「拡張家族」を信じる石山アンジュが、たった一人と結婚した理由

石山アンジュ

「シェアリングエコノミーの顔」としてメディアに引っ張りだこの、石山アンジュさん。

撮影:今村拓馬

ミレニアル世代の意見を政策に反映させるシンクタンクを起業して政策提言やロビイング活動を行うほか、テレビ朝日系「モーニングショー」のレギュラーコメンテーターなども務める、石山アンジュさん(32)。

東京にあるシェアハウス「Cift(シフト)」で暮らすアンジュさんは、2020年の秋に事実婚をした。彼女がいま考える、家族のあり方とは。

ムカついても対話するのが、家族

石山アンジュ

「意識でつながる拡張家族」を掲げるシェアハウス「Cift(シフト)」。アンジュさんは代表理事を務めている。

東京・渋谷にあるシェアハウス「Cift(シフト)」。ここでは、年齢も職業もさまざまのクリエイターたちが共同生活をする。通常のシェアハウスと違うのは、入居希望者にはあらかじめ事前に面談し「家族になる意思があるか」を問うという、その一風変わった運営方針だ。

2017年の初期からメンバーとして参加し、現在は代表理事も務めるアンジュさんは、血縁や法律にとどまらない家族のあり方「拡張家族」が社会をより豊かにすると訴えてきた。

「(シフトでは)例えるなら、全員と恋愛関係を結んでいるようなものかもしれません。好きな人って別れたくないから、すごくムカついても対話するし、自分が変えられるところはないかな?って考えるじゃないですか。それを全員とやっていくんです」

単身世帯の増加、生涯未婚率の上昇、離婚率の上昇……。かつて「当たり前」とされた家族像が時代と共に崩れていく中で、「拡張家族」というコンセプトも徐々に広まった。

4年間過ごすなかで、綺麗ごとだけではすまないことも多々起こった。自分のせいで同居人にケガをさせてしまったら? 子どもの教育方針などで対立したら?

「極端な話をすれば、この人が事故に遭って1000万円必要になったとして、自分の財布からどこまで出せる?という問いを、常に突きつけられているような気持ちです」

シフトは今、渋谷、松濤、京都と3つに拠点を広げ、多拠点生活をしている人を含めてメンバーは約100人を数える。

「私より100倍シェアな人」と事実婚

石山アンジュ

アンジュさんは大分県で村づくりを担う28歳のパートナーと結婚した。

画像:取材者提供

そんなアンジュさんは、2020年の秋に結婚した。

現在28歳のパートナーはシフトのメンバーでもあり、大分県の限界集落の古民家で暮らしている。仕事は地方自治体から支援を受けて「まちづくり」をするというものだが、東京で暮らすアンジュさんのように、毎日びっちりと決まったスケジュールに従って生きているわけではない。

それよりも、自分の時間の大半を「おじい」や「おばあ」の草刈りや、他人の子どもの世話や、地元の人たちと語らう飲みの時間に充てる。

「これだけシェアと言っている私の100倍、彼はシェアの精神を持った人だな、って」

お金はなくとも、与え・与えられる関係性の中で暮らしが回っていく。

今までいわゆる「ITベンチャー系男子」とばかり付き合ってきたアンジュさんにとって、彼は初めて、本当の安らぎを与えてくれた存在だった。

たった一人を選んだ理由

石山アンジュ

「家族もパートナーシップも、お互いに意思を持って向き合うことができれば、制度や社会的な枠組みにとらわれる必要はない」

アンジュさんもパートナーも「シェアすることで人は豊かになる」という思いは同じ。「拡張家族」というつながりからはじまったふたりに「結婚」という形式は必要なのか?アンジュさんは考え込んだ。

思い浮かんだのが、番組で共演した社会学者・宮台真司さんが語っていた言葉だった。

「性愛とは本来、法の枠組みの外にあるものだ」

宮台さんによれば、結婚や、それに付随する家族とはそもそも、法律や契約という枠組みの中で生まれた概念だ。その一方で性愛とは、そうした法律を飛び越えた、人間らしさを取り戻す営みだったと、宮台さんはいう。

