緊急事態宣言下の渋谷。(撮影:5月6日)
撮影:三ツ村崇志
緊急事態宣言の適用範囲が5月16日には北海道、岡山県、広島県にも広がった日本。
まん延防止等重点措置の適用も拡大され、いまや47都道府県中約半数の19都道府県で強い対策が講じられている。
ワクチンが広く普及し始めている欧米に比べて、日本の状況は芳しくはない。一方で、日本はこれまで厳しいロックダウンなどを実施することなく、コロナ禍をやり過ごしてきたという現実もある。
戦略的PRコンサルティング会社のKekst CNCは、新型コロナウイルスの影響に関する同社8回目となる国際世論調査の結果を公開した。調査は日本、イギリス、アメリカ、ドイツ、スウェーデン、フランス各国の18歳以上の成人1000人ずつ、合計6000人を対象に実施された(調査期間:2021年4月22日〜4月30日)。
自国のワクチン政策や1年にわたるパンデミックへの対応の評価、そして東京オリンピック・パラリンピックの開催是非……。世界は今、コロナとどう向き合っているのか。
調査結果から8つのポイントを見ていこう。
なお、前提となる調査対象となった6カ国の感染者数、死亡者数は以下の通り。
前提となる各国の状況
・日本 人口:約1億3000万人、感染者:約67万人、死亡者:約1万1000人
・アメリカ 人口:約3億3000万人、感染者:約3257万人、死亡者:約58万人
・イギリス 人口:約6700万人、感染者:約445万人、死亡者:約13万人
・フランス 人口:約6700万人、感染者:約577万人、死亡者:約10万7000人
・ドイツ 人口:約8300万人、感染者:約359万人、死亡者:8万6000人
・スウェーデン 人口:約1000万人、感染者:約104万人、死亡者:約1万4000人
※感染者数は、5月17日段階のWHOダッシュボードデータを引用。
1.自国のコロナ対応、日本はダントツ最下位
出典:Kekst CNC COVID-19 Opinion Tracker - Edition 8
自国のパンデミックへの対応を、検査体制、接触管理アプリ、ワクチンの普及、感染者や非感染者への医療対応など、いくつかの項目についてスコア化した結果だ。日本はすべての項目において、自己評価が最も低かった。
日本は調査に参加した6カ国中、人口比率で見た感染者数、死亡者数がともに最も少ない。その一方で、国としての対応がうまくいっていると感じている人は圧倒的に少ないということになる。
2.ワクチンへの期待は高まりつづけている
出典:Kekst CNC COVID-19 Opinion Tracker - Edition 8
ワクチン接種への期待は世界中で高まり続けている。
このグラフは、「既にワクチンを接種した」か「接種したい」と考えている人の割合を過去3回の調査結果と合わせて図示したものだ。今回の調査結果では、イギリスで90%の人が「既にワクチンを接種した」「接種したい」と回答しており、ワクチン接種に肯定的な土壌が形成されている様子が伺える。
またスウェーデンでは、2020年9月の調査ではワクチンの接種を希望する人の割合が51%であったのに対して、4月の調査では84%と実に33ポイントも増加している。
これまで、世界ではワクチンの副反応に関する(デマを含む)さまざまな議論が続いているが、ワクチンに対する過剰な忌避感は抑えられているといえる。
一方、2021年2月からワクチンの接種が始まった日本では、ワクチン接種を希望する割合こそ増えてはいるものの、その割合は4月の段階で70%と、フランスと共に伸び悩んでいる。
3.ワクチン接種のスピード、イライラ増す日本
出典:Kekst CNC COVID-19 Opinion Tracker - Edition 8
各国で進められているワクチン接種。このグラフは、自国のワクチン接種のスピードについての評価だ。
自国でワクチンを開発できたイギリスやアメリカでは、その接種スピードについて満足している人の割合が多い。アメリカでは、2月の調査時から「ワクチン接種が遅すぎる」と回答した人の割合が28ポイントも減少している。
一方、日本では2月から5月にかけて、「ワクチン接種が遅い」と回答する人の割合が22ポイント増加している。
2月に医療従事者への接種が開始されてからも思うように接種スピードが上がってこなかった点や、予約システムの不備など、この間ストレスが溜まる状況が続いていたことが一つの要因といえるだろう。
なお、ワクチンの接種スピードが順調に加速している他のヨーロッパ各国でも、「ワクチン接種が遅い」という声の割合は以前から高い。ただし日本とはことなり、前回の調査以降に顕著に増加しているわけではない。遅いとはいえ、着実にワクチンの接種を進めているためだろう。なお、5月14日段階での各国のワクチン接種率は以下の通り。
調査に参加した6カ国のワクチン接種率(Our World in data参照)
日本:1回接種 3.37%、2回接種 1.37%
アメリカ:1回接種 46.42%、2回接種 35.96%
イギリス:1回接種 53.50%、2回接種 29.02%
フランス:1回接種 29.24%、2回接種 13.12%
ドイツ:1回接種 36.32%、2回接種 10.81%
スウェーデン:1回接種 31.63%、2回接種 9.74%
4.ワクチン接種に自信ない日本。強気のイギリス
他国のワクチン接種についての認識。数値が高いほど、その国のワクチン接種状況がうまくいっていると認識している。
出典:Kekst CNC COVID-19 Opinion Tracker - Edition 8
アンケートでは、他国のワクチン接種の動向に対する認識も調査された。
基本的にどの国もイスラエルでワクチン接種がうまくいっており、イギリスとアメリカがそれに続いていると認識している割合が多かった。イギリスやアメリカは、自国のワクチン接種がうまくいっていると認識している人が多く、イスラエルは自国の次にうまく行っていると考える人が多かった。
ほか、イギリスはアメリカ、イスラエル以外の国に対する評価が全体的に厳しく、アメリカは逆にイギリスとイスラエル以外の国に対しても「うまくいっている」と回答している人の割合が高かった(どの国に対しても約30%はうまくいっていると回答)。
なお、日本では自国のワクチン対応がうまくいっていると答えた割合はたった9%だった。
ドイツやフランスでも自国のワクチン接種がうまくいっていると答える人の割合は最も少なかったが、他国への認識とそこまで大きく乖離してはいなかった。
5.コロナ対策、日本はゆるすぎる?
