撮影: 中山実華
ビジネスカンファレンス「MASHING UP SUMMIT 2021」(2021年3月18・19日)では「ESG経営と社会への価値創造ストーリー」と題し、ESG経営先進企業がその取り組みや展望を語るトークセッションを開催。
大手化粧品企業では初の女性代表取締役を務める株式会社ポーラ 代表取締役 及川美紀氏と、丸井グループの社外取締役やユーグレナの非常勤取締役CHROを務める株式会社プロノバの岡島悦子氏がESG経営に対する企業の取り組みと、それによって見えてきたものについて紹介した。
企業理念の再定義とビジョンが評価につながった
撮影: 中山実華
ESG経営(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)とは、民間企業が事業を通じてSDGsなどの社会課題解決を促せるよう、国内最大の投資組織であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が設定したもの。その動きが保険会社、投資信託などの機関投資家にも伝わり、投資条件として企業活動の地球環境への影響や持続的成長が厳しく追求されるようになっている。
「情報の透明性が、とても求められるようになりました。そのために、フィロソフィーやパーパスを明確にする企業が増えています」と及川氏は補足する。
ポーラでは、企業理念である「Science. Art. Love. 私たちは、美と健康を願う人々および社会の永続的幸福を実現します」の考えのもと100周年を迎える2029年ビジョンとして「私と社会の可能性を信じられる、つながりであふれる社会へ」と掲げている。
「人と社会、そして地球を心づかいによってケアする『We Care More』というコミュニケーションワードをつくりました。このワードは、投資家の方々にも高く評価していただいています。つくりたい社会とゴールを示すことは、企業のあり方の根底として今、非常に強く求められています」(及川氏)
「将来世代」をステークホルダーに引き入れる
株式会社プロノバ 代表取締役社長、ユーグレナ 取締役CHRO(非常勤)、丸井グループ社外取締役などを兼務する岡島悦子氏。ESG経営は効果的に粘り強く発信していくことも重要だと語る。
撮影: 中山実華
岡島氏が社外取締役を務める丸井グループでは、顧客と株主・投資家、地域・社会、取引先、社員、そして将来世代という6つのステークホルダーの「利益」と「しあわせ」が重なり合う部分の調和と拡大を目指すことで、企業価値の向上につなげることを明確にした。このことも功を奏し、世界的な社会的責任投資(SRI)株式指数であるダウ・ジョーンズのサスティナビリティ・ワールド・インデックスの構成銘柄として4年連続で選定されている。
そしてユーグレナでは、18歳以下から募られたCFO(Chief Future Officer:最高未来責任者)が経営に参画している、と岡島氏は話す。
「ESG経営は、投資家だけでなく将来世代から強く求められています。ユーグレナのCFOは、現在の経営者世代が2050年ビジョンを語るのは現実的ではなく、長期ビジョンと同時にもっと身近なことからマイルストーンを決め、しっかり達成していくことが重要だと話しています。未来について語るなら、真に未来の当事者である若い世代と話し合わなければいけません」(岡島氏)
ダイバーシティ&インクルージョンという課題でも、会社のコア業務に関わっていない女性役員の数だけを増やすといったアリバイ的な動きが一部で見られている。しかし、それでは社会は変わらないし、投資家からも将来世代からも「選ばれる企業」にはならない。
「数字をしっかり把握してゴールを共有し、そこまでのマイルストーンを細かく設定していることを、社員一人ひとりのレベルまで落としていくことが必要ですね。ポーラではそのためにトップメッセージや研修を頻繁に行っています」(及川氏)
そうすることで、社員の側からESG経営に関してボトムアップで意見が出されるようになってきたという。丸井グループでも若手の声を吸い上げるさまざまなシステムを用意し、若い世代が中心となってESG経営について考える風潮が醸し出されている。
世代や企業の垣根を超えて、価値を創造しよう
株式会社ポーラ代表取締役の及川美紀氏。「これからの企業はESG経営を戦略としていく覚悟を持たないと、投資家の目も以前よりも厳しくなっていくだろう」と語る。
撮影: 中山実華
後半の質疑応答では、就活生は本気で社会貢献に取り組む企業をどのように見分けたらいいかという質問に対し、「企業が運営するお店に行って店員に聞いたり、OG・OB訪問で質問したりしてみるとよい。社員一人ひとりにしっかり浸透しているかということが目安になる。実際にポーラの新卒採用でも、一昨年前あたりから面接で逆質問されるようになってきました」と及川氏。
岡島氏は「まずは統合レポートを読んでみたらどうか。企業にとってネガティブなことも書かないといけないことになっているので、実情がわかると思います」と回答した。
最後に、「ESG経営は経営という名がついているので経営者がやるものだと思われているかもしれませんが、そうではありません。まずは自分の身の周りから進めてみては」と及川氏。
岡島氏は「ESG経営について、取り掛かり方がわからないという経営者もいます。ESG経営の先駆け企業が効率的なプロセスを公開するなどして、社会への価値創造ストーリーを一緒につくっていければよいのでは」と提言した。
未来を見据えた投資家や若者に選ばれなければ、当然、持続可能な成長は望めない。企業にとって待ったなしで必要となったESG経営に取り組むために、経営者や社員、そして企業同士の垣根を超えて協力し合うことが重要だといえそうだ。
撮影: 中山実華
MASHING UP SUMMIT 2021
ESG経営と社会への価値創造ストーリー
及川美紀(株式会社ポーラ 代表取締役) 、岡島悦子(株式会社プロノバ)
MASHING UPより転載(2021年04月09日公開)
(文・中島理恵)
中島理恵:ライター。神戸大学国際文化学部卒業。イギリス留学中にアフリカの貧困問題についての報道記事に感銘を受け、ライターの道を目指す。出版社勤務を経て独立し、ライフスタイル、ビジネス、環境、国際問題など幅広いジャンルで執筆、編集を手がける。