幸せなキャリアを歩むためには、転職にまつわる古い“常識”にとらわれず、刻々と変化する転職市場のトレンドをアップデートすることが大切です。この連載では、3万人超の転職希望者と接点を持ってきた“カリスマ転職エージェント”森本千賀子さんに、ぜひ知っておきたいポイントを教えていただきます。
今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
テーマは「多様な雇用形態のチームメンバーを、どのようにマネジメントしていけばいいのか」。
Aさんのようなお悩みを抱える人は、今、増えているのではないでしょうか。
私は長年、転職エージェントを務めてきましたが、このところ、企業が採用にあたり雇用形態にこだわらなくなったと感じています。
以前なら「このポジションは正社員でなければ」と考えていたのが、最近では「業務委託でも構わない」と、柔軟になってきました。
フリーランスで働く人や、副業(複業)する人の人口も増えていますので、多様な雇用形態のメンバーが集まったチームをマネジメントする機会は、今後も増えていくだろうと予測できます。
信頼関係を築くことをあきらめず、アプローチする
さて、まずは私自身の体験をお話ししましょう。
私もリクルート勤務時代、グループマネジャーとして、正社員と派遣社員が入り混じった組織のマネジメントをしていました。
ある時、派遣社員のXさんが私のグループに配属されました。Xさんは前の所属部署で「表情が変わらず、本心が分からない」ので「仕事を依頼しづらい」と噂されていた方です。
けれど私は、最初から偏見を持たないようにしていました。何か依頼された時に冷ややかに見えるのは、決して悪気があるわけではなく、例えば以前の派遣先で苦い経験をしたことがあるのかもしれない……そんなふうに捉えていました。
「信頼関係を築くことをあきらめない。先入観を持たず、トライしてみる」、それが私の基本スタンスです。
私はXさんを1対1のランチに誘いました。「私がごちそうするから、どう?」と。
私は普段から、関係を築きたい人がいれば、まずランチに誘うことが多いのです。
夜に飲みに行くのとは異なり、ランチは誰もが必ずとるものであり、相手にそれほど負担感を与えませんから。
ランチタイムという「オフ」の時間、オフィスの外ということで、お互いリラックスして話ができる環境。
私は誰に対しても、プライベートを含め、自分のことをオープンに話すのですが、そうするとXさんも意外とすんなり心を開いてくれました。
そして、家庭環境や派遣で働くようになった背景、仕事に対する思いなど、いろいろな話をしてくれたのです。
そんな時間を過ごしたことで、私とXさんの距離は一気に縮まりました。それによって、職場でも思っていることを素直に言い合えるようになり、信頼関係が築かれ、頼みごとをしやすくなったのです。
私は自分の経験から、「人は変われる」と思っています。実際に、キャラクターが変わった人を大勢見てきたからです。
初対面から「この人の態度は受け付けない。自分とは合わない」と、苦手意識を持つ相手もいるかもしれません。
けれど、自分が信頼関係をつくることをあきらめなければ、必ず相手の態度は変わってくるものです。
チームメンバー全員に「心理的安全性」を
雇用形態がバラバラであっても、同じチームの「仲間」として、すべてのメンバーを対等に扱うことも大切だと思います。
「正社員だけ会議に招集する」「正社員とだけ情報共有する」——そうしたことは、私は極力しないようにしていました。
期初のキックオフとして合宿を行う際なども、派遣スタッフの方にも声をかけ、本人が望めば参加してもらいました。
メンバー同士の距離を縮める機会を作ることで、その後の仕事がやりやすくなり、結果的に業務効率や生産性が高まると考えているからです。
チームリーダーがまず取り組むべきは、「心理的安全性」の向上です。
心理的安全性とは、他者からの反応に恐怖心や羞恥心などを感じることなく、ありのままの自分をさらけ出せる状態を指します。
メンバーが、「このチームなら自分の考えや行動を受け入れてくれる」という安心感を持てれば、チームへのエンゲージメントが高まり、積極的に行動できるようになります。
チーム内に心理的安全な環境をつくるために、私は、チームメンバー同士がお互いの生い立ちや価値観を共有する機会を設けていました。
これまでの人生での出来事、モチベーションの波などを記したワークシートをもとに、メンバー全員で感想を話したり質疑応答したりする会です。
メンバー同士が、お互いの考え方や価値観を理解し合えば、信頼関係が生まれ、心理的安全性が高いチームになります。
実際、私はこうした方法でチームビルディングを行い、社内で「MVG(Most Valuable Group)」の表彰を受けたこともあります。
こうしたチームビルディングの方法については、この連載の第24回でも詳しくお話ししていますので、参考にしてみてください。
心理的安全性を高める取り組みの有効性は、相手がどんな雇用形態であっても変わりません。正社員と差をつけることなく、向き合ってみてください。
相手が望む成長、キャリアプランを支援する
私がマネジャー時代、派遣のチームメンバーに対して行っていたことがあります。
それは、「相手のキャリアプランの支援」です。
派遣という働き方を選んでいる理由を聞き、もし正社員としての就職を望んでいるとしたら、どうすればそれを実現できるか、一緒にプランを練りました。
実際にパフォーマンスを上げて正社員登用されたメンバーもいますし、私のクライアント企業に紹介し、その企業で正社員採用が決まったメンバーもいます。
チームリーダーは、チームメンバーが望む成長やスキルアップの支援者になるべきだと思います。
その人は、このチームでの経験を通じて、どんな力を身につけ、将来はどうなりたいと考えているのか——それを理解した上で、可能なかぎり、その目標に近づけるような業務にアサインし、チャンスを提供する。
近年は、「新たなスキルの習得」を目指し、フリーランスという働き方を選んだり、副業したりする人が増えてきました。
それぞれのメンバーが、なぜその働き方を選び、何を目指しているのか。
それを理解し、成長をサポートしてあげることで、リーダーと良好な関係が築かれ、メンバーのモチベーションとパフォ―マンスは向上すると思います。
※転職やキャリアに関して、森本さんに相談してみたいことはありませんか? 疑問に思っていることや悩んでいることなど、ぜひこちらのアンケートからあなたの声をお聞かせください。ご記入いただいた回答は、今後の記事作りに活用させていただく場合があります。
※本連載の第53回は、6月7日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。