ゴミ問題や石油資源を大量消費している課題から、脱プラの流れが加速している。
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ここ数年、海洋プラスチックごみなどをはじめとしてプラスチック製品による環境汚染が問題視され、各企業がプラスチックストローを紙製のストローに変えるなどの「脱プラスチック化」を進めている。
ただし、私たちの生活に使われるあらゆる製品は、限りある資源を元に作られている。プラスチックの消費量が減る一方で、紙などの原材料の消費が過剰に加速してしまうことも好ましくない。
重要なのは、限りある資源を効率よく活用していくこと。つまり、プラスチックをはじめとした資源の「リサイクル」だろう。
近年、リサイクルの中でも、「もとの製品と同じもの」にリサイクルする「水平リサイクル」の重要性が再認識されている。
「ペットボトルをペットボトルに」再利用するサントリー
伊右衛門とGREEN DA・KA・RAでは、一部、再生ペットボトルを使っている。ただし、ペットボトルやパッケージを見ても、その商品が再生ペットボトルでできたものなのかは判別できない。
撮影:三ツ村崇志
飲料大手のサントリーは、2011年に国内飲料業界で初めてペットボトルをペットボトルとして再利用する水平リサイクル、いわゆる「ボトルtoボトル」のシステムを構築した。
使用済みのビール瓶を洗って使い回す、「リユース」とは違い、「水平リサイクル」では、回収したペットボトルを溶かして「ペレット」と呼ばれるプラスチックの粒にしたあと、再びペットボトルを作る。
水平リサイクルを経たペットボトルが使われている割合は、現状では世界で1~2割程度。サントリーでは「GREEN DA・KA・RA」や「伊右衛門」などのペットボトル飲料の26%でリサイクル素材100%のペットボトルを使用している(2020年実績)。
これは業界でもトップレベルの使用率だ。
サントリーは、2030年までに世界で販売するペットボトルをリサイクル素材か植物由来素材に切り替えることを目標として掲げている。短期的には、2022年までに国内の清涼飲料事業で、リサイクルのペットボトル比率を半分以上にする計画だ。
2018年には共栄産業らと共同で、回収したペットボトルをペレット化する工程と、ペレットからペットボトルを製造する工程が接続された世界初の「F to Pダイレクトリサイクル技術」を開発。
「F to Pダイレクトリサイクル技術では、2回あったプラスチックを溶かす工程を1回にしました。これはリサイクル業界の常識を破るような画期的なことです」(サントリーMONOZUKURIエキスパート、SCM本部包材部・加堂立樹部長)
工程を減らすことで、 化石燃料を原料として使用した製造工程と比較して、二酸化炭素の排出量を約60%削減できたうえ、コストも下がったという。
「別の製品へのリサイクル」の終着駅は「焼却処分」
ペットボトルを回収して、ペットボトル以外のものにリサイクルするケースは多くみられる。ただし、一度ペットボトル以外のものにしてしまうと、再びペットボトルに戻すことが難しく、最終的に焼却処分されてしまう。これでは結果的に資源量は減ってしまう。
提供:サントリー
廃棄物政策の専門家である神戸大学大学院経済学研究科の石川雅紀教授は、水平リサイクルのやりやすさについて次のようにコメントする。
「たとえばレトルトパウチなどで使われるプラスチックフィルムは『ペット』や『ナイロン』、『ポリプロピレン』などの種類の違うプラスチックを層状に重ねて作られているため、水平リサイクルしにくい。リサイクルする際にそれぞれのプラスチックをはがして種類ごとに溶かすことは現実的ではありません」
この点、ペットボトルはほぼ単一の原料から作られており、水平リサイクルしやすい素材だ。
実際、日本ではペットボトルの回収率が91.5%、リサイクル率が85%以上と世界最高水準を誇っている。
ただし、回収率やリサイクル率が高くても、繊維やトレイといった別の製品に生まれ変わる「ダウンサイクル」の割合が多いのが現状だ。ダウンサイクルで作られた製品は、他の素材と混ざってしまうため、元のペットボトルに戻すことが難しい。
ダウンサイクルの終着駅は「焼却処理」となる。
資源の有効活用という意味でも、回収したペットボトルをそのままペットボトルとして再利用する割合を増やしていくことが望ましい。
水平リサイクルを進めるには、スムーズな回収からペットボトルとして再供給する流れを整備することが必要不可欠となる。
サントリーは、2021年4月から、兵庫県の東播磨エリアの2市2町(高砂市、加古川市、稲美町、播磨町)と協定を結び、同エリアから回収したペットボトルと同じ量のリサイクルペットボトルを再供給する取り組みを進めている。
