あらためて押さえておきたい、新型コロナ「mRNAワクチン」のよくある誤解【再掲】

世界に混乱をもたらしている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対抗すべく、世界各国でワクチンの接種が進められている。国内でも2月17日から医療従事者向けに、ファイザー社(アメリカ)とBioNTech社(ドイツ)が開発した「mRNAワクチン」の接種が始まった。

4月13日からは高齢者向けのワクチン接種も開始され、徐々にではあるもののワクチンの接種率は高まっている。

菅義偉首相は5月7日の記者会見で、ワクチン接種を1日100万回ペースまで加速させると宣言。GWが明けた5月10日以降、ワクチンの接種回数は徐々に増加している。5月24日からは、21日に承認される見通しのモデルナ社(アメリカ)のmRNAワクチンを使った大規模接種が始まろうとしている。

ワクチンが徐々に普及していく中で、改めて国内で接種が進められているmRNAワクチンに関する基礎知識をおさらいしておきたい。

※以下、2月24日に公開した記事の一部の情報を更新して、再掲しています。

国内で接種が始まったCOVID-19用のワクチンは「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン」と呼ばれるもので、従来のワクチンとは仕組みが少し異なる。

mRNAワクチンの仕組みや、予想される副反応について、国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターの長谷川秀樹センター長に話を聞いた。

mRNAは、生命の設計図の「コピー」

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日本でも2月17日に医療従事者に対してワクチンの接種がはじまった。

Behrouz Mehri/Pool via REUTERS/File Photo

ファイザーとBioNTechによるmRNAワクチンの有効率(発症を抑える効果)が95%と報告されたとき、長谷川センター長は「素直にすごいと思った」と話す。

「インフルエンザの不活化ワクチンの有効率は30〜60%(※)です。mRNAワクチンという新しい原理によって誘導される免疫が強い、ということなのでしょう」(長谷川センター長)

※インフルエンザワクチンの有効性は「接種したグループ」と「接種しなかったグループ」で比較されているが、今回のmRNAワクチンの有効性は「mRNAなどワクチン成分を含んだものを接種したグループ」と「ワクチン成分が入ってないものを接種したグループ」で比較されたもの。

では、mRNAワクチンの「mRNA」とは何だろうか。この言葉の意味を知れば、mRNAワクチンの仕組みをおおよそ理解できるようになる。

mRNAという言葉を聞いたことはなくても、「DNA」という言葉なら聞いたことがある人は多いだろう。

DNAは生命にとって重要な情報が記録されている「遺伝物質」であり、“生命の設計図”と例えられる。この設計図を元に、私たちの体内ではさまざまな「タンパク質」が作られている。

体内には、赤血球の中で酸素を運ぶ「ヘモグロビン」や、唾液に含まれてデンプンを分解する「アミラーゼ」など、数万種類ものタンパク質が存在し、さまざまな役目を果たしている。

生命を維持するために、タンパク質は欠かせない。

ただし、私たちの身体の中では、なにも設計図であるDNAから直接タンパク質が作られるわけではない。DNAは、細胞の中で1セットしかない貴重なものだ。そのため、実際にタンパク質を作る際には設計図をコピーし、そのコピーをもとにタンパク質が作られている

実は、そのコピーこそ「mRNA」なのだ。

体内では、DNAからmRNAが作られ、さらにそのmRNAからタンパク質が作られている。

新型コロナ表面のトゲを作らせる

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新型コロナウイルスの電子顕微鏡画像。

出典:中国国立病原体ライブラリ

今回、ファイザーとBioNTechが開発したmRNAワクチンには、新型コロナウイルスがもつ「スパイクタンパク質」の設計図となるmRNAが含まれている。

スパイクタンパク質は、新型コロナウイルスの周りにある「トゲ」のようなもので、ヒトの細胞内に感染(侵入)するときに機能する。

では、実際にmRNAワクチンを接種したときの流れを想像してみよう。

まず、ワクチンとして接種したmRNAが細胞の中に入ると、細胞がもともと持っている「mRNAからタンパク質を作る仕組み」を利用してスパイクタンパク質が作られる。 その後、細胞内で作られたスパイクタンパク質は一度細胞の外に放出され、免疫細胞に捕食、分解される。

