撮影:伊藤有
アップルが進める自社設計半導体「M1」搭載Macの第2弾となる、M1搭載iMacが登場した。正式には5月21日から出荷が始まる。今回、一足早く手元にやってきた実機を5日ほど使うことができた。
新しくなったデザイン、アップルが胸を張る「ビデオ会議性能」はどこまで実用的なのか、検証してみよう。
1. デザイン一新、プロダクトデザインとしての「発見」も
化粧箱から出した直後。iMacは24インチ、背後の液晶は35インチのウルトラワイド液晶。
撮影:伊藤有
新型iMacの「新鮮味」は、一新されたデザインにある。最大7色が選べるカラバリの多さは、アップルの自信を物語っている(一般に、カラバリが増えるほど在庫管理が難しくなるため、色数が多いモデルは売り切るだけの自信がなければ作れない)。
とはいえ、手元にきたのは本体色シルバー、つまりもっともコンサバなカラー選択のモデルだ。実はホームオフィスに置くなら一番落ち着いたモデルを、と思っていたので、個人的にはこれがよかった。
新型iMacの特徴の1つ、磁石で吸着する電源端子。これ1本で、電源供給と、有線LANの接続も兼ねる。
撮影:伊藤有
本体とは別体の電源アダプター。右に見えるのが有線LAN端子だ。
撮影:伊藤有
もっとも、いったん設置してしまうと、ボディーの色を自己主張する部分はそれほど多くはない。
液晶周辺は全モデル白で統一されていて、一番目立つのは液晶下部の、いわゆる「アゴ」の部分のみ。とはいえ、それなりの面積があるから、「無難にシルバー」という選択肢も全然アリだと思う。
M1搭載の新型iMac。左に置いているのはM1搭載MacBook Air。画面サイズの違いがよくわかる。前面は1枚ガラスで、一面がつるっとした素材感になっている。
撮影:伊藤有
アップルのプロダクトデザインへのこだわりは一貫しているが、iMacでも日常づかいで「おっ」と思わせられる部分があった。
キーボードをスタンド部分に置くと、奥行きがちょうどぴったり。こういう設計に「たまたま」などはないわけで、使わないときに「ここに片付けてね」というデザイナーのメッセージなんだろう。
このとおり、付属キーボードはぴったりとiMacのスタンド部分の上に収まる。
撮影:伊藤有
これから買う人向けの情報としては、iMacの前面全体がガラスで覆われていることによる「質感」は、ちょっと想像と違う可能性がある部分だ。たとえばシルバーの場合、もっとギラギラした金属っぽさを全面に押し出した「シルバー」なのかと思ったら、どちらかというと「グレー」っぽい、優しい色に感じる。
特に下記のようなカラバリ写真を見て「濃い色」をイメージしている人は、アップルストアなどで実機を見ておいたほうが良いかもしれない。
出典:アップル
一方、背面はいつものギラっとしたシルバー。こちらが実機を見る前のイメージに近かった。
背面は、見慣れたMacらしいアルミの金属っぽい質感。このモデルではUSB Type-C端子が4ポートあるが、下位モデルは2ポート。
撮影:伊藤有
なお、11.5ミリというボディーの薄さは、確かに注目点ではあるものの、写真のように壁を背にして設置するような場合には残念ながらほとんど意識できない(オフィスのようなアイランド型のデスク配置なら、全く違うだろう)。
2. カメラの「Zoom性能」は体感できるレベルでキレイ
新型iMacのカメラ。以前は一度も使ったことがないという人も少なくなかったが、今やテレワークの最重要装備の1つになった。
撮影:伊藤有
テレワーク時代の実用装備として重視されることが増えてきた「Webカメラ」。iMacの場合は「FaceTime HDカメラ」と呼ぶ。製品発表では、アップルが「Mac史上最高のカメラシステム」と胸を張っていたのは記憶に新しいところだ。
元々Macは、M1搭載MacBook Pro/Airに世代交代した時点で、一段上のカメラ画質に向上していた。アップル関係者によると、画質向上はM1の画像信号プロセッサー(ISP)による効果が大きいと言うが、実際ノートPC内蔵カメラとしてはかなり良質な部類だった。
さて、iMacのカメラ機能は、結果から言うと「さらにその一段上の性能」はありそうだ。
上がiMac、下がM1搭載MacBook Airでの画面。光源と撮影タイミングはまったく同じでも色みが違い、iMacの方がより好ましく、自然だ。
撮影:伊藤有
上がiMac、下がM1版MacBook AirのカメラによるZoom画面(背景の一部はぼかし処理をしている)。色みの違いのほか、左奥の扉の描写なども、iMacのほうが自然な映像になっているのが分かる。
カメラ機能で興味深いのは、Zoom映像を見た相手の反応だ。
「映像がいつもより妙にシャープ。なぜ?」という声や、「Zoomのバーチャル背景がいつもよりくっきり切り抜けている」「Zoomの映像なのに生々しさを感じる」など、動画だとより、カメラの良さが際立つようだ。
同じM1の画像処理とはいえ、根本的に絵の質が違う印象もある。光学性能の違いもあるのかもしれない。
本体内蔵マイクアレイ部分。上面の2つの穴が通常のマイク、背面に1つある穴はノイズキャンセル用途に使われる。
撮影:伊藤有