「便」や「尿」がついたおむつをリサイクル
紙おむつの回収現場。場所によって、専用のボックスなどが設置されていることも。鹿児島県で実施されている実証試験では、ユニ・チャーム以外の紙おむつもすべてまとめて回収し、リサイクルしている。
提供:Unicharm Corporation
紙おむつなどの衛生用品を製造するユニ・チャームは、2015年、使用済みの「紙おむつ」を回収して紙おむつとして再利用する水平リサイクルの技術を発表した。
「再生おむつ」は、2022年に、介護施設などで使われる大人用おむつとして提供される予定だ。
原料が単一なペットボトルとはことなり、紙おむつは紙やポリマーなどの複数の素材を組み合わせてできている点で水平リサイクルすることが難しい。また、使用済み紙おむつには「便」や「尿」などが吸収されているため、そもそもリサイクルするハードルは高い。
再利用するには、複数の素材からなる製品を分離する技術が必要となる上、肌に触れても大丈夫なレベルの衛生状態にする必要がある。
ユニ・チャームでは、ユニ・チャームは2016年から鹿児島県の志布志市、大崎町と協力し、紙おむつの厳しい分別回収を行ったうえで、使用済み紙おむつの再資源化の実証実験を行っている。
提供:Unicharm Corporation
回収された紙おむつは、細かく砕かれた上で、洗浄・殺菌される。
パルプの滅菌はオゾン処理で行う。
「ほかの企業では、滅菌は基本的に高温の蒸気や化学薬品で行っています。しかし、蒸気では衛生用品として使えるレベルまで滅菌できないのがネックです。また、化学薬品を使うと、繊維に残留した場合を考えると人の肌にあてる製品には使えません。
オゾン処理ならにおいも傷もつかず、繊維に有害物質が残存するリスクもなく、衛生的で安心して使用できます」(ユニ・チャーム、ESG本部 上田健次氏)
その後、素材をパルプとSAPに分別した上で、再びオムツとして再生される。
ユニ・チャームはおむつを洗浄した処理排水を利用して発電する技術も開発しており、リサイクルシステム全体としての二酸化炭素の排出量削減にも取り組んでいる。
同社の検証によると、使用済み紙おむつを焼却して新たな紙おむつを作る場合に比べ、リサイクルシステムを活用すると、二酸化炭素の排出量を87%削減できる見込みだ。また、再生パルプの衛生面の安全性についても、バージン(新品の)パルプと同様の高いレベルであることが確認できたという。
使用済み紙おむつのパルプのオゾン処理前(左)と後(右)の比較。
提供:Unicharm Corporation
ただし、いくらデータ上で「安全」と言われても、使用済みおむつを再利用することに嫌悪感を抱く人もいるだろう。
ユニ・チャームでは、実証実験に参加した自治体の中で、使用済み紙おむつから作られた市報や名刺、メモパッドなどを配布している。紙おむつの利用現場である育児や介護に携わる機会が少ない人にも認知を広げるためだ。
「 使用済みおむつから再生されたパルプを材料に、どのような品質のものができるのかを知ってもらうことが理解につながり、安心してもらえるのではないかと考えています。
ちなみに『使用済紙おむつからリサイクルしたパルプで作った紙です』とお渡しすると、みなさん必ずといっていいほどにおいをかぎます(笑 )」(上田氏)
2022年に再利用紙おむつを介護施設などに提供しようというのも、まずはコミュニケーションの取りやすい団体に提供することで、使用の際の不安を払しょくする意図がある。
これからは環境に配慮した製品が支持される時代に
2015年、EUは循環型経済行動計画を発表し、2020年にはその更新版ともいえる新循環型経済行動計画を公表している。「サーキュラーエコノミー」の推進は、世界共通の流れだ。
ユニ・チャームが水平リサイクルを始めたのも、まさにこの時期。
ただし、ユニ・チャームの上田氏はこう話す。
「 外部の環境に対する潮流だけを見て、今回のような取り組みを進めているわけではありません。今後、消費者はもちろん全てのステークホルダーが、真摯に地球環境のことを考えて経営に取り組んでいるか否かによって企業を選別をしていくようになるのではないかと私たちは考えています 」
実際に、消費者の購買行動の変化の兆しも見えつつある。
2020年、サントリーが販売した「伊右衛門」ブランドのラベルレス商品が大ヒットした。
サントリーの北村氏は
「もともとはマーケティング的な理由で発売された商品ですが、結果的にリサイクルしやすいパッケージになったので、環境にやさしい印象を受ける点も今の消費者の気持ちに合っていたのではないでしょうか」
とヒットの理由を分析している。
環境問題への真摯な姿勢は、単なる社会貢献ではなく、ビジネスを成立させる上での重要なポイントになっている。