このとき、免疫細胞はスパイクタンパク質の破片を細胞の表面に送り、別の種類の免疫細胞がその破片を目印に新型コロナウイルスを“敵”として認識する。これをきっかけに、敵を攻撃する「抗体」が作られるようになる

抗体の量は時間が経つと少なくなるものの、免疫細胞がスパイクタンパク質を“記憶”し、次に備えている。その後、本物の新型コロナウイルスが体内に侵入してきたときには、この記憶を頼りに抗体をすぐに作り出し、タンパク質を目印にウイルスを攻撃できる。

こうして、ウイルスが体内で増えるのを防ぎ、COVID-19の発症や重症化を防ぐことができるというわけだ。ただし、臨床試験では感染予防効果までは十分に評価されているわけではないので、この点について追跡調査を待つしかない(※)。

※その後、感染予防についても高い効果があることを示唆する研究結果が報告されている。

ワクチンにまつわるよくある誤解

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川崎で行われたワクチン接種のための模擬訓練のようす。冷凍庫からワクチンを模したケースを取り出している。mRNAワクチンは壊れやすいため、こういった低温管理が必要とされる。

REUTERS/Kim Kyung-Hoon/File Photo

ワクチンにまつわる誤解は多い。たとえば、「ワクチンを接種することでCOVID-19を発症する」といった噂や、「ウイルスの遺伝子がヒトのDNAに組み込まれると」いった噂だ。

従来からあるワクチンのうち、ウイルスそのものを弱らせて利用する弱毒化ワクチン(生ワクチン)は、ごくまれにワクチン接種でそのウイルスがもたらす感染症を発症することがある。

一方、mRNAワクチンで作られるのはスパイクタンパク質という、新型コロナウイルスのごく一部のみ。

「スパイクタンパク質のみでは、COVID-19が発症したり、ましてや他の人に感染させたりする、ということはありません」(長谷川センター長)

と、長谷川センター長はワクチン接種によって新型コロナに感染することや、そこから他人に感染を広げることはないと話す。

また、mRNAは非常に壊れやすく、その“寿命”はせいぜい1週間程度。ワクチンの接種後、いつまでも体内でスパイクタンパク質が作られるわけでもない。

そして、mRNAは確かにDNAと似たような物質ではあるが、mRNAがDNAに取り込まれることはない。

「レトロウイルスという種類のウイルスは、RNAからDNAを作ることができ、感染した細胞のDNAの中にウイルスの遺伝子が組み込まれるという現象は起こりえます。

ただし、それには『逆転写酵素』というタンパク質が必要です。今回のワクチンには逆転写酵素を作るmRNAは含まれておらず、人間も逆転写酵素をもっていません。そのため、私たちの細胞の中にあるDNAが変化する、ということはあり得ません」(長谷川センター長)

mRNAワクチンは「急造ワクチン」ではない

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新型コロナウイルスのワクチンを接種する様子(撮影:2021年2月17日)。

Behrouz Mehri/Pool via REUTERS

mRNAワクチンは新しいタイプのワクチンで、急ピッチで仕立て上げたものと思われているかもしれない。

しかし、実際には、何年も前から研究開発が進められており、ようやく日の目を見ることができた技術、という表現が正しい。

「この10年間で、mRNAワクチンに関する特許出願は113件もあります。狂犬病やジカ熱に対する臨床試験も行われてきました。

BioNTechも、ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症を対象に臨床試験の実施例があります。その流れの中でCOVID-19が現れ、これらの実績を応用できたわけです」(長谷川センター長)

