NTTは2020年通期決算を発表した。
REUTERS/Denis Balibouse
NTTは5月12日、2020年度連結決算を発表。最終益は9162億円(前年比7.1%増)だった。営業収益(売上高に相当)が同0.4%増、営業利益は同7%増で、営業収益と当期利益は過去最高を更新した。
内訳としては、コロナ禍の中で海外売上高が減少し、NTTドコモの端末販売も減少する中で、ドコモのスマートライフ領域や国内のシステムインテグレーション事業などの増収で、マイナス要因をカバーした形だ。
100万契約突破の“ahamoショック”の影響は?
NTTドコモの井伊基之社長。
出典:NTT
伸びた領域、後退した領域の双方を抱えるドコモだが、「成長の要」(ドコモ井伊基之社長)である金融・決済事業をはじめとしたスマートライフ領域をさらに強化する。
また、月間20GBのオンライン専用プラン「ahamo(アハモ)」を成長させることで顧客基盤を拡大し、端末販売の拡大やコンテンツなどの利用促進につなげたい考えだ。
月額2970円(税込)のahamo。
撮影:小林優多郎
ahamoは、事前申し込みで250万エントリーを超え、3月26日のサービス開始以降に実際に契約した契約数は、4月末で100万を突破。税込で3000円を切る価格で20GBの月間データ容量と1回あたり5分間の無料通話が含まれるプランとして、ユーザー数を順調に伸ばしている。
「既存のドコモ契約者の移行の方が多い」(井伊社長)ものの、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなどからのMNP※1による移行もあり、いったん他社に流出した元ドコモユーザーが再契約する例もあって、「期待通り戻ってきてくれた人も一定程度いる」(同)という。
※1 MNPとは:
Mobile Number Portability(携帯電話番号ポータビリティー)の略称で、携帯電話番号を維持したまま、他社へ移行できる制度のこと。
ahamoは100万契約を突破した。
出典:NTTドコモ
また、ドコモ内での移行では従量制のギガライトでデータ容量が足りなかった人がahamoに切り替えたり、ギガホが過剰だった人がahamoにダウングレードしたりと、「ニーズに合った料金プランへのリバランスが起きた」(同)という。
今まで20GB程度の中容量プランがなかったことで流出したユーザーが戻ってきたことで、4月のMNPはプラスになったという。「(他社流出による)マイナス癖が付いていたのが元に戻せた。ただ、まだ楽観視はできない」と井伊社長。
4月にはさらに大容量の新料金プランとして「ギガホ プレミア」を提供開始。大容量プランの値下げになったことで、今期の減収要因となる。それに対してドコモは、5Gの契約数を2021年度末には1000万契約まで拡大して、データ利用増による収益増を狙う。
5Gエリア拡大と効率化を急ぐ。
出典:NTTドコモ
さらに、ネットワークも2021年度中には5Gの真の実力を発揮できるSA(Stand Alone)のサービスを開始。4Gの設備投資効率化、3G契約者のマイグレーション(移行)も加速させることでコストを抑制、減収をカバーする。
その他の減収要因としては、MVNO※2向けの音声卸、データ接続料金値下げもある。こうしたことから、今後は好調な非通信分野であるスマートライフ領域や法人事業での増収増益を図る考えだ。
※2 MVNOとは:
自社で通信設備を持たず、MNOから借り受け事業を展開する仮想移動体通信事業者(Mobile Virtual Network Operator)のこと。格安SIM事業者などと表記される場合もある。
三菱UFJとの提携で「非通信領域の成長」狙う、dポ経済圏の拡大へ
金融・決済領域の現状。
出典:NTTドコモ
金融・決済では、「dカード」の取扱高は1兆円強の増加で5兆2500億円に達した。
若年層獲得に向けたプロモーションなどが奏功した形で、コード決済の「d払い」は日常づかいの利用促進や加盟店開拓を強化したことで、取扱高は2倍強の8100億円となった。
この決済を起点とした顧客基盤の強化、事業領域の拡大を図る一環として、三菱UFJ銀行と提携し、デジタル口座サービスを提供する(5月11日にリリース)。
ここで重要となるのがdポイントとの連携だ。dポイント会員数は8195万に達しており、非通信分野での顧客基盤と顧客接点に加え、データの利活用での事業拡大も狙う。
取扱高拡大とともに、新たなサービスを展開する。
出典:NTTドコモ
ドコモでは他にみずほ銀行とも提携しているが、「それぞれバッティングしない領域で、上手に複数の銀行と組んで、うまく価値が高まるようにする」(井伊社長)という。
同社では、ahamoに続いてさらに低廉な料金プランとして「エコノミー」と位置づけるプランも今後提供予定だが、これはMVNO側が提供するサービスをドコモのチャネルで販売するほか、dポイント連携を進める。
これによってMVNO利用者もドコモの顧客基盤として取り込みたい考えだ。
なお、「エコノミー」の提供では複数のMVNO事業者と検討中だが、dポイント連携の部分の条件設定で調整に時間がかかっているとする。
曲がり角にきた「リアル店舗運営」、収益構造の立て直し急務
NTTドコモの決算内容。
出典:NTTドコモ
こうした顧客基盤の重要な接点としては、ドコモショップなどのリアル店舗もあるが、ahamoのようにオンライン専用プランも増え、手数料収入に頼るショップの運営が難しくなってきている。
井伊社長は、「デジタル化は時代の流れ」として、ショップでも業務のデジタル化で対応時間を短くするなどの認識に立ってもらって効率化を図るとともに、「世の中のICT化、デジタル化のサポートを有償でやる」(同)ような新たなビジネス展開を進める意向だ。
顧客接点のデジタル化を進める意向のNTTドコモ。
出典:NTTドコモ
ドコモは、ahamoはオンライン専用としつつ、有償ながらショップサポートの提供も開始している。
井伊社長によると、「お客様のデジタル化への移行を無視して、できない人は契約しなくていいという考え方は良くないのでは」という考えになり、ショップでのサポートを提供する形にした。
ただし、オンライン限定のコンセプトは変えず、ショップスタッフが代わりに契約するのではなく、あくまで自分自身で契約してもらい、それをサポートするという位置づけになる。
こうしてデジタル化に不慣れな人が経験を積み重ねることで、「今後のドコモの色々なサービスのデジタル化に柔軟に対応してもらえる、その入口になるのでは」という考えで有償サポートを提供しているという。
中長期的には、これを町の小さな商店、中小企業のデジタル化などに拡大し、ショップがデジタル化のサポートを提供するサービスにつなげていく考え。
NTTの澤田純社長。
出典:NTT
2021年期は、ahamo、大容量の新料金プランなどの値下げが収益へのインパクトとなる。「値下げ」による影響額は明言されなかったが、「かなりしっかりある」(井伊社長)という認識だ。
NTTは、「当期利益で初の1兆円超えを目指す」と澤田純社長が強調。ドコモの減収要因を踏まえて、澤田社長はスマートライフ領域による増収を期待しており、完全子会社化したドコモへのプレッシャーは強まりそうだ。
小山安博:ネットニュース編集部で編集者兼記者、デスクを経て2005年6月から独立して現在に至る。専門はセキュリティ、デジカメ、携帯電話など。発表会取材、インタビュー取材、海外取材、製品レビューまで幅広く手がける。