自国の感染対策に関する認識。黄色いバーの値が大きいほど、対策がゆるいと感じている人が多い。
出典:Kekst CNC COVID-19 Opinion Tracker - Edition 8
このグラフは、自国の感染対策についての認識を「厳しい」「ちょうどいい」「ゆるい」の3択で調査した結果だ(わからないという回答もある)。
自国の感染対策の強度に対して、日本では「対策がゆるい」と回答する割合が70%を超えた。
一方、世界では複数回厳しいロックダウン政策などが取られることもあった中、対策が妥当であったと判断する人の割合が最も多かった。
6.大統領への信頼が超回復したアメリカ。ドイツではあらゆる権威が失墜
イギリス、アメリカ、ドイツの行政機関などに対する信頼度の推移。
出典:Kekst CNC COVID-19 Opinion Tracker - Edition 8
スウェーデン、フランス、日本の行政機関などに対する信頼度の推移。
出典:Kekst CNC COVID-19 Opinion Tracker - Edition 8
自国の政府や自治体、専門家集団の対応についての評価アンケートでは、各国の状況のちがいが見て取れる。
アメリカでは、バイデン政権が誕生すると、大統領への信頼度が大幅に回復した。一方、ドイツでは2020年からあらゆる政府機関への評価が急降下している。
なお、日本では唯一高かった専門家・医療従事者に対する信頼度が徐々に下がりつある状況が見て取れる。
日本の政府機関に対する信頼度はパンデミック初期から低かったものの、最新の調査では最低値を更新。地方自治体、厚生労働省、政府すべてに対して、信頼度が低い状況だ。
7.経済展望に「悲壮感」の日本
3カ月後の個人、および国の経済状況に関する調査結果。
出典:Kekst CNC COVID-19 Opinion Tracker - Edition 8
3カ月先の経済状況についての調査では、国によって大きく見解が分かれた。
ワクチン接種が広く進んでいるアメリカやイギリスでは、半数以上が経済の好転に期待が持てると回答。一方、日本では3分の2が経済の後退を懸念していた。
個人の経済状況についても、日本の回答者の約4割は、この先3カ月で状況が悪化するのではないかと回答している。一方アメリカでは、4割近くがこの先の個人の経済状況の好転に期待感じを持っていた。
8.五輪開催、アメリカは楽観視?
東京五輪の開催に反対と回答した人の割合。
出典:Kekst CNC COVID-19 Opinion Tracker - Edition 8
東京オリンピック・パラリンピックの開催是非についての調査も実施されている。このグラフは、開催に「反対」と答えた人の割合だ。
前回調査(2021年2月)と比較すると、日本国内で開催に反対する意見が56%から63%に増加している。イギリスでも反対と答える人の割合が半数だった。
フランスでも反対が賛成を上回り、全体の38%を占めたという。
一方、アメリカでは開催に反対している人の割合は23%まで低下。ワクチンの接種が進んだことで、楽観的になっているのではないかと分析されている。
また、高齢者や、収入が低い人ほど、開催に否定的となる傾向があった。
五輪を開催することで最もリスクを負うのは、間違いなく開催国の日本だ。
5月14日に開かれた菅義偉首相の記者会見では、五輪の開催判断について、政府分科会の尾身茂会長から厳しく指摘される場面もあった。
国内外で一定数開催を不安視する声がある以上、仮にこのまま五輪を開催しようというのであれば、国内に向けた感染リスクと医療負荷の評価について説明を果たすことは不可欠だ。さらには、これまで繰り返してきた「安心安全な五輪」を開催するための具体的な方策について、開催者の責任として世界に向けて説明する必要がある。
(文・三ツ村崇志)