【Waffle1】テック分野のジェンダーギャップ解消。誰もやらないなら私たちがやる

waffle 田中沙弥果と斎藤明日美

撮影:持田薫

15.7%と27.8%。

これは日本における工学部と理学系学部に占める女子学生の比率だ。いずれもOECD加盟国で最下位だ。

皆さんにも理系、エンジニアと言ったら男性を想像するのではないだろうか。それが単なるイメージでなく、日本では圧倒的に男性が多いという現実がある。その現実がさらに理系=男性、テクノロジー=男性というイメージを強固にし、理系・テクノロジー分野から女性を遠ざける負の連鎖が起きている。

だが、日本の女子学生の理数系のスコアは世界で見ても決して低くない。国際的な学力到達度調査PISAで見ると、数学で77カ国中7位、科学は6位(2018年)。他国の男子よりも高得点を取っている。日本国内で見ても理数系で男女の学力差はほぼない。

なのになぜ、女性は理系を敬遠するのか。大学進学で理系を選ばなければ、当然その後の職業選択にも影響する。科学分野の女性研究者も増えなければ、IT企業で働く女性エンジニアも増えない。これから世界を大きく変える原動力となるテクノロジー分野における女性の少なさに直結する。

理系、テクノロジー分野のジェンダーギャップは世界に共通する課題だが、冒頭の数字を見ても、日本はより深刻だ。このことが今後、私たちの生活や社会にどんな影響を与えるのか、そして女性自身のキャリアや人生にどんな影響を及ぼすのか。詳しくは4回目で述べるが、このテクノロジー分野におけるジェンダーギャップ解消を目指そうと活動しているのが、今回の主役、一般社団法人Waffleの田中沙弥果(29)と斎藤明日美(30)の2人だ。

コーディングと女性エンジニアに出会う3週間

Waffle Camp

Waffle Campではプログラミングの講習の後、実際にウェブサイトを制作して公開までする。

提供:Waffle

ある日曜日の午後。Zoomの画面の向こうには3人の女子高生の姿があった。Waffleが毎月開いているウェブサイト開発やコーディングを学ぶWaffle Campだ。

女子中高生を対象に事前、事後の学習も含めて3週間、女性のエンジニアたちがメンターとして付き添いながら、自分のアイデアをウェブサイトにする。参加理由を問われた女子高生たちはそれぞれ、「好きなアーティストのページを作ってファン同士でつながりたい」「海外アーティストの歌詞を翻訳して、動画と組み合わせたい」。自分の「好き」から参加していた。

「Campではまずは自分のアイデアを形にできる楽しさを味わってもらいたくて。好きなことを突き詰めていったらITがあったという形でいいと思ってます」(田中)

プログラミングを前面に出すより、「好き」から入ることで、テクノロジーに対する敷居を下げる。ウェブサイトが完成した達成感が、その後自分でもコードを書き続けるモチベーションにもなる。そのサポートのために、講習後2週間のメンタリングも用意している。

半日にわたる講習の間には、メンターになっている女性エンジニアがキャリアについて話す時間もある。高校の時に何に興味を持ち、大学時代に何を学んでいたか、どうやって今の仕事に就いたのか。

「中高時代にプログラミングに興味があるというと、男子ばかりのコミュニティが多くて、女子は参加してもアウェイ感を味わってしまう。その不安な気持ちから、ITという進路が選択肢から外れしまうんです。

でもロールモデルになるメンターと話すことで、女性も自分でもできるかもと気づいたり、文系だからITは関係ないと思っていた進路を考え直すきっかけになったり。可能性が一気に広がるんです」(田中)

日本では高校時代に文系か理系の選択を迫られる。せめてその前にテクノロジーの可能性や面白さに気づいてもらいたい。数学が苦手、工学部って男子が多そうという理由だけで、選択肢を狭めてほしくない。Waffleの2人が女子中高生に絞ったCampを立ち上げた背景にはこんな想いがある。

「女の子=文系」親・教師のステレオタイプ

shutterstock_356921618

理系への進学を考える女子学生には、「女の子だから」という理由でさまざまな壁が立ちはだかる。

maroke / Shutterstock.com

日本の女子中高生が理系を避ける背景には、親や教師の影響も大きいという。

中高時代の数学や物理、化学などの理数系の教師の7割が男性。理数系の教師が女性になるだけで、理系を志望する女子学生が11%も増えるという内閣府の調査もある。

2020年には小学校でのプログラミング教育も始まった。田中はかつて働いていたNPO法人「みんなのコード」で教師向けのプログラミング教育の講習会を開いていたが、参加する教師の8割は男性。小学校の教師の7割が女性にもかかわらず、だ。目の前に見える風景が子どもたちに及ぼす影響は無視できない。