前述したように、mRNAは壊れやすい物質だ。

そのため、ワクチンとして利用する場合には、「脂質ナノ粒子」という脂質の膜でできたカプセルによって保護された上で、細胞内に届けられる。

また、細胞内に大量にmRNAが入ってくると、細胞はそのmRNAを異物とみなし、積極的にmRNAを壊そうとする性質がある。そこで、mRNAが異物と認識されないよう、mRNAの一部分を変えたものがワクチンとして使用されている。

このように、今回のワクチンを成立させるために、ほかにもさまざまな工夫が施されている。今回のmRNAワクチンは、急造ワクチンどころか、基礎研究から応用研究までを含めた、これまでの研究の集大成ともいえる。

副反応は起こりうるが、知っておくことが大切

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ファイザーのワクチンを接種した後に、なんらかの症状を報告した人の内訳。総接種回数は1200万回以上で、この報告をした人数は約99.7万人。この図の%は、99.7万人の中での割合を示している。

出典:CDCのデータをもとに編集部が作成

今回のmRNAワクチンについては、副反応にも関心が寄せられている。副反応がないに越したことはないが、一定の確率でどうしても起きてしまう。

長谷川センター長は、副反応の正確なメカニズムは不明としながら、次のように話す。

「副反応には発熱や倦怠感(だるさ)、頭痛などが報告されています。これらは、通常の風邪にかかったときにも見られます。今回のワクチンでは、mRNAそのものが自然免疫受容体(細胞内にある免疫システムの一種)を刺激したり、スパイクタンパク質に対する免疫反応が起きたりするので、その反応が風邪の症状とよく似ているのかもしれません」(長谷川センター長)

副反応の種類や程度は人によるが、ほとんどは1〜2日でおさまっている。

ワクチンを接種する際、心配なら翌日や翌々日は事前に休暇を取っておくのもよいだろう。

また、海外では、約10万回に1回という非常に稀な頻度ではあるものの「アナフィラキシー」という急性反応も報告されている。

アナフィラキシーが起きるのは接種後15〜30分がほとんどだが、エピネフリンという治療薬で対処できる。そのため、今回のmRNAワクチンの接種でも、接種後最大30分は施設内に待機するというルールが定められている。

また、ワクチン接種後の死亡例については、十分注意して情報をたどっていかなければいけない。ファイザー・BionTech以外のワクチンも含めて、アメリカでは既にワクチンは5200万回以上接種されている。2月14日までに、接種した人たちのうち934名(0.0018%)が亡くなったと報告されている。

ただし、この数字はワクチンの接種との因果関係の有無にかかわらず、あらゆる死亡例を含むものだ(交通事故や階段からの転倒など)。CDCによると、少なくとも現時点では、ワクチン接種と死亡の関連はないとされている。

最後に、長谷川センター長は次のように呼びかける。

「副反応が起きたとしても、事前に起こりうることを知っているかどうかで受け止め方はかなり変わります。事実に基づいた正しい情報を仕入れておくことが重要です」

なお、5月12日に実施されたワクチン分科会副反応検討部会の資料で、国内の副反応の発生状況を確認できる。確認する際には、上記の通り因果関係の考え方については十分注意して欲しい。

(文・島田祥輔

●参考文献

首相官邸ホームページ「新型コロナワクチンについて」

ファイザー社プレスリリース「ファイザーとBioNTech、New England Journal of MedicineにBNT162b2 COVID-19ワクチン候補の主要な国際共同第3相試験結果を公表」

N Engl J Med 2020; 383:2603-2615 DOI: 10.1056/NEJMoa2034577

米国疾病対策予防センター「Allergic Reactions Including Anaphylaxis After Receipt of the First Dose of Pfizer-BioNTech COVID-19 Vaccine — United States, December 14–23, 2020」

米国疾病対策予防センター「Selected Adverse Events Reported after COVID-19 Vaccination」

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