一方、マイク性能についても、アップルは「スタジオ品質」をうたうなど相当自信がある。ただ、これについては、「設置場所」の影響をかなり受けることもわかった。
例えば、今回の設置環境はすぐ後ろに壁があり、音が反響しやすい。こういう場所にiMacを設置すると、声の反響までそのまま拾ってしまう。Zoomの相手からは、「音質としては確かに良いが、聞き取りやすさではAirPods Proを使った方が良いかも」という、微妙な評価になってしまった。
万全の室内環境なら、クリアな音になる、ということかもしれない。
3. 気になる「性能」は、そのまま「MacBook Pro 13インチ」だった
新型iMacのベンチマークテスト結果。以前レビューしたM1版MacBook Proと、ほぼ同じ性能であることが確認できた。
作成:伊藤有
性能についても、各種ベンチマークテストで確認してみた。
iMacが搭載するM1チップは、現在バリエーションが2種類しかない。だから当然ではあるのだが、以前掲載したM1版MacBook Proレビューでのベンチマーク結果と、誤差程度の違いしかない結果になった。基本性能は完全に同じといって良さそうだ。
M1チップ自体が速いので、絶対性能自体は、「速い」と言える部類。とはいえ良くも悪くも、デスクトップ機だからという、特別な性能アップはない。
4. 「4.5KのRetina液晶」の品質、スピーカー音質は○
ディスプレイ部分の稼働領域。この程度、首振りができるなら十分だ。
撮影:伊藤有
液晶ディスプレイとサウンドの品質については、このクラスとしては非常に高水準なものを搭載している。
特に大きいのは、液晶の品質だ。24インチの画面サイズは今や特筆すべきサイズ感ではないものの、4480×2520ドットという非常に高解像度、かつ高色域(P3対応)のパネルは市場には皆無だ。単に映画作品を楽しむのにも、臨場感のある視聴体験ができる。
もちろん、高解像度液晶とM1のパワーを生かした動画編集、フォトショップなどの写真編集は、iMacの性能に最も満足できる作業の1つになる。
スピーカーの音は本体下部から出てくるようだ。下から覗くと規則的に並んだパンチングのスリットがある。こんな目につかない場所だろうとも、デザイン的にぬかりがないのはさすがの部分。
撮影:伊藤有
なお、試用期間中、YouTube Musicでポップスを中心に色々な洋楽を流し聴きしていたが、ちょっとした外部スピーカーの音質レベルは余裕で超えていると感じる。
iMacを音楽を聞くために使う、というのも昨今の住宅事情を考えると、十分実用的だ。
5. 実は最も「最新」が詰まっていたキーボード
アップル純正Bluetoothキーボードとしては初の指紋認証「Touch ID」搭載になる。別売は現時点ではないので、新型iMac専用キーボードということになる。
撮影:伊藤有
最後に、iMacの隠れた注目ポイントのキーボードについて。
アップル製品として初めて、Bluetooth接続のキーボードに指紋認証(Touch ID)を搭載することになった。単体販売はまだだ。
Bluetooth接続ということで、初回起動時の設定がどんな風になるのか? 興味津々で初回起動すると、キーボードのスイッチを入れるように画面表示が出るのが「ノート型Macとは違う」体験。だた、そのあとのペアリング作業はどこでペアリングされたかわからないほど。
その後のTouch IDの設定操作に移るが、体験としてはノート型Macとまったく同じというスムーズさだった。
一方で「Touch IDは本当に必要なの?」と思う人もいるかもしれない。個人的には、圧倒的に「あった方がいい」派だ。実際のところ、毎日使う「スリープからの復帰」、アプリ購入などの決済、ブラウザーに覚えさせておいたパスワード入力時など、Touch IDを使うシーンは非常に多い。間違いなく、操作がラクになる。
配列が素直なこともあって、キーボードとしてのデキもなかなか良い。
Touch IDの位置が右上端にあるため、バックスペースを押す際に誤タップしてしまうことが何度かあったが、メリットが大きいので、あえてTouch IDなしキーボードにしようという気には全くならない。
まとめ:Mac miniやAirと比較した「費用対効果」をどう見るか
ということで、在宅向けのデスクトップPCとしてみると、なかなかない、こだわりを詰め込んだ製品と言える。M1搭載MacBook Proが登場したときほどの衝撃はもちろんないが、ツッコミを入れるような部分は、設計においてはまったくない。
気になるのは、費用対効果だ。これは、評価の力点をどこに置くかで変わってくる。
「性能」だけで見るなら、同じM1搭載でほぼ性能が同じMac miniを買う方が、iMacよりずっと安い。最下位モデルで比較すると、価格差は実に約9万8000円。MacBook Airと比べても4万円差ある。
一方、4Kを超える高解像度と、iMacのような高色域表現ができるディスプレイは、24インチクラスには皆無だ。カメラ性能やサウンド性能の合わせ技も入れると、「似たようなデスクトップ機」はない。
そう考えてみると、「iMac」というデザインと、この装備のパッケージングにひかれるかどうか、に買い判断がかかってくると言える。
(文・伊藤有)