そして親。子どもたちの職業観や人生観には、親世代のステレオタイプな価値観が大きく影響する。実際、Waffleには女子中高生たちから、「データサイエンティストになりたいと言ったら、親に学費を出さないと言われた」「女の子だから文系でいいと言われた」という声が寄せられている。

「親や教師の理系=男性というステレオタイプの影響は深刻。逆に親や教師の一言があれば、女の子たちの能力を引き出し、可能性を伸ばすこともできる」

そう話す斎藤は、Waffleの前にはデータサイエンティストとしてAIスタートアップで働いていたが、実は高校時代は赤点ギリギリの点数を取ったこともあるほど数学が苦手だった。「数学きついから、文系科目で勝負した方がいい大学に行ける」と思っていたのに理系を志したのは、学校の教師が背中を押してくれたからだ。

「高1の時に『斎藤さん、数学できてるよ、理系に行ったら』と言われて。潜在能力を見て、『大丈夫だよ、できるよ』と誰かに言ってもらえるかどうかが、理系へのスティグマ(偏見)を解消するんです」

Twitterで出会い、初対面でホワイトボード議論

waffle 田中沙弥果と斎藤明日美

田中(写真右)と斎藤(写真左)はテック業界におけるジェンダーギャップという課題について、出会う前からお互いに体験的な課題感を持っていたという。

撮影:持田薫

田中と斎藤の出会いはTwitterだ。知り合ってまだ2年ほど。

プログラミング教育にかかわっていた田中は、エンジニアの友人から女性エンジニアを増やしたいと相談されていた。労働市場に少ない原因を考えるうちに、中高生の段階でエンジニアやIT業界で働くことが女子の視野に入っていないという課題感を持つようになっていた。

斎藤は最初に就職した外資系IT企業で、技術職に女性が少ないことに気づいた。ウィメンズイニシアチブネットワークというアメリカの団体の日本版を社内に立ち上げたり、女性の採用を増やしてほしいと担当者に直訴したりもしたが、担当者からは「女性を増やしたいんだけど、そもそも女性からレジュメ(履歴書)が送られてこなくて」と言われていた。

その後転職したAIスタートアップで採用に携わった際、確かに女性からの応募は全くなかった。

同じ課題感を持っていた2人は、Twitterでの出会いから半年、お互いのバックグラウンドも性格も知らないまま、ただひたすら目の前にあるテクノロジー業界に女性が少ないという課題をどう解決すべきかだけを話した。初対面の時もホワイトボードを挟んで議論した。

その頃、田中はiamtheCODEというアフリカのNPOが主催する、日本の女子中高生を対象にしたワークショップの運営を担っていた。その運営のあまりの大変さに「もう泣きそう」と弱音を吐くと、斎藤がボランティアで平日の夜や土日に手伝ってくれた。

先にWaffleを一人で立ち上げた田中だが、最初は斎藤を巻き込むつもりはなかったという。

「スタートアップを友人同士でやると友情が壊れるという話を見聞きしていたので。だから斎藤が『私、やるわ』と言ってくれた時、『ああ、やるんだ。いいよ』というぐらい、受け身な感じでした」(田中)

「Co-Founderにして」と申し出て、会社も辞めた斎藤は参加した理由をこう話す。

「手伝ううちに、これは誰かが本腰を入れてやらなければ、と思うようになりました。テクノロジーにおけるジェンダーギャップ解消は日本で一番大きな課題なのに、待っていても誰も他にやる人がいない。だったら私たちがやるしかないと。Waffleの活動は意義のあることだけど、彼女一人だと大変だと思って」

アメリカにはいくつもある女の子だけのプログラミング教室が日本にはない。まずそれをつくることから2人の活動は出発した。2020年の春だった。

次回から、ある意味対照的な環境で育ってきた2人が、どうやってジェンダーの意識を持つようになったのか、辿っていく。

(▼続きはこちら

(文・浜田敬子、写真・持田薫、デザイン・星野美緒)


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