コロナ禍が収束の気配すら見せなかった2020年の暮れ、マンディー・リー(29)は外に出るよりもスマホを見ている時間が長くなっていた。
中でもリーが時間を費やしたのは、ご多分に漏れずTikTokだ。その後まもなく、リーは「購入品」トレンドにハマった。最近散財したものをシェアする動画なのだが、数万円以上使った購入品の山を自慢する内容も少なくない。
程なくしてリーも、SNSで人気のブランドであるハウス・オブ・サニー(House of Sunny)やパロマウール(Paloma Wool)のショッピングを始めた。@OldloserinBrooklynというユーザー名で、フォロワー向けに戦利品の内容を投稿し始めたのだ。
「ロックダウンで空き時間が増えただけではなく、パートナーと出かけることもなくなってお金がありました。そこで、すごく流行っている服に散財する格好になってしまったんですね。着ていくところがあるわけでもないのに……」とリーは話す。
最初はファッションの最新トレンドに乗っている自分をフォロワーに見てもらおうと思っていただけのはずが、だんだん自分のファッションスタイルを失い始めていった、とリーは言う。また、TikTokのホーム画面に同じような服が何度も出てくるのにも飽きてしまった。
「今思えば、洗脳されてましたね」と言うリーのTikTokのアカウントは今、過剰消費を避けつつ、見る人が自分らしいスタイルを作っていくための内容に変わっている。
75億回視聴の一大ハッシュタグに高まる批判
初期のYouTubeで人気を博した購入品紹介動画が、今はTikTokで流行している。次々に新しい服を何十着も着て見せていくクリエイターの動画は、すぐに何百万もの視聴数を稼ぐ。TikTokで「haul(購入品)」のハッシュタグをつけて投稿された動画(ファッションが多い)は、これまでに75億回も視聴されている。
ただ同時に、この状況を批判する動きもある。こうした動画はファストファッションの過剰消費を促進し、多くの商品が結局捨てられてしまう、というものだ。
ファッションが環境に与える影響、特に安価なファストファッションから生まれるインパクトは世界的な懸念事項になっている。
国連環境計画のデータによると、2018年には、ファッション業界は世界の廃水の2割、炭素排出量の1割を占めていた。毎秒ごとにごみ収集車1台分の衣服が埋め立て地に送られるか焼却されており、2050年には世界の炭素予算(地球温暖化を抑えるための炭素排出量の上限)の4分の1をファッション業界が占めることになるかもしれないという。
ファストファッションの商品の多くに含まれるポリエステルは分解が容易でなく、洗濯すると合成マイクロファイバーを放出し、それが河川や海洋に流れ込んでいく可能性がある。さらに、アパレル業界は、その劣悪な労働環境や低賃金についても批判されることが多い。
つまり、お金を使えば使うほど視聴回数を稼げる購入品紹介動画のトレンドが、こうした問題をさらに悪化させているのではないか、という批判が起こっているのだ。
まだ少数派ではあるものの、その声は次第に大きくなってきている。TikTokで「overconsumption(過剰消費)」というハッシュタグの付いた動画は150万回視聴されており、持続可能性を重要視する動画クリエイターたちは他のTikTokユーザーに対し、こうした無駄の多いファッション習慣について警鐘を鳴らす。
2020年に『ファストファッションとの関係を断ち切るには(How to Break Up With Fast Fashion)』を出版した、スローファッションを支持するジャーナリストのローレン・ブラボー(Lauren Bravo)は言う。
「恐ろしいのは、大量消費を美化していることです。こうしたTikTok動画のカバー(サムネイル)画像では、開ける前の購入品が山のようになっていたり、ずらっと並べられていたりします。見る人はファッションとして評価している訳ですらなく、ただその量に惹きつけられているのです」
ヴィンテージ・ファッションに特化するTikTok動画クリエイターのラビア・アバシ(Rabia Abbasi)も最近、同様の声を上げる動画をアップした。
「買ったものそれ自体が悪い訳ではなく、頻度や1回当たりの量が問題だと思います。それが過剰消費を煽っている訳ですから」
「modernvintage_rabia」のアカウント名でファストファッション以外の選択肢をフォロワーに示すラビア・アバシ
Rabia Abbasi
リーもこう続ける。
「考えれば考えるほど、この数年間で過剰消費を見ることが当たり前になり、それを美化してきたことに嫌悪感が募ります。インフルエンサーたちには今やこの過剰消費が期待されているんですよ」
アルゴリズムによって加速した購入品紹介のトレンド
SNSでの購入品紹介がポピュラーになったのは2000年代半ばからだが、本稿のために取材したTikTokユーザーたちは、TikTokのアプリの特性によりさらにトレンドが加速した、と話す。ホーム画面の「レコメンド」はアルゴリズムによって決定されるが、ここにはまだフォローしていないクリエイターの動画も表示される。フォロワー数が比較的少ないクリエイターでも、購入品紹介動画ならばこのレコメンド枠に入ってくることがあるのだ。
TikTokで最近ファッションの過剰消費について投稿しているメイクアップアーティストのアリス・メイ(22)は言う。
