Kim Hong-Ji/Reuters
- 小売業界を去る人々が増えている。他業界で採用が増えていることも追い風となっている。
- サービス業界の低賃金は、要求の多い客に見合わないと語る人たちもいる。
- 商品管理やその他の仕事へ移った人たちもいる。
低賃金と扱いが面倒な客から解放されようと、アメリカでは小売業界や飲食業界を去る人たちが増えている。他業界で採用が増えていることも、新たな職種に移る追い風となっている。
新型コロナウイルス対策の規制が緩和され、経済活動が徐々に再開する中、レストランや店は人員を増やして、通常営業に戻ろうとしている。多くの企業にとって、採用は簡単ではない。募集をかけても人が集まらないという。そして、小売店や飲食店は、転職を望む従業員を思いとどまらせようと必死だ。これが業界の人手不足をさらに悪化させている。
募集をかけても人が集まらず、多くの従業員が転職先を探している中、スターバックスではどのようにして人員を確保しているのか、Insiderは各地の店舗で働く複数のスタッフに話を聞いた。
今もスターバックスで働いている人の中には、よりよい仕事を探そうとする中で、スターバックスの手当が縛りになっていると話す人もいる。ジョージア州アトランタにあるスターバックスのシフト責任者は、この仕事に就いてから2年が経って、自分は「"黄金の手錠"でこの仕事に縛り付けられている」ように感じるとInsiderに語った。女性は会社が提供する保険を当てにしていたからだ。
「この仕事は嫌いですが、医者が必要なので身動きが取れません」と女性は話している。
多くの業界で人手が不足していることは、新しい仕事を突然、探し回れるようになった小売業界で働く一部の人々にとっては朗報だ。スターバックスで働くマネジャー職の女性は、もうすぐ今の2倍稼げるヘルスケア業界の営業職に転職するという。会社からの手当もさらに手厚いという。
「文字通り1日で、今よりもいい仕事が見つかりました」と女性は話した。
スターバックスの仕事を辞める最終的なきっかけとなったのは、どんどん値上がりするスターバックスのドリンクの価格と自分の賃金との差に気付いたことだった。
「どうにかしなくちゃと思ったのは、9ドル(約980円)というわたしたちの最初の時給が顧客1人が注文する平均金額より少なかったことです」と女性はInsiderに語った。
スターバックスの広報担当者は「アメリカ各地にいるわたしたちの20万人のパートナーは最高の人材であり、彼らの経験こそがスターバックスを働く場所として意味のある、刺激的な場所にするために重要な役割を果たしています」とInsiderに語った。同社は、アメリカで働くパートナーの30%が時給15ドル以上で、今後3年でこれをアメリカの全パートナーに拡大する計画だと話した。
スターバックスで働く別の従業員は、新型コロナウイルスのパンデミックで危険かつ困難な1年を過ごしたことで、"疲れ"と"扱い"が最大の関心事になっているという。「従業員が解雇されたり、辞めたりしているのは、わたしたちがあまりにも働き過ぎで、ストレスがたまっていて、嫌がらせをされるからです」と中西部のスターバックスで働くスタッフはInsiderに語った。
ルイジアナ州のバリスタも同様の不満を漏らしている。「毎日、わたしたちを罵ったり、嫌がらせをしてくる顧客が何人かいて、精神的にものすごく負担になっています」と男性はInsiderに語った。
パンデミックの初期に一時帰休やレイオフされた従業員の中には、ファストフード業界やカスタマーサービスの仕事に二度と戻らない人たちもいるようだ。4月には、レストランやバーなどの雇用が18万7000人増えたものの、それでもパンデミック前の2020年2月の雇用水準より13.5%低い。
この1年で、小売業界で働く人々がいかに比較的低い賃金かつ少ない手当でものすごく大きな負担を強いられているかが明らかとなり、彼らは「ヒーロー」「エッセンシャルワーカー」などと呼ばれた。コロナ禍で客にマスクの着用を求めたり、さまざまなやりとりをしなければならない中で、彼らに対する嫌がらせ、ハラスメント、暴力は珍しくなかった。国際サービス従業員労働組合(SEIU)が2020年夏、マクドナルドの従業員4187人を対象に行った調査では、回答者の半数近くが暴力を振るわれたり、言葉による攻撃を受けたことがあると答えている。
1日に何百人という客とやりとりをする小売業界で働く人々は新型コロナウイルスの感染リスクも高く、有給休暇がないことも多い。研究者らは、感染リスクが最も高いのは、レジ係といった「(他人と)直接、接触する時間が多い」労働者だと指摘していた。
メキシコ料理チェーンを展開するチポトレ・メキシカン・グリルの元マネジャー、クリス・ドラウン(Chris Drown)さんは「わたしたちが耐えなければならなかったあの状況では、時給20ドルでもわたしを働かせることはできません」と語り、新たに採用された人々も仕事上のストレスに見合わない低賃金のせいですぐに辞めていったとInsiderは4月に報じた。
顧客と対面する小売業の仕事に代わって、アマゾンといった企業の倉庫で働き始める人たちもいる。こうした仕事は、労働条件が劣悪だとニュースになっていても、だ。アマゾンは2020年7月以降、1日あたり約2800人を雇用していて、その大半は倉庫での業務にあたるものだ。
「わたしたちは疲れ果てています。顧客はわたしたちに対して、友好的ではありません」とオハイオ州のスターバックスのシフト責任者の女性はInsiderに語った。
(翻訳、編集:山口佳美)