REUTERS/Mark Makela
- スターバックスは、高額の注文をする少数の顧客による収益に依存している。
- ある従業員は、複雑にカスタマイズされたドリンクをファストフード並みの速さで提供することを求められても困るとInsiderに語った。
- 業務量に対応するために必要な人員を会社側が適切に配置していないと言う従業員もいる。
アメリカの雇用市場が活況を呈する中、ジョージア州アトランタのスターバックス(Starbucks)でシフトスーパーバイザー(時間帯責任者)を務めていた女性は、よりよい給料と福利厚生のある仕事に転職するとInsiderに語った。2年間続けた仕事を辞める決定的な理由は、ますます高価になるスターバックスのドリンクと自分の給料を比較して気づいたことだという。
「我々の時給は9ドルからスタートするが、これは客が注文するドリンクの平均的な価格よりも安い。そんなことにうんざりしてしまった」と彼女はInsiderに語った。
スターバックスの給料は店舗によって異なるが、彼女の経験は同社の戦略を表している。つまり、カスタマイズされた高額のドリンクに金を払う一部の顧客からの収益に依存しているということだ。同社のアメリカでの2021年第2四半期の決算報告によると、販売数が10%減少したにもかかわらず、売上高は9%増加している。ドリンクの平均価格が22%増加したことがこの成長の要因だ。より大きなサイズを注文し、いくつもミルクやソースなどを追加してカスタマイズが複雑になると価格は上昇する。
同社の決算報告によると、モバイルやドライブスルーでの注文の方が、店内での注文よりもサイズが大きく、値段も高くなる傾向があり、複雑な注文の多くがこれらのチャネルを通じて行われているという。ドライブスルーとモバイルでの注文は新型コロナウイルスのパンデミック以前でも販売の80%を占めていたが、さらに増加している。
競合他社がドライブスルーをより効率的にするためにメニューを減らしているにもかかわらず、スターバックスはカスタマイズの選択肢やいくつもの工程が必要な新しいドリンクを増やし続けている。ドライブスルーのメニューは多くの飲食店でシンプルになっていく傾向にあるが、スターバックスはそうならないだろうと専門家は考えている。「スターバックスでは何通りものカスタマイズが可能であり、それは今後とも変わらないだろう。彼らはそれが強みだと考えている」と、カリノフスキー・エクイティ・リサーチ(Karinowski Equity Research)の創設者であるマーク・カリノフスキー(Mark Kalinowski)はInsiderに語っている。
飲食関連の情報を発信するQSRが行っているドライブスルー調査の2020年版によると、スターバックスは競合するダンキン(Dunkin')に提供スピードの面で遅れをとっていた。カリノウスキーによると、スターバックスはドライブスルーの効率化に取り組んでいるが、最速のドライブスルーを目指しているわけではないという。待ち時間が少し長くなったとしても、「スターバックスにとっては、カスタマイズすることの方がはるかに重要だ」と彼は述べた。
スターバックスは、客が自分の好みに合ったドリンクを、時間と金をかけて手に入れるための場所なのだ。
カスタマイズとスピードは両立できない
オハイオ州のスターバックスでシフトスーパーバイザーを務めるエリカ(Erika)さんは、ドライブスルーやモバイルを通したカスタマイズメニューを中心とする仕事に変わったのに、その業務に必要な人員確保を会社は行っていないとInsiderに語っている。
「制限なしのカスタマイズができるため、ドリンクはますます複雑になっている。またロックダウンに飽きた人々が、日常の雰囲気を求めてスターバックスを訪れている」と彼女は述べ、複雑にカスタマイズされたドリンクを作りながら行列をさばいていくには、より多くの人員が必要だと説明した。
Insiderはこの件に関してスターバックスにコメントを求めたが、回答は得られなかった。
ペンシルベニア州の店舗のスーパーバイザーを務める女性は、彼女の店舗でも状況は同じだとInsiderに語っている。
「TikTokなどのソーシャルメディアで発信されているカスタムドリンクも作るのに手間がかかるため、もっとスタッフが必要だ。ドリンクはますます複雑になっているのに、ドライブスルーの対応時間は40秒から50秒以下にするよう会社から要求されている」
このような要求は、「パートナー(従業員)が対応不可能なほどの作業レベル」を生み出し、「パートナーに大きなストレスを与えている」と彼女は述べた。
前出のエリカさんは客の要望に応じたドリンクを作りたいと思っているが、上司からはドライブスルーでの待ち時間を厳しく制限するといった不可能な要求をされているという。これは両立できることではなく、客がファストフード店のような迅速なサービスをスターバックスに求めるようになっていることも問題だと彼女は言う。「メニューを簡素化し、カスタマイズを制限すれば、時間は短縮できる。あるいは、無制限のカスタマイズを誇る店舗としてブランドを確立し、成功を目指すのかどうかだ」と彼女はInsiderに語った。
「両方を実現することはできない。少なくとも現在の人員では不可能だ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)