「フォロワー数が比較的少ない、普通の人のアカウントの購入品紹介動画が流れてくるんです。その人たちのそれ以外の動画を見ると、視聴数は200回くらい。でもそうしたアカウントがSHEIN(シーイン。オンライン展開するファストファッションブランド)での購入品紹介動画を投稿すると、50万回くらいの視聴数が稼げるんです」
TikTokの動画の短さもこうした動画が量産される一因になっていると指摘するのは、前出のリーだ。
「YouTubeならこのジャンルの動画でも7分だったり50分だったりしますが、TikTokは15秒です。簡単に作れるからどんどん出てくるのです」
サステナブルなファッションや生活について投稿しているリリー・ファン(Lily Fang)は、TikTokの動画に対するコメントがポジティブかネガティブか、アルゴリズムが理解できている訳ではないのではと考える。
「だから批判的な反応があるにもかかわらず、こんなに多くの購入品紹介動画が溢れているのでしょう」
TikTokで「imperfect idealist」のアカウントで持続可能性やスローファッションについて投稿するリリー・ファンには4万人近いフォロワーがいる。
Lily Fang
TikTokで欧州・中東・アフリカにおけるファッション、ラグジュアリー、リテールブランドとのパートナーシップを統括するカサンドラ・ラッセル(Cassandra Russell)は、ある声明の中で、従来のファッションルールが「多様なクリエイターたち」から「批判されている」中、TikTokはファッション業界に変化をもたらしている、と言っている。
「魅力的で先鋭的なスタイルはTikTokにおいてこれからも人気であり続けると思います。一方でTikTokのユーザーがサステナビリティについて対話し、ヴィンテージや古着を支持しており、ものづくりへの大きなうねりにつながってすらいます」
ブランドに過剰消費を止める責任があるという批判も
2019年に開催されたシーインのイベントへの参加者ら。
David M. Benett
TikTokで短期間のうちに地位を確立した企業の中にはファストファッションのブランドもある。
インフルエンサー・マーケティングを主体とするHypeAuditorが2020年を通して1200万のインスタグラムアカウント、450万のYouTubeチャンネル、520万のTikTokアカウントを分析したところ、2020年にTikTokで一番話題になったのは前出のシーインだった。トップ10には他に、カラーコンタクトレンズのブランドであるTTDeye(第5位)、ファッションノバ(Fashion Nova)(第7位)が入った。
シーインはメンズ、レディース、キッズ向けに信じられないほど低価格で衣服を販売しており、例えばレディーズのTシャツの価格は6ドルから、ドレスの価格は12ドルからだ。TikTokの購入品動画で登場する頻度ではトップクラスのブランドで、「sheinhaul」のハッシュタグは視聴数が23億回、「Shein」のハッシュタグは79億回にも上る。
「sheinhaul」のタグで上位に表示されるある動画では、600ドルで多くの商品を購入しているが、商品点数があまりにも多いので6回のシリーズに分けられているほどだ。ちなみに、シーインのトレードマークであるジップ付きパウチに入った商品を全て並べた1回目の動画だけで、800万の視聴回数を稼いでいる。
シーイン自体もアカウントを持っており、定期的に商品動画を投稿している。フォロワー数は170万人。フォロワー数とは無関係にSNSユーザーが参加できるアフィリエイトプログラムもあり、売上につながればその1割から2割をクリエイターが受け取ることができる。この件についてシーインにも複数回コメントを求めたが、回答はなかった。
本稿執筆にあたり取材したTikTokの動画クリエイターたちの中には、こうした衣服の過剰消費はファストファッションに限ったことではない、と言う者もいる。視聴数75億の「haul」と比べれば遠く及ばないが、16億を超える「Thrifting(古着の買い物)」というトレンドもある。
リリー・ファンは言う。
「新品をファッションショップで買うよりも、リサイクルショップで古着を買う方がはるかにマシだと思っている人は多いのでしょう。ただ、古着であっても何も考えずにどんどん買って世界に発信してしまえば、常に服が入れ替わる巨大なクローゼットを持つというイメージ自体を永続させてしまいますよね」
GlobalData Retailの小売アナリストであるニール・ソーンダース(Neil Saunders)は、近年小売業者はリセールプログラムを設定したり、サプライチェーンによる環境負荷を減らすなど、サステナブルな消費を促進しようとしてきた、と言う。
「ただ、買われる衣料品の量を減らすとなると、アパレル側としては利益相反が起きてしまいます。アパレル小売は販売量を増やしたいのであって、減らしたくはありませんから。消費者の購入量を抑えることは、小売業に限らず基本的にあらゆるビジネスモデルに反するものだからです」
ただし、購入品紹介の動画は視聴者にいい影響をもたらすと考える人もいる。前出のジャーナリスト・作家のローレン・ブラボーは、さまざまな体型の人がある商品を着用したらどうなるかがイメージしやすくなったのはいいことだ、と指摘する。
「プラスサイズの人たちにとっては有用な情報になりますし、たくさん買ってみても結局返品ばかりになるよりはいいという意味では、サステナブルな消費につながるとも言えます。
一方で、ファストファッションの企業がよりよい方法で視聴者にアプローチするという責任を果たしてくれたら、そもそも購入品紹介や過剰消費は不要になると思うんですけどね」
(翻訳・田原真梨子、編集・野田翔)