマ楽曲でも参加してくださいました。秋元さんサイドからも、ショートドラマを朝の番組で放送してみませんかとお話をいただきました。

ニュースやスポーツ、エンタメの情報などを客観的な情報として伝えることは、メディアとしてとても大切です。

一方で、ドラマのような「フィクション」作品でしか伝えられないこともあると思います。

パートナーや家族との愛や信頼、隣人への思いやりなど、毎日の暮らしの中には生きていく上で「大切なこと」があります。

特にコロナ禍で人とのつながりが絶たれ、普段の生活ができない今の時代です。そうした「大切なこと」を朝の数分間だけでも、ショートドラマ形式で伝えることができればと……。

そこで、視聴者の皆さんからこれまでの人生の中で撮影した思い出のある「一コマ」を募集し、その写真をもとにドラマを制作することにしました。

長寿のお祝い、林間学校…コロナ禍で失われた「当たり前」を痛感

イチモニ!劇場/HTB北海道テレビYouTubeチャンネル

寄せられた写真の多くが、やはりコロナ前の写真でした。おじいちゃん、おばあちゃんの長寿のお祝い、子ども同士が遊ぶ光景、初めて泊まりの林間学校に向かう我が子の姿も……。

誰しもが今まで人生の節目で経験したこと、学校生活で経験した行事などが、この1年で全くできなくなってしまったんですね。ほんの数年前は当たり前だった風景が、とても貴重で、大切な瞬間だったんだなと改めて感じました。

私たちが暮らしていた日常は、かけがえのないものだったんだと痛感させられました。

皆さんからいただいた写真を一枚、一枚眺めながら、カメラのシャッターが押された瞬間のことを勝手に想像しました。
きっと、これを撮影したのは家族の誰々で、こんな声をかけながらシャッターを切ったんだろうとか、それぞれのしあわせな声が聴こえてくるようでした。
ふと思ったんです。
みんな、一番近くの大切な人に、ちゃんと言ってるかなあ、『いつもありがとう』って・・・。
その時、僕の頭の中でこんな歌を作ろうという方向性が決まりました。
(秋元康氏のコメント)

時代は変わった——。だからこそ、「誰に、何を届けるのか」を明確に。

「イチモニ!」の番組ポスター。

「イチモニ!」の番組ポスター。

撮影:今村拓馬

いま、1台のテレビを囲んで、家族そろって同じ番組を見ることは少なくなりました。視聴率を分析していても、それはよくわかります。

ただ朝の時間帯というのは、家族がそれぞれ身支度をしながら朝ごはんを食べたり、そろってテレビを見る時間が残っている数少ない時間帯でもあります。コロナ禍でテレビを見る方も増えてきました。

コロナ禍でメディアも広告が落ち込み、当社の売り上げも厳しいものがあります。ただ、各番組の広告媒体としての価値は決して下がっているわけではないと思います。

「誰に、何を届けるのか」が明確な番組であることも、視聴者さんに信頼していただけたり、支持していただける理由になっていると思います。

地方ローカル局の一番組の中のショートドラマという、本当に小さな試みです。放送したドラマはHTBの公式YouTubeチャンネルや Twitter、TikTokなどSNSでもアーカイブとして残すことにしています。

ほんの1分〜1分半と、とても短いVTRです。でも、そこから会話が生まれたり、離れて暮らすご家族やご友人との会話のきっかけになったり、思いが通じたりすれば……と思っています。

(取材、文・吉川慧


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