ビデオ通話やチャットを家族間で、PCやスマホといった機器を選ばずに使える。
出典:マイクロソフト
5月17日、マイクロソフトは、同社のコミュニケーションサービス「Microsoft Teams」に、家族向けの機能を拡充した。日本向けにも、日本語化された形で同時に提供が始まる。
Teamsといえば「コロナ下で急成長したビジネスチャットツール」という印象が強いが、マイクロソフトは「家族のコミュニケーションツール」としても、打ち出そうとしている。どんな使い方をイメージしているのか、米国本社の担当者に聞いた。
マイクロソフトが家庭市場にTeamsを提供
「市場調査の結果、多くの人が家族同士でつながりたいと思っていると分かりました。多くの人は、仕事と家庭の両立にストレスを感じていると思います。中でも、家事をコーディネートしたいと思っている人、人生でより重要なことに集中したいと思っている人に着目しました」
米マイクロソフト・モダンライフ担当ディレクターのChristy Hughes氏はそう説明する。
米マイクロソフト・モダンライフ担当ディレクターのChristy Hughes氏。
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Teamsといえばビデオ会議やビジネスメッセージングなど、主軸は「仕事環境のコミュニケーション」を提供するサービスだ。
マイクロソフトは「個人向けにもサービスを広げたい」という意識を持っており、Teamsを家庭内でも使ってもらう方法を模索してきた。
使うTeams自体は、実はビジネス向けのものと変わらない。「パーソナルアカウントを追加する」という使い方を選ぶことで、家庭向けの要素を多く取り入れた「カスタマイズ版のTeams」が現れる仕組みだ。同じアプリ内で共存する形で使える。
TeamsはPC・スマホ(iPhone・Android両方)・タブレットに加え、ウェブブラウザーからも利用できる。家族・個人で使う場合にも完全に無料ですべての機能が使える。
Teamsを家族の用途に向けてカスタマイズ
家族向けTeamsでは何ができるのか?
まずは「ビデオ通話」、これは当然だ。家族間でビデオ通話ができるアプリは多数あるが、Teamsもその1つになる。
「家族向け」の変更としては、2020年にTeamsに追加された「Togetherモード」(会議中のメンバーが会議室に並ぶように一覧できるモード)の背景が家族向けになることが挙げられる。Togetherモードは、ビデオ通話のストレスを減らすために、部屋の中などに人々が並んだ形で表示されるモードだが、仕事向けの会議室などの背景ではなく、もう少しカジュアルなものが用意される。
ビデオ会議参加者が一同に会する「Togetherモード」も背景が家族向けにカスタマイズされる。
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それ以上に大きな変化が、家族向けに「グループに分けたチャット」が用意されることだ。
例えば「家族の予定」についての話題を話すグループ、「家族旅行の計画」についてのグループなどを簡単に作り、話題を分けて話すことができる。家庭内でも「プロジェクト」はたくさんある、という考え方を反映したものだろう。
家族向けにグループ分けしたチャットを使える。
出典:マイクロソフト
「家族間では、好きなテレビから旅行の計画まで、さまざまな話題が話されます。しかし、それらが混ざり、大切な旅行の計画の話が失われてしまっては困ります。ですから、特化したグループに分けて話せるようにしているのです」(Hughes氏)
グループ分けは、「旅行の企画」や「家族の会話」「ご近所の話」など、よく使われるものが最初から「スタートリスト」の形で用意されているので、そこから選ぶだけでいい。もちろん、自分でカスタマイズすることもできる。各グループには「ダッシュボード」があり、最近の話題やシェアされた写真なども見れるようになっている。
会話の中ではもちろん、画像やウェブサイトの共有などができるが、それだけでなく「投票」機能もある。複数のレストランからどれを選ぶのか、といったことを決めたい場合に役立つ。
家族向けTeamsの投票機能。「週末の予定は?」の候補に、家族で投票して決めるような仕組み。ビジネス現場では見慣れたPoll機能を使っている。
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家族に「仕事を割り当てる」こともできる。子供にお使いやお手伝いを頼む時などは、この機能を使って割り当てるといった使い方だ。すると、アプリの通知機能を使ってスマホに「割り当てられたお手伝い」が表示されるので、子供にもわかりやすく、忘れにくくなるわけだ。
スーパーマーケットで買ったものをピックアップする、という仕事を家族に「アサイン」している様子。仕事っぽいが、確かに日常的にこういうお使い的な用事は発生する。
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LINEより踏み込んだ「家族」機能、普及は未知数
スマホやPCを使い、家族の間でのコミュニケーションにもチャットなどを活用、という使い方は、もはや珍しいものではない。家族間での連絡が、電話やメールでなくLINEが中心になっている、という人も少なくないだろう。また、家族向けに予定などを管理するアプリやサービスも珍しくない。
そこでTeamsを使うメリットはなんなのだろうか? Hughes氏は「1つのアプリケーションにまとまっていること」だと話す。
ビジネス向けTeamsと同じ技術・アプリで作られており、アカウント切り替えで「仕事用」「家族用」の使い分けができる。
出典:マイクロソフト
「この製品はTeamsがベースになっています。開発部門では、家族をまとめる人のストレスを解消できることを狙いました。彼らは忙しく、ストレスを感じています。一日中仕事をしているようなものだからです。だからこそ、そのストレスを軽減するためのTeamsを目指したんです」
見え方や重要なことは違うが、家族も確かに「チーム」の一つだ。
とはいえ、普及までの道のりは簡単ではないだろう。
メッセンジャーのような「日常的に使うサービス」は、使い慣れているものから変更するのが面倒なものだ。特に日本では、友人・知人との間でLINEを使うのが当たり前になっており、家族だけ別のサービスを……というのは簡単ではない。
一方、「家族の作業や連絡をスムーズにする」という要素に魅力があるのも事実。そうした要素の価値をいかに浸透させるかが重要な鍵となる。そうした要素は、ITリテラシーが高い家庭から入っていくものかと思う。
LINEなども「家族の管理」という要素については取り組む価値があると思うが、そこでいかに「複雑化せずに広げられるか」が、実際に使われる機能になるかどうかの勝敗を分けそうだ。
(文・西田宗千佳)
西田宗千佳:1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。主な著書に「ポケモンGOは終わらない」(朝日新聞出版)、「ソニー復興の劇薬」(KADOKAWA)、「ネットフリックスの時代」(講談社現代新書)、「iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)がある。