シェアの精神さえあれば、今の時代は契約や血縁がなくても家族になれる、と信じてきたアンジュさんは、今一度自問する。では、そんな自分は性愛をどう位置付けるだろう。

そこで出た結論はむしろ「この人と一対一で性的なパートナーシップを結びたい」、それをお互いが同意する形として残したい、という気持ちだった。

とはいえ「結婚」という制度で相手を縛り付ける必要はない。

そう考えるふたりは、子どもが生まれるまでは法律婚ではなく“意識でつながる”結婚、つまり事実婚を選んだ。今後子どもができたら、親権や苗字などの関係で婚姻制度を選択することもありえるかもしれないと、アンジュさんはいう。

両親はアンジュさんが12歳の時に離婚している。

家族での顔合わせの時には、アンジュさんの両親とそれぞれの現在のパートナーたち、アンジュさんのパートナーの両親の8人で円卓を囲んだ。空き家バンクから借り受けた野球場ほどのサイズの畑で、ふたりは結婚式を挙げた。

“面倒くささ”こそ必要とされている

石山アンジュ

「人とのつながりの中で生じる“面倒くささ”こそ、必要とされているのでは」

アンジュさんは今、パートナーが住む大分県の限界集落と、仕事の拠点である東京の渋谷とを往復する。

居住時間の比重は大分:渋谷=7:3の、いわゆる二拠点生活だ。その中で、気づいたことがある。

田舎にこそ、アンジュさんが求めてきた「シェアの思想」が息づく理想郷がある、と。

大分の家に鍵はない。「おじい」や「おばあ」が入ってきては、玄関先にドサッと野菜を置いていく。共同の井戸水は、誰かが使いすぎれば枯れる。モグラやタヌキ、ウグイスたちと挨拶もするが、空き家にはゴキブリやクモも出没する。

自然も人も、与え、与えられるという循環の中で、生かされている。

「確かに面倒くさいことも、不便なこともあります。でもこれだけ孤独死や鬱が問題になっている中で、その面倒くささこそ、現代に必要とされていることなんじゃないか、とも思うんです」

今アンジュさんは、東京の拠点・シフトを、都会で忘れ去られた「シェアの面倒くささ」を修行できる道場のようにできないか、と考えている。

誰も取り残さないシェアエコ

石山アンジュ

大分県と東京で2拠点生活をしているアンジュさん。

画像:取材者提供

大分と東京。若者と高齢者。法律の枠内と枠外。

いくつもの相対するコミュニティを越境して、それぞれの架け橋となるアンジュさんは、ロビイングや政策提言に関わる今の仕事は天職だ、と言い切る。

「例えば、言葉遣いひとつとっても、世代や文化、業界用語も全く異なる相手にどう言えば伝わるか?を考えます。政治家の方々に『ライドシェア』という言葉を使っても警戒されてしまう。『バスも電車も通っていない田舎で、病院に行きたいおばあちゃんやおじいちゃんを助ける方法として……』と、利害関係を超えた視点から説明すれば、皆さん『なるほど』と納得してくださるんです」

最先端テクノロジーも活用すべきだが、大切なのは「誰も取り残さないこと」。小学生の頃から学級委員を務めながら、世界平和を実現するにはどうすれば、と真剣に考え続けてきた。

4月には代表理事を務める、一般社団法人パブリック・ミーツ・イノベーションで家族のかたちに関する政策提言を行い、その概要を「ミレニアル政策ペーパー」としてまとめた。

順風満帆なことばかりではない。パートナーとの子どもがほしいと考えていた2020年の秋、子宮筋腫が見つかり摘出手術をした。「20代の頃、もっと身体に気を遣っておけば」と後悔した。

それでも、血縁や法律にとどまらない“家族”がいるからこそ、人は支え合い、困難さえも乗り越えられる。信じ続けてきたその思いは今、少しずつ社会を動かし始めている。

(文・西山里緒、写真・今村拓馬)


石山アンジュ:一般社団法人Public Meets Innovation代表/一般社団法人シェアリングエコノミー協会 常任理事(事務局長兼務)。1989年生まれ。「シェア(共有)」の概念に親しみながら育つ。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを提案する活動を行うほか、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進にも従事。2018年ミレニアル世代のシンクタンク一般社団法人Public Meets Innovationを設立。2012年国際基督教大学(ICU)卒。新卒で(株)リクルート入社、その後(株)クラウドワークス経営企画室を経て現職。

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