電気自動車(EV)や自動運転車が注目を浴びるのと並行して、その開発にあたる人材の不足が深刻化している。
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電気自動車(EV)や自動運転関連の市場が活況を呈している。
バイデン米大統領が電気自動車関連の仕事を生み出そうと国民に呼びかけたことを受け、必要な人材の確保に向けた動きも急加速している。
ただ、電気自動車や自動運転車を市場投入するには、人工知能(AI)の専門家、機械系・化学系のエンジニア、サプライチェーンストラテジスト、環境科学者、車載電池の専門家など、さまざまな分野の優秀な人材が必要となる。
テクノロジーの風景が刻一刻と変化していくこうした産業分野の課題に対応するには、最新のテクノロジーやサイエンスに遅れをとらないよう、継続的なスキルアップのためのソリューションが不可欠だ。
端的に言えば、自動車の電動化や自動化において求められるのは、必ずしも専門教育を受けるために学校に通うことではない。
とはいえ、バイデン政権が国内の電気自動車市場の拡大加速を推進するスタンスを明らかにしたことで、(大統領選挙後の)2020年11月以降、この分野のスキルを持った人材の需要は急増している。
同時に、そうした人材需要に応えるビジネスへの需要も急拡大している。
人材紹介会社エナジーアワークス(EnergeiaWorks)のウィリアム・リウッツァは足もとの状況をこう説明する。
「再生可能エネルギーの専門家を採用したいと言って連絡してくる企業があとを絶ちません。電話を置く間もないくらいです。当社のインバウンドリード(=人材紹介を依頼した見込み客)は前年の3倍に達しています」
電気自動車や自動運転関連のスタートアップが次々登場している背景には、自動車業界の主要プレーヤー数社が示した投資計画がある。
米フォードや米ゼネラル・モーターズ(GM)などの大手自動車メーカーはここ数年の間に、電気自動車へのシフトを表明。世界各国の規制当局もそれに追随し、相次いで内燃機関(ガソリン)の新車販売を禁止する動きに出ている。
そうした状況変化を受けて、急激に拡大しつつある電気自動車サプライチェーンに関係する企業やスタートアップはいま、需要に対応するため継続的かつ積極的に人材を育成する必要に迫られているわけだ。
クラウドベースのAIソフトウェアを提供する米アメサイト(Amesite)のアン・マリー・サストリーCEOは、Insiderの取材にこう答えている。
「優秀な人材を確保することそのものが難しいわけではありません。問題は、そうした優秀な人材が必要とされる適切なスキルを身につけているかどうかです。
伝統的な学位について言えば、ほぼすべての工学系エンジニアはエンジン(内燃機関)について講義を受けています。では、電動パワートレインや車載電池、パワーエレクトロニクス(=電力の変換と制御に関する技術)、電気機械のカリキュラムはどうだったかと聞くと、非常に手薄だったり、なかにはまったくゼロという人もいるのです」
このように、伝統的な工学の学位と実際に自動車をつくる知識や技能との間にはギャップがあり、だからこそ電気自動車や自動運転分野の企業やスタートアップは、自社の開発チームが継続的に学習できる方法を何かしら取り入れる必要に迫られている。
自動車専門コンサルタント、インビクタス・アイカー(Invictus iCAR)のトニー・ポサワツは次のように語る。
「自動車産業において技術革新と移行が起こるときには、これまでも(新たな技術に対応する)特殊なスキルが不足し、人材の確保が難しくなることがありました。
そうしたスキルのなかには、作業の現場で一定の訓練を積ませることで教えられる基礎的なレベルのものもあれば、実際の製造工程で実体験しないと身につかないものもあります」
さらにそうしたスキルアップは企業内教育として行われる場合もあるし、ユダシティ(Udacity)のように、オンライン学習プラットフォームを通じてAIや機械学習、ロボティクスに関するマイクロクレデンシャル(資格認定)を提供する企業の力を借りて行われる場合もある。
ユダシティのゲイブ・ダルポルトCEOはこう語る。
「大学のシステムは、市場の需要を満たすだけの自動運転の専門知識を持ったエンジニアを育成・卒業させるようにはつくられていません。そこにユダシティの入り込む余地があります。私たちの提供するプログラムは、世界中の何千人もの人々に学習機会をもたらすことで、産業をスケールアップする力を生み出すのです」
自動運転関連(LiDAR開発)の有力スタートアップ、ルミナー・テクノロジーズ(Luminar Technologies)バイスプレジデント(人材開発担当)のタイ・トレンティーノは、組織としての観点から、ユダシティのようなマイクロクレデンシャルサービスは、従業員にハードとソフトの両方のスキルを身につけさせるのに使えると評価する。
また、全固体電池の開発を進めるスタートアップで、米フォードと独BMWが出資するソリッドパワー(Solid Power)は、急速な変化を遂げつつある自動車産業のなかで、自らを駆り立てて成長させる能力を示す指標としてマイクロクレデンシャルを評価し、採用に際してはその保有者を優遇している。
「当社はさらに、米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)、コロラド大学ボルダー校、コロラド鉱山大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、アルゴンヌ国立研究所など、多くの大学や国立研究機関と連携し、ユニークな従業員教育を行っています」(ソリッドパワー担当者)
電気自動車市場の成長と発展に伴って人材も成長していくなかで、当初からはっきりしていることがひとつある。
それは、教育産業も自動車産業も、企業はおしなべて労働力を教育するための新たな手法を模索しているものの、差し迫った需要を満たすのに十分な人材を確保できるかどうかはいまだに不透明ということだ。
「当社は、石油・ガスなど先行き不透明な他の産業から転用可能なスキルを持つ人材を引き抜いて(自動車産業の企業に)紹介していますが、それだけでは足りないと感じています。
足もとでは、人材紹介を引き受けてもなかなか適材が見当たらない状況です。企業はこれまで以上に専門的能力の開発と人材育成に力を入れる必要があるでしょう」(エナジーアワークスのリウッツァ)
リウッツァによれば、再生可能エネルギー分野やモビリティ分野において、人材のスキルアップを図り、(伝統的学位と現場で必要なスキルの間にある)教育ギャップを解消するには、企業が既存の人材を対象とした教育プログラムや専門的能力開発プログラムに投資すると同時に、まだ手つかずの他産業から人材を引き抜いてくる必要があるという。
(翻訳・編集:川村力)