神山まるごと高専は、神山中学校の校舎をリノベーションするなどして開校する予定。写真は2019年の神山まるごと高専プロジェクト発表時に記者公開した際のもの。
撮影:伊藤有
名刺アプリのSansan創業者・寺田親弘氏が理事長をつとめ、徳島県の神山町で2023年に開校する私立の新設高専「神山まるごと高専」。同校の設立準備財団が5月18日、カリキュラムディレクターにクリエイティブ集団Party代表で京都芸大教授の伊藤直樹氏が就任することを発表した。会見ではカリキュラムの骨子も初めて公表された。
IT企業などの高専人材「経営層」が寄付で支援
左上から、同校クリエイティブディレクターの山川咲氏、Sansan創業者で理事長の寺田親弘氏、カリキュラムディレクターの伊藤直樹氏、校長に就任する大蔵峰樹氏。
出典:神山まるごと高専オンライン発表会見より
「私立の独立系高専は日本に存在してなく、初の取り組みになる」
「理事長という立場で、新しいスタートアップをやる覚悟でいま、奔走している」
2023年4月の開校まで2年を切るなかの心境を、理事長を務める寺田氏は語った。
高専プロジェクトにかかわるメンバーは起業家界隈の有名人ばかり。校長には高専出身でZOZOテクノロジーズ元CTOの大蔵峰樹氏、クリエイティブディレクターにはクレイジーウエディング創業者の山川咲氏、そして今回、Party代表の伊藤氏が「カリキュラムディレクター」で参画する。
理事長を務める寺田氏自身も一定の寄付をするが、企業や個人からの寄付募集もこれまで奔走してきた。関係者のネットワークのなかで、大手の高専出身経営者などが寄付に名乗りをあげはじめている。
出典:神山まるごと高専オンライン発表会見より
新設高専にあたっては、資金面、カリキュラム、教鞭をとる教員募集など問題が山積みだ。
そのなかで、資金面について初めて具体的に言及し、「すでに文部科学省の設置認可のラインである12億円を超えた」ことを寺田氏が明かした。
企業版ふるさと納税などのスキームを使い、寄付に公に賛同している企業には、ゲーム会社のアカツキ、さくらインターネット、発達障害支援などの教育サービスを手がけるLITALICO、ヘルスケアシステムのJMDCが、既に名乗りを上げている。
卒業生の4割を「起業家」に、ファンド出資も検討
出典:神山まるごと高専オンライン発表会見より
カリキュラムの方針は「工業系大学」「美術大学」「MBA(経営学修士)」を組み合わせた教育だ。
カリキュラムディレクターの伊藤氏によると、これを実現するための「モノをつくる力」を生み出す授業例として、通常の学校教育に加えて、4つの要素のカリキュラムを構想している。
出典:神山まるごと高専オンライン発表会見より
まだ確定ではないものの「SFプロトタイピング」といった授業では、SF作家とともに50年後の未来をストーリーで描き、その世界を現在に逆算して、今授業で「何をやるべきか」「どういうデザインが必要か」を考えていく、という。
理想としているカリキュラムは、一言でいえば、学問や研究が複数の分野にまたがる「学際的な教育をしている」学校。大学で言えば、マサチューセッツ工科大学(MIT)や、日本でいえば慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)が近い、と説明する。
神山まるごと高専では、現在、教員採用を最終募集の教員枠として進めている。特に数学については、「ソフトウェア工学における情報数学と呼ばれる離散数学、ブール代数まで教えられる教員が理想」と、高度な数学教育を意識していることをうかがわせる。
カリキュラムディレクターの伊藤氏によると、卒業生の進路は「就職3割」「(大学)編入3割」「起業4割」を目指していると意気込む。
起業家育成については、今後15億〜20億円規模までを目標に寄付集めを続け、卒業生の起業や活動を資金援助するファンド設置も検討していく方針だ。
(文・伊藤有)